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今野が流れ取り戻すヘディング弾。優勝を“置き土産”にG大阪移籍へ

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[1.1 天皇杯決勝 京都2-4F東京 国立]

 試合終了の笛がなった瞬間、DF今野泰幸は両手を高々と突き上げて喜びを爆発させた。いつもは見せないような表情で、感情をあらわにした。表彰式では主将のため、チームを代表して天皇杯を掲げた。J2優勝と併せて2冠を達成。シーズンの締めくくりとして、まさに最高のフィナーレを迎えた。

「素直に嬉しかったですね。やっぱり、タイトルは最高に嬉しいもの。終わった瞬間、素直な自分の表情が出た。天皇杯の重み? 掲げられる選手なんて少ないし、運よくキャプテンをやっていたので、試合前から掲げてやろうと思っていた。恥ずかしさもありましたけど、見よう見まねで掲げました」

 今シーズンは主将としてチームを牽引。J2制覇を成し遂げ、1年でのJ1復帰に貢献した今野だったが、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)の出場権までもたらした。この日、F東京は序盤から圧倒的に攻め込みながら、前半13分にカウンターから先制点を許す嫌な展開だった。そんな中、今野が大きな一発を決めた。2分後の15分、左CKのチャンスで、MF石川直宏のキックに頭を合わせて1-1の同点に導いた。これでチームは完全に勢いに乗り、スコアを重ねて前半だけで3-1と逆転に成功した。

 今野のゴールで流れを取り戻した。「チームとして先に点を取られたので、これはまずいという状態だった。誰でもいいので、早く取らないといけないと思った。結果的に自分だったけど、取れて良かったです。なんか、試合が始まってから(チーム全体が)硬かったので、1点取り返して落ち着いた」と胸を張った。

 今野にとっては試練の1年だった。2010年秋、ザッケローニ監督が就任後、念願の日本代表のレギュラーをつかんだ。しかし、同年冬にチームは降格となり、今シーズンはJ2での戦いとなった。「こんな所でやっててもいいのかな、と思ったこともある」。日本代表の仲間が華々しく海外でプレーする中、自身は2部リーグ。不安にさいなまれた。だが、持ち前のひたむきさを発揮し、真剣にサッカーに打ち込んだ。目の前の練習、試合に必死になることでかき消そうとした。夏にはフランス1部のディジョンからオファーを受けたが、F東京のためにと断った。確固たる決意でJ2優勝に導いた。

 J2での戦いでつかんだ成果を『確信』に変えるのが、J1勢との戦いがある天皇杯だった。「この1年で技術的に成長した点? ないですね」と言い切る今野。果たして、どこまでやれるのか-。そんな思いの中、神戸、浦和、C大阪とJ1勢をしっかりと倒し、頂点をつかんだ。自身の集大成を示すことができた。それと同時に、今季限りで退任する大熊清監督への恩返しの思いもあった。「僕自身は、大熊さんとは長いので、寂しさもあるし、ほんと、ありがとうございましたという思いです」と感謝の言葉を口にした。

 迷い悩んだシーズンを、日本一という最高の形で締めくくった。今野は「結果、無駄じゃなかったと思う。J2で1年間やったけど、なんらかの成長はできたと思う。J2優勝できて、最後、集大成みたいな形で天皇杯も取れて、少しだけど成長を感じます。すごく充実していたので、よかったかなと思います。こういう難しい大会を勝ち上がれただけでも、成長してるのかなと思う」と吐露した。もやもやが完全に吹き飛んだ。

 J1昇格とACLという大きなステージをFC東京にもたらした今野だが、来季はG大阪に移籍することが確実になっている。この日は去就について「ここで話すことではないので。もうちょっとしたら発表されると思います」とだけ話し、表情をこわばらせた。近日中にG大阪移籍が発表される見通しだ。「2012年をどんなシーズンにしたい? まだ考えたくないです。休みたいですね。旅行に行ったり、被災地をまわったりします」と今野。8年間プレーしたF東京に大きな“置き土産”をした。

(取材・文 近藤安弘)

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