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【特集】[リレー総括]08年Jリーグを振り返る(第3回)

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08Jリーグ総括(第3回)
(田村修一/フットボールアナリスト)

 08年のJリーグは最後まで目の離せない混戦となったが、ここ2-3年にはないくらいに優勝ラインが下がった一年でもあった。図抜けた戦力を誇るチームが不在だったという事になるが、シーズン終盤には鹿島アントラーズ名古屋グランパス川崎フロンターレガンバ大阪浦和レッズなど7、8チームに優勝の可能性があった。その中で、優勝した鹿島の安定感ある戦いぶりが非常に目立ったシーズンであった。

 鹿島は、シーズン途中の9月に中心選手の小笠原満男が怪我で離脱したが、マルキーニョスの調子の良さもあって大事な試合で勝ち続けた。小笠原負傷後の9試合を6勝2分1敗と穴を感じさせないような戦いぶり。経験豊富な選手たちは勝負のポイントを逃さずに勝ち点を拾い、全体の力で優勝をさらった。特に第33節(vs磐田)の試合終了間際に決勝点となるヘディングゴールを決めた岩政大樹の活躍はそれを象徴していたと思う。またACL準々決勝で敗退したのも、リーグ戦に集中するための好材料に働いた。

 名古屋は鹿島に比べると選手層が薄かった。そして、優勝争いに食い込んだ経験の少なさからくるメンタル面の弱さ、大事な試合での取りこぼしの多さも優勝を逃す要因となってしまった。ストイコビッチ体制になり非常に良いサッカーをするようにはなったものの、監督自身も話していたが「選手達は好成績で満足していた面があり、何としてでも優勝するという気概に欠けていた」点は否めなかった。川崎Fも自分たちの力だけで優勝を勝ち取る程の安定感はなかった。
 浦和は高原直泰をはじめとして欧州型スター軍団のようなチームを作り上げたが最後チーム内はバラバラで、そのようなチームによく起こる悪い部分が出てしまった印象がある。G大阪はACLに専念していたので、リーグ戦においては最後の最後で力のベクトルが逸れてしまった感じが否めない。FC東京にしてもチームの調子が良い時と悪い時の差が激しく、若手の台頭で9月以降順位を上げた清水エスパルスにしてもシーズンを通して高いパフォーマンスを発揮することはできなかった。選手層の厚さ、若手選手の成長、求心力、優勝争いを戦った豊富な経験の有無という点で、どこのチームも鹿島ほど安定した力を持ちあわせていなかった。

 リーグ戦ではないが、特筆すべきは大分トリニータの九州勢初のナビスコ杯制覇。たとえ資本に恵まれなくとも、シャムスカ監督を信じて評価し、チームが停滞している時にも進むべき方向性を明確にするフロントの一貫した指針や懐の深さが、どれほど重要かを見せてくれた。また、それに対して若い選手たちがピッチ上で応えたチームとしてのバランスがとても良かった。大分は地方クラブのあるべき姿を我々に見せてくれたと思う。

 残留争いもまた熾烈な一年だった。ジェフユナイテッド千葉ジュビロ磐田はシーズン途中での監督交代から上昇気流に乗った。アレックス・ミラー監督はチームのモチベーターとして一流だし、ハンス・オフト監督も以前よりも粘り強いサッカーを見せ、どちらも首の皮一枚の所で来シーズンに繋げた。これは監督交代の成功以外の何物でもない。そしていち早くJ2に降格が決まってしまったコンサドーレ札幌は、攻撃ではそれなりに点を取っていたがやはり守備が弱く、J1レベルの戦いをする上でのバランスに欠けていた印象がある。また東京ヴェルディは「自ら勝利を勝ち取りに行く」というよりは「勝ちを拾おう」とする消極的な試合運びが際立ち、自ら取りに行くようなチャレンジ精神の無さが見て取れた。
 全体として見ると、突出したチームはなかったものの、それぞれはそれほど悪くはなく、来年に向けて良い方向に向かっているチームが多かった印象がある。来シーズンに向けて期待の持てるシーズン終了となった。


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第1回(吉田誠一/日本経済新聞運動部・編集委員)
第2回(セルジオ越後/サッカー解説者)

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