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玉乃淳の玉手箱

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「生死の狭間で見たもの」

 みなさん、こんにちは。桜も咲いてだいぶ春らしくなってきました。新学年、新社会人を迎えて、ますます勉強にサッカーに仕事に、やる気を出されている事だと思います。今回は、ぼくのある“恐怖体験”をお伝えします。

 今でも鮮明に思い出すあの試合。当時まだ高校生だった僕は、得体のしれない恐怖におびえていていました。まさに身も凍るような"事件"でした・・・。

 スペインでは高校生の時から、各地域でリーグ戦を行っていて、トップと同じように毎週末に公式戦があります。リーグ戦後は、その地域のチャンピオンチームが集まってトーナメントを行い、その年代の頂点を決める大会が行われるんです。

 僕が所属していたアトレチコは、マドリッド地区の予選を戦っていました。強豪ひしめくエリアですが、その中にとんでもないチームがあったのです。こんなチームと試合をする事を初めから知っていれば、絶対に何らかの理由をつけて試合に帯同していませんでした。だって、まだ死にたくないし、日本にいる家族にもう会えなくなるのはつらいし・・・。

 みなさんの中には、ご存知の方もいるかもしれませんが、スペインにはいろんな「血」の流れた人種が住んでいます。その中にはかなり過激な「血」を持った人たちもいて、彼らの結束は固く、彼ら以外の人種は受けつけない、彼らが住んでいる場所に違う人種が入ることが許されないというエリアもあります。これは現地に住む人なら誰もが把握しなければならない重要な事らしいのです。

 が、何と僕らの試合会場は、そんな場所で行われたのです!当時、何も知らなかった僕はいつも通りワクワクしながら試合に向かっていました。ただ周りの様子が少しおかしいのです。緊張感漂う異様な空気でした。普段、戦術的なことしか言わない監督が「落ち着いてプレーしろ、何があっても冷静に・・・」 とメンタル面ばかり。どうなってるんだ!? なんかおかしいな・・・不安ばかりが僕の頭をよぎっていました。

 そして僕らを乗せたバスがグランドに着くなり、5台ほどのパトカーが会場を警護。それに、古い針金でできたフェンスがグランドを蓋っている・・・。えっ、これから格闘技の試合でもやるの? あっけに取られながら、いざ試合が始まると、またまたびっくり仰天する事実が発覚しました。対戦相手のほとんどの選手がユニホームから見える"肌の色"がおかしいのです。

 何と全身、刺青が入っていたのです!! 彼らも僕らと同じ高校生だよね? とか、この人たちを怒らせたらどうなるんだろう? とか正直、試合どころではありませんでした。しかもスタンドには今にもグランドに乗り込んできそうな彼らの応援団。応援というよりは僕らを罵る汚い野次の連呼・・・。「ポリスマン頼みます! 僕らを守って!!」。祈るような気持ちでプレーしていました。内容も明らかにサッカーというより、カンフーサッカー。足は蹴られ、唾をかけられ、審判のジャッジはすべて相手よりも・・・!

 そんな中、僕の味方の選手たち、監督は僕とは比べ物にならないほど冷静で、しっかり自分たちのサッカーをやっていました。地に足が着かず、浮ついた状態だったのは僕だけでした。結果も4-0で勝利! こんな恐ろしい状況でも、きっちりと勝ち点3を奪いました。たしかにアトレチコのユースは実力もありましたが、当時から感じていたのは何よりスペインの高校生たちはすでに、完全アウェーの中での闘い方を知っていたことです。

 どんなシチュエーションでも、フル代表がみせるスペインの堂々したポゼッションサッカーは、持ち前の技術や戦術、フィジカルに加えて、何か大きな要素があるような気がしませんか!? 少し大げさかもしれませんが、高校生年代から"生死を賭けた戦い"を行い、そこで勝ち抜く術を学んでいるのです。

 日本サッカー協会はスペインサッカー連盟とパートナーシップ協定を締結し、今後は指導者交流など青少年の育成に向けたプロジェクトを推進するようです。非常に素晴らしいことだと思いますが、その方法論だけでなく、彼らスペイン人の根底にあるもの、“魂”というか何というか、言葉では簡単に表せない“生き抜く術”&“勝ち抜く術”も子供たちに伝えてほしいです。

今度、リーガの解説をやることになりました。みなさん、ぜひ見てくださいね。
@バルサTV 09/10リーガ・エスパニョーラ第29節マジョルカvs.バルセロナ[放送予定:4月1日-6日]
@FOOTでのチャンピオンズリーグハイライト ゲストでの出演[放送予定:4月2日-9日]
以上です。お楽しみに!!

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