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【連載】南アフリカへのサバイバル(3)FW佐藤寿人(広島)

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 先発にはこだわらない。FW佐藤寿人(広島)はあくまで「スーパーサブ」としてW杯出場を目指している。選手であれば、だれもが先発で試合に出たい。だが、チームの要求と自分の役割を考え、スーパーサブとして生き残っていく覚悟を固めた。

 岡田武史監督就任後、国際Aマッチ9試合に出場しているが、うち先発は1試合のみ。昨年11月18日の香港戦(4-0)では後半15分から出場し、岡田ジャパン初得点も決めた。

 昨年10月、約1年ぶりに代表に招集された際、岡田監督からスーパーサブとして期待していることを伝えられた。指揮官が「最後の10分でどうしても点を取りたいとき、寿人のゴール前での動き出しの鋭さや感覚は他の選手にはないものがある」と指摘する決定力と得点感覚。その期待に応えようと、日々のトレーニングから意識を変えた。

 「去年の10月に呼んでもらったときにそういう話もして、途中出場でチームに貢献できる地位を確立していきたいと思った。少ない時間でもフルパワーでチームに貢献するために、アップの仕方とかもトレーナーと相談して工夫している」。途中出場なら途中出場の準備もあるし、プレーの質も若干の修正が必要だ。短い時間でも結果を残す。それを極めることが、南アフリカへの道を開くことにもなると考えている。

 4年前のドイツW杯前は、23人枠のメンバー争いのことしか頭になかったという。最終的に佐藤は落選。FW巻誠一郎(千葉)がサプライズ選出されたが、自分に限らず、当時のチームは選手が個々のアピールに必死になりすぎていたと振り返る。

 「ジーコのときはとにかく“メンバーに残らなきゃ”“点を取らなきゃ”ということを考えていて、チームのことが見えていなかった。若かったというのもあると思うけど、チームとしてW杯で戦うという意識を持てなくて、メンバーに入ることしか意識できていなかった。これは僕に限らず、みんなそうだったと思う」

 チームとしてのまとまりを欠いたまま臨んだドイツW杯は、1分2敗のグループリーグ敗退。佐藤はその一員ではなかったが、チームづくりの過程で個のアピールばかりを考え過ぎてしまったという反省もあった。

 「今はみんながW杯で戦うことにプライオリティーを置けている。“蹴落として”という雰囲気もないし、みんなでW杯で戦うんだという意識で来れている。もちろん、みんながW杯に行けるわけじゃない。でも、それぞれがメンバーに残ることだけを考えているチームは、本大会に行っても何もできないと思う」

 たとえ最終的にメンバーから落選することになっても、それは23人枠という数字上のことであって、岡田ジャパンの一員としての誇りを失うわけではない。自分がどういう形でチームに貢献するのがベストなのか。その答えを「スーパーサブ」として見い出したのだ。

 「チームにとってプラスアルファにならないといけない。そういう選手がベンチにいると大きい。今はまだノーマルなサブ。まだまだ“スーパー”になり切れていない」。何よりもチームのために。自己犠牲の精神で臨む佐藤は、岡田ジャパンにとって必ず欠かせない存在になるはずだ。

(取材・文 西山紘平)

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