[1.2 全国高校選手権2回戦 奈良育英5-3富山南 等々力]

奈良育英(奈良)が、粘る富山南(富山)を力でねじ伏せ、3回戦へと駒を進めた。次の試合では桐生一(群馬)と1月3日、三ツ沢で対戦する。

“ずぶとい”チーム同士の試合となった。
前半、奈良育英は初戦と同様、徐々に圧力をかけ、試合のペースをたぐりよせる。コンパクトな布陣を保ち、きっちりした守備をベースに攻撃へ転換する際の迫力が特徴的だ。フィールドプレイヤー10人全体が一枚岩となって前へと押し進む様は、そんじょそこらの力では跳ね返せない「ずぶとさ」を感じさせる。
風上というメリットも幸いし、前半21分にはFW黄山晃宏(3年)が、29分にはMF山田真史(3年)が立て続けてゴール。2点のリードをもって折り返す。

初戦同様、理想的な展開かと思いきや、奈良育英の上間政彦監督は、ハーフタイムのロッカールームで怒鳴り散らしたという。
「前半、やるべきことをやったわけではなかった。風上だからロングシュートをどんどん打っていこうと言ったのに打たない、コーナーもニアを狙っていけといったのに狙わない。ディフェンスも競らない、拾わない。前の試合でできていたことをやらない。こんなのだったら0-0でもやることをやっていた方がマシ」
全国で勝つことがいかに難しいか、痛い目を何度も味あわされている監督自身からの必死の叫びだった。
「全国で勝つのはそんなに簡単なことじゃないんだ!」
この言葉が後半の展開を予言していた。

富山南は3年生が4人と若いチーム。だが、そんなことを感じさせない「ずぶとさ」がある。どんな劣勢になろうと動じない。初戦も逆転された後追いついてPK戦で勝利を得た。流れとは関係なく、気配のないところから“突発的に”ゴールを奪ってペースを強引にたぐりよせる逞しさがある。この試合でも2点ビハインドとなったものの、テンションが落ちる気配はない。

風上に立った後半、富山南がリスクをおかして攻勢に出る。対する奈良育英はこれも初戦同様、守備からカウンターをうかがう。次の点が入ったのは奈良育英だった。後半17分、カウンターからFW黄山晃宏(3年)がこの日2ゴール目。4分後には再び速攻からこちらもこの日2ゴール目となるMF山田真史(3年)が綺麗にシュートを決める。

後半も30分近くを過ぎて0-4。さすがに富山南の心が折れても何ら不思議ではない。
しかし、何度も跳ね返され続けている攻撃の力を緩めず、がむしゃらにぶつかっていく。
すると後半29分だった。左CKからFW清水恒輔(3年)が体で強引にボールを押し込んで1点を返す。これで奈良育英DFの歯車が狂った。その4分後、オウンゴールで2点目を返した富山南は、さらにその1分後、DF土田輝(3年)がGKが飛び出して無人のゴールへ冷静にボールを流し込みスコアは3-4。わずか5分で3点を奪ってみせた。
奈良育英は、これまでのコンパクトな布陣が間延び。一枚岩だった選手間の意思疎通がバラけ、完全に我を失ってしまう。

流れを強引に奪い取った富山南だったが、後半ほとんどフリースペースとなっていた右サイドが命取りになる。79分、奈良育英は左サイドのカウンターから最後は途中出場のFW光明寺真人(3年)がゴールを奪い、力押しで試合を決定付けた。

試合後、上間監督はもどかしそうに言った。
「全国で勝っていくという気持ちが薄い!自分がこれまで何度も経験してきたことを、いくら伝えようと言っても伝わらない。こういう展開になるということは、本当は負けないとわからないから負けた方がいいんだ。でもこの試合で選手たちも学んであろうから、次でいかしてほしい」
奈良育英の力感溢れるプレースタイルは本物だ。今回の危ない経験で、またひとつ逞しさを増したと言っていい。

不思議なのは、初出場、そして3年生が少ない富山南がどうして奈良育英を慌てさせるほどの「ずぶとさ」を備えているかだった。
富山南の前田篤監督がその答えを教えてくれた。
「0-2で迎えたハーフタイム、3年生のMF河上和広(3年)が『倒れるまで走るぞ!』と言ってチームの気が引き締まった。後半、0-4になったときも、ピッチ上の3年生が『顔を上げろ、1点いこう!』と声を掛けていた。それが彼ら4人の3年生の最後の思いだったのでしょう。僕にとって生涯忘れない最高のチームでした」
人数が少ない、いや、少ないからこそ、3年生の叱咤が効いた。初出場初勝利を記録した富山南の今大会だったが、何よりも大きいのは、3年生が全国大会を通して後輩達に残した“気持ち”という名の財産なのかもしれない。
「3年生には…感謝です」
前田監督はそう言って声をつまらせた。

(写真提供『高校サッカー年鑑』)

(取材・文/伊藤亮)

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