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Jを目指せ! by 木次成夫

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第225回「JFL後期14節 松本山雅対町田ゼルビア」
by 木次成夫

町田ゼルビアが競技場問題で「来季のJリーグ参入を断念する」と発表してから、2カ月あまり。その後も選手たちは健闘しています。去る6日の松本山雅戦では、JFL随一の『質が高い』サッカーを披露。後期14節終了時点で2位。試合後、主将の柳崎祥兵はモチベーションを維持している理由に関して、こう口にしました。

「最後に奇跡が起きるかもしれないと思って、頑張っています」。

言うまでもなく、『良い成績を残せば、Jリーグ参入の道が開けるかもしれない』という意味です。選手たちは、もはや孤軍奮闘状況。いわば『成績が悪い金持ちが、成績が良い貧乏人よりも得をする可能性がある』わけですから、悲劇としか言いようがありません。

五輪など国際大会では『政治とスポーツは別』と評されますが、政治とJリーグは密接な関係があります。例えば、公的施設(競技場や練習場)の使用料が定額か割引かどうかで、クラブ運営上に大きな影響を与えます。いわば、『税金も戦力』。すべては、Jリーグの理念でもある『地域密着』ということなのでしょうが……。

もはや、“Jを目指す”ムーブメントは『税金の無駄使いになるかもしれない競技場ありき』という状況になってしまいました。それで良いのでしょうか?

●11月6日 
JFL後期14節
松本山雅 1-2 町田ゼルビア

≪得点経過≫
17分 0-1(得点:ゼルビア=FW勝又慶典)
*勝又→右MF鈴木崇文→ゴール方向に走る勝又に鈴木が絶妙のタイミングでパス→勝又は的確なトラップで守備陣を振り切り、右足シュート

54分 1-1(得点:山雅=MF木村勝太、22歳=加入2年目、前・甲府)
*右サイドから鐡戸裕史がクロス→ヘディング・シュート

75分 2-1(得点:ゼルビア=勝又)
*ドリブルで左サイドをゴールライン付近まで切り込んだ後、角度のない位置からシュート。ボールはニアサイドを抜けてゴールイン

≪シュート本数≫
山雅:17本(前半=3本、後半=14本)
ゼルビア:14本(前半=10本、後半4本)

[試合総括]
前半はゼルビアが圧倒したものの、後半は山雅が大健闘。52分(後半7分)にゼルビアの右SB藤田泰成(28歳=今季加入、前・徳島)がシュートを手(ハンド)で防いで退場(レッドカード)になった後は、何度も決定的シーンを演出しました。決勝点は、ゼルビアのカウンター。山雅にとっては『引き分けは敗北に等しい』状況でしたから、カウンターの失点は致し方ない面も、あります。ただ、13節の佐川印刷戦に続き、『右サイドからの失点』というのは、反省→分析→修正できなかったという観点で問題ですが……。

≪攻守の切り替え≫
両チームとも、志向しているのは『攻守の切り替えが速いサッカー』です。ただ、局面での動きは、かなり違いました。ゼルビアはショートパスで“つなぐ”ことも選択肢にある一方で、山雅はロング・フィードが主体。試合会場(アルウィン)のピッチ・コンディションは劣悪でしたが、ゼルビア選手たちは『初めてのアルウィン』と感じさせないほどのボール・コントロールを披露。もしピッチが良好だったら……、パスワークは“さらに”際立ったかもしれません。

≪山雅はスター軍団?≫
選手の『輝かしい経歴』という観点では、敗北した山雅の方が上でした。ゼルビア首脳陣に見る目があるのか、選手たちの自覚の問題か? 

山雅のスタメン:GK石川扶(26歳=加入2年目、前FC刈谷)以外の10人はJリーグ経験者(元Jリーガー=8人、現役Jリーガー=2人=期限付き移籍中)

ゼルビアのスタメン:元Jリーガー=6人

ちなみに、ゼルビアのスタメンで“元Jリーガーではない”5人は以下の通り。それぞれ、山雅にも獲得のチャンスがあった『意外な逸材』ばかりです。

FW:勝又慶典(24歳=加入3年目、前・桐蔭横浜大学)
*大学4年時は『関東大学リーグ2部』のスター。昨季は前期2節の試合前練習で負傷し、後期16節のTDK戦で復帰するまで、リハビリの日々。ファン・サービス精神も抜群で、ゴール後は即、スタンド方向へ走る。松葉杖を使いながら、グッズ販売ブースに立っていたことも――。

ボランチ&主将:柳崎祥兵(26歳=加入4年目、前・駒澤大学)
*鹿児島実業卒。大学4年時、駒大はインカレ制覇をしたものの柳崎はベンチ外。山雅の竹内優(加入4年目)と阿部琢久哉(加入3年目←TDK)は同期で、共に4年時は主力。昨季までは、新聞配達とサッカーの両立。

ボランチ:大前博行(29歳=加入2年目、前・佐川急便中国)
*佐川急便中国所属の08年、地域決勝(全国地域リーグ決勝大会)に出場したものの、ゼルビアと同じグループで3戦全敗。ゼルビアのセレクションで合格した当時は27歳。

右MF:鈴木崇文(22歳=今季加入、前・東京学芸大学)
*神奈川県の桐蔭学園卒。成長著しいレフティ。

左SB:久利研人(20歳=加入2年目、前・東京Vユース)
*もともとはFW。後期にJFL初出場を果たしたばかり。

[後期は山雅の方が好成績]
後期14節を終えて、ゼルビアは2位、山雅は6位(4位との勝ち点差は7)。とはいえ、実は後期の成績は、山雅の方が勝っています。

ゼルビア:8勝1分5敗
山雅:8勝3分3敗

『サッカーの質』も考慮すると、両チームの差は興味深いし、サッカーの難しさと魅力を体現しているとも言えるでしょう。例えば、パスを細かく“つなぐ”ということは、ミスが起きやすい。その一方で、ロング・フィードは失点の可能性を限りなくゼロにするという観点では効果的です。

[土曜日午後開催の効果]
この試合は土曜日の13時開始でした。試合後、松本市内の繁華街で飲み会などを楽しむファンを見て、土曜開催効果を実感。例えば、東京などの企業で働いている人たちが『里帰り観戦』をする場合、「土曜日開催なら、実家に泊まって、ゆっくりと飲み会もできる」というわけです。仕事によって休日は様々ですが、一考する価値はあると思いました。例えば、アマチュア・メインのチームとの対戦は相手選手の仕事を考慮して日曜日午後開催、プロが多いチームとの対戦は土曜日開催とか。年に数回でも『ゆっくり里帰り観戦』できる日程を組めれば、(子供に会える)ファンの親も喜ぶのでは?

[JFLだからこそ、やり易いこと]
クラブ運営、あるいは試合開催という観点でみると、JリーグよりもJFLの方が“はるかに”やり易いことは多々あります。上記した試合日程の他、競技場での飲食品販売、グッズ製作など、ほとんどのことがクラブ主導で可能。スポンサーが少ない(動く金が少ない)分、規制も少ないということですが……、せっかくなら、JFL所属時を上手く利用しないのは、もったいない。例えば、山雅ホームでゼルビアと対戦するなら、ゼルビア・ユース以下の夏休み合宿と日程を合わせて、トップから子供まで『松本決戦』。長野県のキレイな空気と水、そしてアルプスの麓ゆえの気候は、町田の人たちにとって、魅力的だと思います。そして、ファンは試合後に温泉で1泊。不況ならではの“お得なパック”で――。

[写真]試合中、松本空港に着陸するFDA機

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