国を背負って戦った闘莉王
[7月2日27時@ヨハネスブルク]
4試合でわずか2失点。しかもその内の1点はPKでした。日本代表は、世界に称賛される守備を大舞台で披露しました。
抜群の存在感でDF陣を引っ張ったのは、田中マルクス闘莉王でした。選手たちが肩を組んで君が代を歌う姿を見て、胸が熱くなったサポーターの方も多かったと思いますが、これを提案したのは闘莉王でした。
ジョージ合宿では、先発から外れて気落ちしている中村俊輔に話しかけている姿が頻繁に見られました。
もちろん、試合中の活躍は際立ったものでした。闘志あふれるヘディングで、クロスやハイボールを跳ね返す姿は涙ものでした。
そんな闘莉王に、アクシデントが襲いかかっていました。ブラジルの実家でテレビ越しに声援を送っていた父・隆二さんの体調に異変が起き、デンマーク戦の翌日の6月25日に緊急入院していたのです。
地元には大きな病院がないため、200キロ離れた都市の病院に救急車で搬送。一時は深刻な状態だったそうです。
隆二さんの「闘莉王には知らせないでくれ」という願いにより、当初は内緒でした。けれども、闘莉王が家に電話をかけても誰も出ないため、友人に電話をしたことで、入院していることが分かったそうです。
闘莉王はチームメートや岡田監督にも告げず、パラグアイ戦に臨みました。いい流れで勝ち進んでいる状態に、水を差すのを恐れたのでしょう。
「大会中は監督にも言わなかったし、みんなにも伝わらないようにした。今は早く帰って、様子を見たい」
16歳でブラジルから日本に来た闘莉王は、本当に家族思い。「好きな言葉は“お父さん、お母さん”」と言うほどです。誰にも言わず、チームのため、日本のために戦ったことを思うと胸が痛みます。
幸いなことに、隆二さんは、闘莉王がブラジルに着いた日に退院したそうです。日本代表はまさに国を背負って戦うチーム。想像を絶する責任を負い、感動を与えてくれた彼らにもう一度、拍手を送ってください。
(文・矢内由美子)