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[選手権]「福島のなでしこになる」尚志があきらめず泥臭く初戦突破

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[1.2 全国高校選手権2回戦 尚志2-1守山北 ニッパ球]

 第90回全国高校サッカー選手権は2日、各地で2回戦を行い、ニッパツ三ツ沢球技場では尚志(福島)と守山北(滋賀)が対戦した。昨年3月11日の東日本大震災で甚大な被害を受けた福島県を代表しての出場となった尚志はMF山岸祐也(3年)の1得点1アシストの活躍で2-1と競り勝ち、3大会連続のベスト16入りを決めた。3日の3回戦では初のベスト8を懸けて桐光学園(神奈川)と対戦する。

 福島のために、東北のために。目に見えないプレッシャーが尚志を苦しめた。「明るいチームなんだけど、試合前の控室はみんな静かで、僕が盛り上げようとしても反応しなくて……」。仲村浩二監督が振り返ったとおり、硬さの見えた尚志の選手たちだったが、立ち上がりのセットプレーを生かし、先制に成功した。

 前半3分、左サイドからのDF三瓶陽(3年)のFKが逆サイドまで流れたボールを山岸がキープ。DFに囲まれながらも強引に突破し、右サイド角度のない位置からの折り返しをDF峰島直弥(3年)が右足で押し込んだ。

「中に人が見えたので、だれでもいいから押し込んでくれと思って入れた」という山岸の粘りから先制点。徐々にポゼッションを高め、守山北を押し込んでいったが、一瞬の隙を突かれ、同点に追いつかれた。前半16分、守山北はMF辻本駿太(2年)の左FKにFW立本修平(2年)が飛び込み、ヘディングシュート。ワンチャンスを生かし、試合を振り出しに戻した。

 しかし、尚志は動じない。直後の前半18分、またしてもセットプレーから再びリードを奪った。MF金田一樹(3年)の左FKに合わせたのは山岸。夏の全国高校総体で4得点のゲームメーカーが全国大会5戦連発となるゴールを決め、2-1と勝ち越した。前半37分には金田のロングスローを山岸が落とし、FW皿良優介(2年)が左足ボレー。これはゴール上に外れたが、試合の主導権を握り続け、前半を折り返した。

 後半に入ると、風上に回った守山北が反撃に出る。後半5分、右サイドのタッチライン際からMF中村陸(3年)がロングシュート。風に乗ったボールはゴールの枠を捉えていたが、GK秋山慧介(2年)が何とかかき出した。このプレーで獲得した右CK。MF岩澤亮(3年)が左足インスイングで蹴ったボールをGKが前に弾き、立本がこぼれ球を左足ボレーで狙ったが、シュートはゴール上に外れてしまった。

 何とか同点に追いつきたい守山北は後半19分、FW小林大朗(3年)に代えてMF吉田悠斗(3年)を投入。吉田は右サイドに入り、中村が中央に移って1トップの立本と近い位置を取り、2トップ気味の布陣で攻勢を強めた。後半27分には中村が思い切りよく右足ミドルを放つが、GKがセーブ。同31分にも中村がドリブル突破から絶妙なスルーパスを通し、岩澤が決定機を迎えたが、左足のシュートはGKにキャッチされた。

 風下の尚志は前半と打って変わって防戦一方の展開。それでも体を張り続け、何とか1点リードを守り続ける。カウンターからチャンスをつくることもままならず、後半のシュートはゼロ。それでも最後まで集中力を切らさず、2-1で逃げ切った。

「今までは追いつかれたり、逆転されると、いつも負けていたけど、特別な練習はしていないのにみんなあきらめなくなった。最後はゴールを割らせないでくれるだろうと思って見ていた」。仲村監督は、苦しんだ初戦をそう振り返った。

 昨年3月11日に起きた東日本大震災。福島県郡山市に位置する尚志サッカー部も、甚大な被害受けた。校舎の一つは半壊し、グラウンドにも亀裂が入った。震災直後は当然、練習を行うことができず、3月27日から4月4日まで仲村浩二監督の母校である千葉・習志野高のグラウンドなどを使い、練習を再開させた。郡山市に戻ってからも福島原発事故の影響で屋外での部活動ができず、他県のグラウンドを転々としたが、それさえも“特別”なことだった。

「夏までは授業も体育館でやっている中での部活だった。サッカー部やソフトボール部など一部の部活だけが外で。このメンバーでここに来れるかなというところからのスタート。何が起こるか分からない形でサッカーをしている状態だった」

 入部予定だった新入生3人は入学を辞退。震災直後に選手の一人がサッカー部を退部したが、約1か月後に戻ってきた。「みんなこのチームで全国制覇したいと言って残ってくれた」。逆境にもチームは一丸となり、高円宮杯プレミアリーグイーストを戦い、夏には全国高校総体で8強入りも果たした。

 そして3大会連続でたどり着いた全国選手権の舞台。「僕らがなでしこジャパンに元気をもらったように、僕らが福島のなでしこになって、福島県に元気を与えることをテーマにやってきた。今日の試合も後半は攻め込まれたが、耐えることができた。あきらめないところは見せられたと思う」。仲村監督は力を込めた。

 3大会連続の16強入り。次は同校初のベスト8を目指した戦いだ。「特別な年の1勝。次の試合も絶対にあきらめずに戦いたい。ベスト16の壁を越えられていないので、今年こそという気持ちで臨みたい。泥臭くても勝っていきたい」。福島に元気と勇気を届けるために。尚志の挑戦はまだまだ終わらない。

(写真協力『高校サッカー年鑑』)

(取材・文 西山紘平)

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