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Jを目指せ! by 木次成夫

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第230回「JFL後期17節 ソニー仙台 3-2 松本山雅」
by 木次成夫

ガイナーレ鳥取の優勝→Jリーグ入会で今季のJFLは幕を閉じました。鳥取へのアクセスの悪さで悩んでいたJFL関係者はホッとし、かつて鳥取に行った経験のあるJリーグ・クラブ関係者の中には「また、鳥取か」と頭を悩ませている人もいるでしょう。

この際、LCC(ローコストキャリア)が注目されていますし、ガイナーレと鳥取空港を「社会実験」として、チャーター航空機の利用を促進してほしいものです。そして、秋田、松本、長崎などが後に続けば、地方空港の活性化つながるのでは? 

そもそも、欧州のサッカー先進国ではチャーター便を利用した観戦ツアーは「定番」なのに、なぜ、日本では、そうならないのか? 不思議です。

●11月28日 
JFL後期17節 
ソニー仙台 3-2 松本山雅

観客数、1958人(公式発表)。一見して、5分の2程度は山雅ファン。試合後に「最終戦セレモニー」が予定されていたためか、ソニー仙台ファンも多数観戦に訪れていました。ソニーは昨季3位。今季は優勝を目指したものの、結果は14位。その一方で天皇杯ではベガルタ仙台を破り、宮城県選抜として単独チームで出場した国体は優勝。パフォーマンスにムラがあったのは、世代交代の過渡期という事情も影響したのでしょう。見方を変えれば、来季以降に期待ができるということですが……。

≪得点経過≫
29分 1-0(ソニー:FW町田多聞)
48分 1-1(山雅:FW木島徹也)
66分 2-1(ソニー:FW大久保剛志)
82分 3-1(ソニー:FW町田多聞)
90+1分 3-2(山雅:MF竹内優)

[試合総括]
この試合を最後に引退する町田が2得点したことが象徴的ですが、ソニー選手のモチベーションが高かったという印象です。対する山雅は、良い意味での余裕も感じられたものの、
『このチームでは最後の試合だから』という執念を感じさせるほどではなかったです。

地域決勝の一次ラウンドで長野パルセイロの薩川了洋監督が「選手にとっては、生き残りを賭けた大会」と語ったのが印象に残っています。JFLの消化試合も同様だと思いました。つまり、来季の契約を勝ち取るための試合。その観点では、竹内のシュートには意地を感じましたし、齋藤、阿部ら『古株』も健闘しました。

MF齋藤智閣(27歳=加入5年目、前・大阪商業大学)
*スタメン出場

MF竹内優(26歳=加入4年目、前・駒澤大学)
*86分に交代出場し、ロスタイムに華麗なボレーシートで今季初得点

DF阿部琢久哉(26歳=加入3年目、前TDK←駒澤大学)
*怪我から復帰して後半交代出場

山雅にとっては、『最高ではないが、上々のリスタート』だったという見方もできると思います。問題は、クラブ側の考え方ですが……。果たして、彼らを含めて、仕事とサッカーの両立を続けて来た『古株』選手たちは、来季も残留できるのか? あるいは、職場もクラブも去ることになるのか? サッカーも「部下の手柄は上司の手柄、部下のミスは部下のミス」ということになってしまうのか?

『プロは実力がすべて』という人が多いですが、『人気を得ることも、実力のひとつ」。山雅が、なぜ、同レベルの他クラブが羨むほどの人気チームになったのか? かつて在籍した功労者たちを含め、『人間としての総合力』も、大きな要因では?  

[感動的なセレモニー]
試合後、ソニー仙台は監督、主将、今季でチームを去る選手たちがスタンドのファンへ挨拶をしました。それぞれが語った感謝の思いは、率直かつ木訥。何よりも、儀礼的なセレモニーとは対極的な『温もり』が、ありました。中でも意外だったのは、DF天羽良輔(27歳、前・徳島)が途中で感極って声を詰まらせながら、所属した3シーズンを振り返ったこと。ソニー社員ではない、プロ契約選手が泣いてしまうとは……、それほど良いチームだということでしょう。

今季を最後に引退する以下の3人には、それぞれの家族がピッチに登場して花束を贈呈しました。

FW町田多聞(28歳=プロ契約、前ロアッソ熊本、埼玉県出身)
DF木村孝次(30歳、前ブランメル仙台ユース、宮城県出身)、
MF高野和隆(31歳、前・山形商業高校、山形県出身)

プロ契約で所属2シーズンの町田は比較的、落ち着いた挨拶でしたが、夫人と子供とはドラマのワンシーンのように“静かに、かつ、長らく”抱擁。格好良すぎ! という感じでした。また、高野と木村からは満足感、達成感、安堵感、サッカーと仕事を両立し続けることができた喜びなど、良い意味での『アマチュアらしさ』が伝わってきました。

[変貌する山雅]
今季、山雅はホーム試合の平均観客数でリーグトップの5079人を記録。Jリーグ参入は逃したものの、持ち株会が発足するなど着々と成長しているようです。その一方で、ファンと選手の関係は希薄になりつつあるのではないかと感じることも――。例えば、北信越リーグを制した07年シーズンは、試合後にファンと楽しげに会話をする選手が多数いました。しかし、今や試合後のファンへの挨拶は儀礼程度。ソニー戦の後も同様でした。

ソニー仙台のセレモニーに感動したゆえに――、プロとは? Jリーガーとは? そもそも選手もファンも幸せを実感できるサッカー文化とは? 様々なことを考えてしまいました。

[Jを目指すクラブの補強展望]
競技場などの「Jリーグ基準」を考慮すると、現実的に『最もJに近い』クラブは、山雅です。つまり、加入したい選手は、増えて当然。選手は「できるだけ早くJリーガーになりたい」と考えるでしょうから。つまり、クラブが大した努力をしなくても、相対的に優れた選手が集うでしょう。

その一方で、例えば町田ゼルビア(昨季6位、今季3位)、V・ファーレン長崎(昨季11位、今季5位)、ブラウブリッツ秋田(昨季10位=TDK、今季8位)、ツエーゲン金沢(今季9位)などは対応策を早めにフィックスしないと、セレクション人気が落ちる可能性があります。例えば、相対的に高額な報酬をオファーするとか――。

地域リーグに目を向けると、例えば、地域決勝の決勝ラウンドに進出したカマタマーレ讃岐は「Jリーグ準加盟に向けて動いています」(カマタマーレ関係者)。つまり、JFL昇格で先を越されたクラブに追いつき、追い抜くチャンスです。

[写真]ソニー仙台FW町田多聞と家族

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