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[MOM559]市立西宮DF帷智行(3年)_フットサル全国3位のDFリーダーが点滴打って強行先発

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[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[1.3 全国高校選手権3回戦 市立西宮1-1(PK8-7)近大附 駒沢]

 体調不良を言い訳にするつもりはなかった。市立西宮(兵庫)のDF帷智行主将(3年)が強靭な精神力でチームを牽引した。

 前日2日の山梨学院戦。試合当日の朝から「食事がのどを通らなかった」と体調を崩す中、3-2の激闘を制して宿舎に戻ると、38.9度の高熱があった。点滴を打って安静にし、一夜明けたこの日も「だるさがあった」というが、気持ちでカバーし、近大附の強力3トップを直接FKによる1失点に食い止めた。

 山梨学院戦に続いて先制点を許しながら、3分後に試合を振り出しに戻し、PK戦に突入。一人目のキッカーを任された帷は、大路照彦監督の「これで勝ったぞ。県の決勝と同じだぞ」という言葉も耳に入っていなかったいう。

「一番目というのが決まっていたので、そっちに集中していて、聞こえてなかった。でも、選手同士でも『PKになったら勝てる』と話していました」

 ここ一番の集中力を発揮し、プレッシャーのかかる一人目として冷静にGKの逆を突いた。3-2とリードして迎えた後攻の市立西宮は4人目、5人目が連続失敗。決めれば勝利という状況を2回連続で逃し、まさかのサドンデスにもつれ込んだ。

「(4、5人目の)2人のうちどっちかが入れていたら勝っていた。まさか2人とも外すとは思わなかったし、正直やばいかなとも思ったけど、残りのキッカーはみんな集中力があったし、助かりました」。6人目から10人目まで5人連続の成功。両チーム合わせて20人が蹴ったPK戦を制し、初出場で8強入りを成し遂げた。「うちは逆境に慣れているし、逆境になっても焦ることはないし、臆することもない」。主将として、頼もしいチームメイトに感謝した。

 帷、同点弾を決めたMF後藤寛太(3年)、2トップの一角で先発したFW指田真宏(3年)らは中学時代、西宮SSの一期生として同じクラブチームでプレーしていた。当時のコーチが市立西宮のOBだったこともあり、中学卒業後、そろって市立西宮に進学することになったのだという。

「みんなで選手権に出ようとか、そういうことではなくて、普通に同じ公立校に行こうってなって。正直、選手権は無理じゃないかと思っていたので……」というが、下級生まで含めると、登録25人中、西宮SS出身者は11人。大路監督も「ジュニアユースとの縦のつながりが強いので、同じコンセプトを持って、ボールを大事に運んでいこうというのを中学1年、もっと言えば小学生のころからやっている。それが実を結んだ」と指摘する。

 西宮SSではサッカーと同時にフットサルもプレーしていた。帷らが中学3年時の09年1月には、第14回全日本ユース(U-15)フットサル大会で全国3位に輝いている。西宮SSが準決勝で敗れたSSCヴェローチェ盛岡には、仙台入団が内定している盛岡商(岩手)のMF藤村慶太(3年)が所属し、西宮SSと並んで3位だった清水FCでは、清水商(静岡)のU-18日本代表FW風間宏矢(3年)もプレーしていた。

「サッカーとフットサルは全然違う」と帷は謙遜するが、全国選手権のライバルとなる選手たちと、中学時代に同じ全国大会という舞台でしのぎを削ってきた経験は確実に財産になっている。

 帷ら3年生9人全員は14日に大学入試センター試験を控えている。「サッカーが強くて国公立」を目指す帷は筑波大または高知大への進学を目標にしているが、全国選手権に出場したことで受験勉強の時間が減っているのも確かだ。

「受験のことは気になるけど、サッカーで勝ち上がるのが一番だから。サッカーで結果が出れば、それで満足なので。あと1勝で国立に行ける。それは絶対に成し遂げたい」

 今はサッカーに集中するだけ。悔いを残さないためにも、これまで同様の全力プレーと最後まであきらめない精神で、5日の準々決勝・大分戦に臨むつもりだ。

(写真提供『高校サッカー年鑑』)

(取材・文 西山紘平)


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