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Jを目指せ! by 木次成夫

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第224回「JFL後期13節 松本山雅対佐川印刷」
by 木次成夫

冒頭の写真は10月31日、松本山雅対佐川印刷戦の前に流された『長野県の米をPRするCM』のヒトコマです。映っているのは、長野県茅野市出身でスピードスケート五輪メダリストの小平奈緒(所属先は松本市内にある相沢病院)。つまり、松本市近隣随一のスーパースター。長野市内で同日も開催された全日本距離別選手権では、2年連続『短距離2冠』を達成しました。

例えば、小平が『松本山雅所属』になれば、地域密着スポーツ文化の構築のために絶大な効果かあるだろうに、と改めて思いました。せめて、CMに合わせて、競技場内で「XXで活躍中の小平奈緒選手も応援しましょう」といったアナウンスがあれば……。

●10月31日
JFL後期13節
松本山雅 0-1 佐川印刷

≪得点経過≫
50分 0-1(得点:佐川=オウンゴール)
*左サイドからFW大槻紘士(30歳、前・京都)がクロス→MF櫛田一斗(23歳、前・京都産業大学)が豪快に右足シュート→完璧な形と思いきや、ボールはゴールポスト直撃→跳ね返りが山雅選手に当たって、ゴールイン

[試合総括]
佐川の得点は山雅を完璧に崩した末のオウンゴールでした。その後、山雅は何度か決定的チャンスを作りながらも、相手GKの好セーブなどにより、得点には至らず。つまり、勝敗を分けた最大の要因は『運』。佐川は幸運に恵まれ、山雅はツキがなかった。

≪シュート本数≫
山雅=13本(前半=5本、後半=8本)
佐川印刷=13本(前半=6本、後半=7本)。

とはいえ、90分間の戦い方という観点で見ると、佐川の快勝でした。山雅が得意な「守備陣の裏を狙う」形を作らせないことを重視し、カウンター攻撃から得点。山雅からすれば、『やりたいことを、やられた』わけです。つまり、お互いにチームが熟成し、スカウティング(相手分析)が進んだ“リーグ終盤戦ならでは”の試合だったとも言えるでしょう。

例えば、激しいプレッシングでボールを奪いに行くか、“引いて”守るかなど、佐川はスカウティングの成果をもとに、臨機応変なプレーを実践していました。山雅選手がパスを出したい時には、佐川選手は“引いて”いて、出し所は“ほぼ”ナシ。見方を変えると、山雅は後手に回ってしまい、主体的に相手を崩すための選択が出来ず。例えば、『裏』がなくても、あえて同等の競り合いを狙ってパスを出す選択もアリでしたが……。

[試合開始時間の違いによる影響]
後期12節終了時点で山雅は、『4位のHondaと勝ち点差3』の5位。つまり、13節でHondaがアウェーで栃木ウーヴァに敗れ、山雅が佐川に勝てば、勝ち点で並び、得失点差で上回り、『Jリーグ参入条件の4位』になる状況でした。

そして、ウーヴァ対Hondaは、山雅対佐川よりも1時間早い、13時キックオフ。つまり、山雅は同カードの『前半結果を知った上で』試合に臨み、『試合結果を知った上で』後半に臨むことができたわけです。

結果的に、ウーヴァ対Hondaは4-4(前半2-2)。山雅選手たちは「他会場の結果は聞いていました」(主将の柿本倫明)とか。果たして、後半開始時点で『(山雅が)勝てば4位になる』状況になっていたことは、どのような影響を与えたのか? 様々な手段で情報を得たファンも同様ですが……。

ちなみに、試合開始時間はアウェー・チームと相談の上でホーム・チームが決めます。以前、山雅関係者に聞いたところ、開始時間を一般的な13時ではなく14時にしたのは、「午前中に試合をする子供たちなどを含めて、より多くの人が観戦に来やすい時間帯を考慮しました」。

結果として、この日の観客数は、今季最多を約2000人も下回る4269人。いつ雨天になっても不思議ではない気象だったとはいえ、試合告知PR不足では?

[企業サッカー部対一般クラブ]
佐川印刷は昨季9位。元Jリーガーを含めた全員が社員です。午前中に練習をして、午後は“佐川急便の宅配便に使う申し込み用紙印刷などの”業務に就いています。つまり、選手たちは、夢と現実を考慮した末に、山雅のような“Jを目指す”クラブではなく、企業社員を選択したということになります。

選手の人生観は様々ですから、どちらが良いかとは一概に言えません。とはいえ、元Jリーガーを中心に強化を進めてきた山雅が、大卒アマチュアをメインにした佐川に『サッカーの質で完敗』した事実は、チーム強化という観点で再考の余地があると思います。例えば、

FW平井晋太郎(26歳=加入5年目、前・立正大学)
DF高橋弘章(26歳=加入5年目、前・東海大学)
DF金井龍生(26歳=加入4年目、前びわこ成蹊スポーツ大学=山雅MF今井昌太と同期)

[佐川FW塩沢勝吾]
長野県真田町(現・上田市)生まれで、県内トップクラスの進学校である県立上田高校から“サッカーでは日本トップレベルに程遠い”山形大学へ進学。J2の水戸所属3シーズン。08年末に戦力外になり、「声をかけてくれた」(塩沢)佐川印刷に入社しました。現在、28歳。佐川加入1年目の昨季は、際立ったヘディング能力を活かして、JFL得点王。日本全国で子供の『サッカー・エリート教育』が進む中、『奇跡の人』と言っても過言では、ありません。

山雅戦には私設応援団がバスをチャーターして訪れました。スタンドには戦国時代の武将、真田幸村らを輩出した真田家の家紋『六文銭』をモチーフにした“のぼり”旗も――。そして、試合後は塩沢も乗せて上田へ。塩沢いわく「明日(月曜日)はオフなので(他のメンバーとは別れて)、寝に帰ります」(笑)。

サッカー観は様々ですが、塩沢が山雅に移籍していれば(今後、加入すれば)、トップチームの強化という観点に加えて、『長野県のクラブ』として多大な効果が期待できた(できる)のではないかと思いました。ちなみに、塩沢は小中高の教員免許(中高は保健体育)を持っており「将来的には教員として(長野県に)戻るという夢も、あります」とか。とすれば、例えば、『教育委員会から山雅への出向』という形式でプレーできる環境を用意する策もアリ。もちろん、引退後は県内でサッカーを含めたスポーツ振興に貢献してもらうという目論みで――。

[地域密着スポーツ文化のために]
Jリーグ参入を目指すということは、ユース以下の下部組織もJリーグレベルで整備しなければいけないという意味です。また、松本市近辺の地域性を考慮すれば、サッカーに興味を持ってもプレーする場が相対的に少ない女性のためにジュニアからトップまでの『女子チーム』や、地元生まれが地元で上を目指すための『セカンドチーム』を作る意義も大きいはず。優先順位は考え方しだいですが、ファンの多くが知らない『密室状況』で、Jリーグ参入に向けての様々な動きが進むことには、疑問を感じます。少なくとも、トップダウンの“ONE SOUL”よりも、ボトムアップの“山雅バカ”のほうが魅力的です。

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