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慶應義塾大ソッカー部主将戦記

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十月の選択

 関東大学サッカーリーグ第6節対駒澤大学戦が催された10月1日・2日と言えば、殆どの日本企業では「内定式」が開かれます。(名目上、各大学理事の承諾を得ているとはいえ)正式に内定の通知を貰う「内定式」実施日にリーグ戦開催を予定してしまったことは、好ましくありません。

 学生側からすると「厳しい競争の末やっと手にした“内定”」という意識面もそうですが、研修や配属等の兼ね合いから、欠席はできる限り避けたいものです。弊部においても、関西での内定式に参加した後、東京へ移動し試合に臨むことになった部員や、十数時間の座学を受けた上で早退し、試合を迎えることになった選手もいます。不文律ながら10月1・2日といえば「内定式」。事前に予期できた事項ゆえ、日程調整、並びに学連と各部の連携面において課題が浮き彫りになったことでしょう。(この点は来年以降の試合開催に役立てていただきたいと思います。)
 
 10月上旬(1・2日)は、「内定式」であると同時に、現大学3年生にとっては、就職活動が本格化するシーズンのスタートとも言えます。1997年に就職協定が廃止になり、企業独自の採用計画に基づいて新規学卒者の採用ができるようになった現在、日本経団連の倫理憲章を遵守しない企業は、採用活動を早め、“青田買い”に動いています。大学3年生にとっては、一年前のリーマンショックを機に、巻き起こった“100年に一度の経済危機”の煽りから、雇用情勢が悪化し、企業への就職へ躍起にならざるを得ません。特にリーグ戦を始めとした部活動により、就活が遅れがちな各大学サッカー部(体育会)の学生は、一様の不安や焦燥感に駆られます。大学によっては、就職活動をする選手がトップチームから外されてしまうこともあるようで…。「サッカーに集中したい」と思いつつも、「就活」に頭を悩ませる3年生を想うと、本当に歯がゆく感じます。

 また3年生だけではなく「Jを志望する多くの4年生」は、この時期、一刻も早い進路決定を切望し、気を揉む毎日です。一般企業の採用とJのプロクラブの採用時期にこれほど時期的なギャップがあることは、大学生にとって大きな負担ですし、優秀な大学サッカープレーヤーのプロ思考離れを助長する可能性もあります。昨季、ある事件が起きました。いわゆる

“内定切り”

がJのクラブと大学選手間で起きてしまったのです。様々な選択肢がある中で、大学生Aは、プロ志望を選択し、各地のクラブへ練習参加していました。後期リーグ戦が終了した段階で、数クラブが獲得に乗り出し、JのクラブXは、仮内定(いわゆる内々定)を出し、その他のクラブがAと接触することを拒否しました。ようやく進路が決定し、決意を新たにした2月下旬、親会社の経営不振を理由に、X側から突然の内定取り消し。
卒業まで僅か1月の状況で、Aに何ができるのでしょうか。X以外で獲得に乗り出していたクラブも他の選手を獲得済みの状況。翌年、Jへいけるという確約もないですし、まして1年間レベルの高い環境に身を置くこともなかなか難しいこともあり、結果的にAは、翌年の一般企業への進路を選択しました。

 大学サッカーが、今後「トッププロ輩出の役割」を担って行く上では、大学選手がJクラブへの練習参加をよりしやすくできる日程調整などの、プロクラブへの歩み寄りが欠かせませんし、一般企業に対しても大卒採用に関る一律の規則や秋採用の拡張といった制度作りなどを求めたくなります。
ただ何より、Jリーグクラブ側には、現状の問題解決に主張させていただきたい想いが強くあります。プロサッカー選手は、「大好きなサッカー」を職とすることができる“夢”だと思います。しかし、内定切りに留まらず、年々低くなる年俸、“Jリーガーブランド”(スター選手)の減退、13クラブ(全クラブの5割弱)が経常赤字(2008年度収支報告)の組織体を“夢”の存在として受け入れるのに、疑問符が生じかねません。Jクラブを中心に大学・企業三位一体で歩み寄りを見せることが、大切と考えます。それ以上に、やはり「日本サッカー協会」には、新移籍制度の施行や赤字クラブの増加といった、大学生・各J志望者にとっての大きなディスアドバンテージを“サッカー界全体の問題”と重く捉え、現状打破へ舵取りをしてほしいと切に願うところです。

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