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慶應義塾大ソッカー部主将戦記

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110分の登り方

 最近いろいろな方から「ゲキサカコラム見ています。頑張ってください」と声をかけていただくことがあり、大変嬉しく思います。是非、引き続き「大学サッカーって、こんな様子なんだ」「慶大ソッカー部ってこんなところなんだ」など、大学サッカー選手の生の雰囲気をお伝えできればと思います。

 先日、ソッカー部2年のMF河井陽介(藤枝東高)が「U-20水原・国際ユーストーナメント」で日本代表として3得点1アシストと獅子奮迅の活躍をみせてくれました。世界での経験は、他の部員にも刺激になりますし、また新たな経験値を部に還元してくれることと思います。
 またスペインでの「アルクディア国際ユーストーナメント2009」には、河井に加え、DF田中奏一(2年=FC東京(U-18)が選出され、DF三上佳貴(3年=藤枝東高)とDF黄大城(2年=桐生一高)が関東大学選抜として韓国遠征に参加します。それぞれが、慶應のフィールドから世界を感じ、学び、考え、羽ばたいてほしいと思います。

 さて、昨日、天皇杯の東京都予選1回戦が行われました。対するは、関東2部首位の東京学芸大学。勝ち上がれば、Jリーグのプロチームと真剣勝負ができるチャンスであり、加えて私達にとっては、上記4選手・監督不在という逆境の中、チームの総合力が問われる大事な一戦でもありました。
 学芸大も「打倒慶應」の強い気概を持って臨んできたようで、互いに気持ちがぶつかり合うゲームとなりました。試合は、先制した慶應大でしたが、ロスタイムに同点ゴールを許し、1-1で10分ハーフの延長へ。最後は、気持ちで勝った学芸大に決勝ゴールを許し、残念ながら惜敗してしまいました。

 個人的な意見としては、延長戦は「90分の戦いで勝敗は付く」と感じた一戦でした。語弊が無いように言うと、90分が終わった段階で試合を投げるというわけではなく、90分間に使ったスタミナ・流れ・選手交代・精神的気持ち、これが延長戦の結果に大きく起因すると考えるわけです。
 昨日の試合に於いても、90分お互いに山を上り続け、9合目(90分終了時)で落ち合いました。そして勿論そこまでの山の上り方は、お互いに全く異なるものでしたし、9合目から頂上を目指し方も別々に歩き出しました。ただ頂上に先に着いたのは、学芸大でした。

 富士山に登った事がある方は、よくわかると思いますが、一番きつい時が8合目から9合目付近にやってきます。雪の溶け残りが見えたり、雰囲気が変わることで、頂上を意識し、気持ちの高ぶりからか、無意識のうちにオーバーペースになってしまうようです。
 そして、かなりの確率で、途中で息が上がり、酸素不足とエネルギーの欠乏で、歩き続けられなくなってしまいます。慶應も8合目までは、意気揚々と登ってきました。いい時間帯で先制し、ボールを回しながら時間を使いあっという間に8合目に到達。勝利を確信したわけでもなく、気を緩めたわけでもありませんが、いつの間にか足が止まっていて、最後の最後で並ばれてしまいました。
 9合目の時点で、「頂上だと思って登りきった慶應大」と「まだ先があると思って登ってきた学芸大」。そこから登るラスト1合分の感覚的違いは本当に大きかった気がします。エクストラタイムに入って、半ば高山病に近いハイペースが、最後のひと踏ん張りを阻止し、早めの選手交代が、早いうちに水を飲み干してしまった登山者かのように響いていました。頂きが、遠く遠く感じられてしまいました。

 私達は、大して強いわけでもないのに、まだ何も勝ち取ったわけではないのに、安楽椅子にふんぞりかえってこの一戦を迎えてしまったのかもしれません。「私達は、1部で4位だ」そんな肥大した自尊心が、綻びを生んだのだと思います。関東大学サッカーリーグ後期開幕まで、あと一ヶ月を切りました。山はどこからでも登れますが、近道や易しいルートがあるとは限りません。難所を乗り越えなければいけない時も多くあると思います。そんな時に必要なのは、回り道を選択する経験であったり、きちんとした事前の準備、何より、厳しい崖を這い上がる力をつけることでしょう。敗戦を教訓に、自力を蓄えるトレーニングを積んでいきたいと思います。

※本コラムは不定期更新です。このコラムの感想をこちらまでお寄せください。

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