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[選手権]「中国地方の雌雄を決する試合」(広島皆実vs作陽)

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[1.3第87回全国高校サッカー選手権大会3回戦 広島皆実(広島) 1-0 作陽(岡山)駒沢]

2年連続8強の広島皆実(広島)と前々回大会準優勝の作陽(岡山)という、現在中国地方を引っ張る2校の対戦。ともに堅守が持ち味の重苦しい1戦は、前半終了直前に虎の子の1点を挙げた広島皆実が勝利、3年連続ベスト8を決めた。広島皆実は5日、準々決勝で四日市中央工(三重)と対戦する。

前回大会でも同じ3回戦で対戦している両校。そのときはスコアレスドローの末、PK戦で広島皆実が勝利している。そのときは壮絶な守りあいとなったが、1年後の再戦でもまた守備の面白さが見られた試合となった。

広島皆実はDF松岡祐介主将(3年)とDF井林章(3年)というCBが守備の中心。体格が強いというより読みとポジショニング、そしてカバーリングでピンチにも動じない。一方作陽は最終ラインの統率がきっちりとれている。両SBはほとんど攻めあがらずにバランス重視。そのスタイルはビハインドを負っていても変わらない一貫したポリシーだ。

がっぷりよつの展開に見えてじりじりと攻勢を強めていたのは広島皆実。セットプレーからチャンスを作る。MF浜田晃(3年)の精度の高いキックが作陽ゴール前を襲う。22分には右CKからFW玉田耕平(3年)がシュート、GKがはじいたボールをさらに詰めるがDFがブロック。あと一歩のところで作陽の堅守にゴールが割れない。
そのまま前半終了かと思われた39分。ついに広島皆実の執念がかなう。浜田のスルーパスが作陽DFの伸ばした足先をぎりぎり抜け玉田へ。GKと1対1になった玉田がこれを決め、結果的に決勝点となる貴重なゴールを奪った。

広島皆実の藤井潔監督(35)は語る。「これまで数年、守備は評価されていて自信も持っていた。一方、広島皆実はやはり攻撃サッカーが伝統なのだとも言われてきた。なので点を取りきることに重点を置いてきた。ただ、インターハイなど全国の舞台では攻守のアンバランスを突かれて負けていたので一度戻した部分はある」。
守備的なゲームは不本意だったかもしれない。しかし、もし攻撃意識への思いがなければ今日の1点は生まれていなかったかもしれない。決勝点を決めた玉田はFWながらここ4試合ゴールがなかった。「県大会の準決勝からゴールがなく、FW陣のレギュラー争いも活性化していたので意地を見せてくれた。1年を通して点を取っているし、パフォーマンスの質で信頼していた」(藤井監督)。攻撃サッカーへの脱皮をはかる思いとその役割を担うストライカーへの期待が生んだ1点だった。

一方、作陽の野村雅之監督(42)の話。
「相手のポジショニングの上手さにやられるので、細かい事はせずカンタンにいこうとした。しかしシンプルにやったことが失敗だったかもしれない。1点取られたことで変わった。理想では前半は0-0。0-1でもよかったが…」。ある意味プランどおり。しかし…「後半点が取りきれなかった。前半はFW辻本裕也(3年)が孤立した。アバウトなボールばかりでトップに収まらなかった。リスクを負いたくなかったから落ち着かせなかった部分がある。だから後半は(負けているし、リスキーでも)ボールを落ち着かせて前半とのギャップを生み点を取りにいった。そのギャップが今年のチームの色だったが…」。

悔やまれるのはDF安良田恭平(3年)のケガ。「守備の要としてだけでなく攻撃の起点にもなる選手。彼とスーパーサブのMF村上綾(3年)でチャンスを作りたかった」(野村監督)。この2人を後半開始から投入。落ち着いた中盤でのボール回しも見られるようになった。しかし、二重、三重、そしてGKと何枚もの壁がそびえる広島皆実DFを崩すにはいたらず、前回大会のリベンジはならなかった。

広島皆実のロッカールームのホワイトボードには
「作陽をリスペクトして 今日は中国地方の雌雄を決する試合」
と書かれていた。「作陽は結果を取り切っているチーム。そんなチームとやって勝てたのは自信になる」(広島皆実・藤井監督)。
同じ中国地方のライバル同士。ホワイトボードにはこうも書かれていた。
「勝敗を決するのは、バランスを超えた何か」
美しさすら感じるほどの広島皆実の守備バランス。しかしそれだけでは勝てない。勝敗を決したのはそれまで2年連続8強という実績に慢心せず、対戦相手を上の存在として尊敬しつつ燃やしたライバル心の強さだったのかもしれない。

(取材・文/伊藤亮)

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