beacon

[選手権]2戦連続ワンサイドの裏にあるシンプル思考(那覇西vs国学院久我山)

このエントリーをはてなブックマークに追加
[1.3第87回全国高校サッカー選手権大会3回戦 那覇西(沖縄) 1-7 国学院久我山(東京B)駒沢]

昨日の九州対決をPKで制した那覇西(沖縄)と2回戦で7点大勝の国学院久我山(東京B)の対戦。「失点してもそれを上回る得点を奪い勝つ見ていて楽しい攻撃サッカー」を掲げる久我山が、またも7点大勝で初のベスト8に進んだ。東京勢としては前回大会の都三鷹に続く2年連続の進出。
5日の準々決勝で前橋育英(群馬)と対戦する。

那覇西のスタイルは「コンパクトに陣形を保ってボールに寄せ奪い、すばやい展開で攻める」。その姿勢は試合を通じて見られた。しかしそれを凌駕する久我山の攻撃力に押し切られた。

MF田邉草民(3年)を中心とする久我山のスタイルは変わらず。彼が自由に動く事で周りの選手がフォローしたりバランスをとる。その意識が選手たちの頻繁なポジションチェンジを生み、結果としてコンパクトにまとまっている那覇西イレブンのDFを混乱させた。前半2分、裏に抜け出した久我山MF森藤一平(3年)が逆サイドフリーの田邉へラストパス。相手の死角に入り込んでいた田邉が易々と先制点を奪う。

さらに中盤からサイドへ展開、那覇西の意識を一方のサイドへ引き付けてからサイドチェンジすることで那覇西を揺さぶる。ゆっくりと最終ラインから展開、勝負どころで鋭いパスを通すゲーム観もみごと。広い視点では両サイドから、狭い局面ではワンツーを駆使し、これが的中。前半のうちに4点を奪い試合を決めた。

「前半はバックパスばかりになり逃げていた。後半はもう前にいくしかないので前に出ろと言った」とは那覇西の松田邦貴監督(35)。後半開始から攻勢に出たのは那覇西。2回戦同様、裏を狙ったロングパスが通らず相手にボールを奪われ続けた前半とうってかわり、つなぐ試みを見せる。9分にはFW仲田一斗(3年)のドライブ回転のきいたロングシュートが決まりファインゴール、1点を返す。しかし、つなぎの中から生まれたゴールというより個人技で奪った単発の感は否めず。

一方、攻めて来るであろう那覇西に対しカウンターを意識していた久我山は、いつもの自分たちのプレーに戻してからペースを戻す。那覇西のミスにも乗じて後半も3ゴールで気付けば2試合連続の7得点。田邉とFW川久保理(3年)の2人がハットトリックというおまけまでついた。

久我山は、攻撃の中心である田邉が目立つことは確かだが決してそれだけではない。「汗をかける選手がいないといけないなか、中盤に汗かき役がそろっている。加えて選手個々が自分の役割を果たしている」と国学院久我山の李済華監督(53)は教え子たちの活躍に目を細める。

ただ「春先が3、4点取るチームだとしたら今はそれが7点取れるようになるまでになった」と成長を認める一方で「ゴールという目標に向かってゲームをいかに理解し選手がペースをつかむか。ゲームを読む力はよくなっていると思うが、選択のミスはまだ多い。私としては今日のゲームはそんなにいいとは思えない」と反省を緩める事もない。

2試合連続7得点は衝撃だ。「サッカーは点取りゲーム。シンプルにゴールできるのが一番いい。だがそうはいかないからボールをつなぐ。ただし、つなぐことが目的なわけではない」一見当たり前の話だが、当たり前だからこそ見失いがちな基本でもある。李監督はこの点を何度も強調した。
「周りを見てボールを止める、というベース。このベースの精度をいかに上げるか。シンプルだがそこが重要」。試合でもトレーニングでもシンプルで当たり前な目的に立ち返り、行動の論拠とする。だから無駄な走り込みもしないし、精神論を押し付けることもない。不必要というより、基本の考え方からすると、より優先されるべき練習や発想がほかにある、ということなのだ。

この2試合で久我山への注目度はさらに高まる。が、弱点がないわけはでない。接戦の展開でこれまでのような余裕をもったプレーができるか。集中力の途切れる時間帯はまだ見受けられる。ベスト8からの戦いで、久我山サッカーの真価が問われる。

(取材・文/伊藤亮)

TOP