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慶應義塾大ソッカー部主将戦記

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下田-M

早慶戦…両校全力を出し切り、多々困難がありましたが無事に開催成功に終わり、またソッカー部に於いては、7年ぶりの勝利を手にすることができました。雨の中多くの方が観戦に来てくださり、応援してくださった事が何より嬉しく光栄でした。
そして、もっともっと嬉しかったことは、部員が筆者のわがままを聞いてくれたことでした。

「下田M」大事な一戦を前に、全部員が一丸になるべく開かれる決起集会の通称。(下田とは、ソッカー部練習場・合宿所がある横浜日吉の下田地区の事、暗に合宿所を指す。)私はこの集会で一つのお願いをしました。そのお願いを皆が、叶えてくれたんです。以下、「下田M」での私の言葉をご紹介いたします。


まず前期お疲れ様、まだIリーグとかあるけど、ひとまず明後日で一区切りです。長かったね。
そして、ビラ配りやチケット売りご苦労様でした。久保田(副務・ポスターやプログラム制作を担当)もいいやつだから、俺のかっこつけてる写真を使ってくれてありがとな。4年の皆は、ごめん。でしゃばりすぎた。俺だけの早慶戦じゃないのに。ごめんな。3年生以下のみんなは、来年以降、こんな風に自分が町中に溢れる快感を味わってほしい。だから明日は、悔しさを抑えて、その悔しさを今後の練習にぶつけてほしい。早慶戦への深(主務)自身の想いとか痛いほどわかるから、なんか、貰い泣きしてるけど。俺もちょっと長くなる。自分の話をさせてもらうね。

俺は、この早慶戦に数百人の知り合いを呼んだんだ。家族・友人・恩師、その一人ひとりにチケットを郵送するんだけどさ、その宛てた手紙に俺の気持ちを込めたから、まぁいい機会だし、ちょっと読むね。

拝啓
長雨の侯、益々ご健勝の事とお慶び申し上げます。さて、来る6月28日(日)聖地、国立の地で「第60回早慶サッカー定期戦」を開催する運びとなりました。当方の厚かましいお願いにも関らず、遠方より観戦にいらしてくださるということで大変嬉しく思います。本年、主将に就任し、自分自身の精進と共に、組織での目標達成への主将の責務を日々考え、苦悩も抱えながら、取り組んでおります。受験勉強・部活動・仮装(出身高である静岡高校の文化祭)・恋愛、学生生活で経験したこと一つ一つが、こうした現在の取り組みに活かされ、また自分自身の成長の糧となっていると実感できております。
私は、これまで17年間に渡りサッカーに精進してまいりました。そして本年でサッカーに打ち込むことも最後の年となりました。応援してくださる貴兄はじめ、サッカーを教えてくれたコーチや親身にサポートしてくださった恩師、OBの方々、運営に奔走してくれるスタッフ・マネージャー、何より両親・家族へ、17年間の努力の成果と感謝の気持ちを、プレーを通じて示したいと思っております。
思えば、大学に入り、一人暮らしなど環境が変わって、応援してくれる友人の素晴らしさや試合に出る事ができない選手の凄さに気付かされました。本当に自分は親身な部員や友人たちに支えられているなと思い、自己満足だけでは辛く感じる練習も、静高や同郷の皆の期待や応援が、頑張ろうという気持ちに変えてくれました。だからこそ今、大学サッカーを先駆する早慶の定期戦に主将として出場できるまで自分を高められたと思います。是非、私が幼かった日々を懐かしみながら思いっきりはしゃいでください。
それでは2009年6月28日、慶應の魂を誇りに戦い抜きます。国立霞ヶ丘の熱をお楽しみください。
敬具

なんだか、こみ上げてくるものがあるな…。こんな手紙を当たり前のように送れちゃう俺は、たぶん指の先まで慶應の血が流れているんだろうな…。

それから皆からもいろんな激励の返信があった。
「やすへ(大学の友達)、初めてヤスがサッカーしているトコ見に行くよ。頑張れ!」
「最後の早慶戦に臨むやす、三田キャンパス周辺はじめ都内のそこら中にお前のポスター張られて、自分の事のように嬉しかった。ただしあいは、いいカッコしようすんなよ。せっかく高速バス8時間かけていくんだから楽しめる試合を見せてくれよ」
「中川主将へ(歴代主将から)、俺が見た試合では歴代、早慶戦は主将は活躍できない。(思い入れや責任感が強いからかな?)そういう役回りと割り切って冷静にね。俺は勝利を期待するというよりは、慶應の、4年の、やすの生き様を見せてほしい。」
それからこんな返事もあったね。
「中川へ、国立の舞台。ハイテンションでオーバーペースにならないよう冷静に落ち着いて、特に右サイドバックの「田中」はだいたいテンション上がっちゃうからな、うまく面倒見るんだぞ。」
そして、俺の一番大好きな先輩から
「やす、早慶戦は全ての慶應生・早稲田生にとって特別であり、ソッカー部員にとってはもう少し特別であり、4年にとってはもっと特別なんだよな。イキイキプレーするのは早慶戦を純粋に楽しむ世代。1~3年生?ヤスもその頃の気持ちで楽しんじゃえ!って無理だよな~。早慶戦には魔物が住むからな。人生で唯一の、真面目なやつ(選手限定)が得しない試合だ。早慶戦だけは不真面目に。だけど知ってのとおり、早慶戦は部員の為に戦うもの。ヤスは部員に恵まれてんだろ?99%かり返すこと。1%のわがままをいうこと。以上。」

俺さ、俺にとっての1%のわがままは、点を決めること。ってさっきまで言おうと思ってた…。
ゴールこそが見に来てくれた人への何よりの恩返しになるから…。

ただ、変わった。

今、俺には個人目標もなにもない。

チームが勝つように、皆がいいプレーできるよう99%尽すことが主将の務めだし、俺の目標だから。

今、想うことは一つ。

「表彰台の舞台で笑うこと。」

それだけ。もう何も言わない。だからこの1%だけ、最後のわがまま聞いてくれるか?



下田Mから数十時間後。願いは叶えられた。7年ぶりの勝利。三点差の勝利は実に1953年ぶり。しかも最後の早慶戦にゴールまで決める事ができ、なんとMVPまでいただかせてもらった。個人的にはパスミスはするわ、抜かれるわ、しまいには、足が攣ってしまい、主将ながら、実は慶應の選手の中で、一番パフォーマンス低かったんじゃないかなぁと客観的に振り返っています。まだまだ努力が足りなかったなぁと思いながら表彰台へ上がっていましたが、私は本当に素晴らしい環境と、応援に駆けつけてくださった多くの方、最高の仲間にめぐり合いいい刺激を受けてきたんだなぁと温かな気持ちの中、「皆がくれたMVP」と「皆がくれた勝利トロフィー」を表彰台で最高の笑顔とともに掲げました。

決戦前夜は一睡も出来ませんでしたが、昨夜いい夢を見させていただきました。ありがとう。ありがとう。

<写真>主将の「1%のわがまま」は慶大全部員の力によって叶えられた

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