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Jを目指せ! by 木次成夫

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239回 栃木ウーヴァ・セレクション
by 木次成夫

Jリーガーを夢見て、JFL以下のチームに加入することを目指す選手が考えることは主に以下の3点だと思います。

・Jリーグに近いカテゴリーが良い(①JFL、②地域リーグ強豪)
・『Jリーグ準加盟』が無理なら、『Jリーグを目指すと標榜している』クラブの方が良い
・プロ契約は無理でも、ある程度のプレー報酬が得られる方が良い

とはいえ、現実的には非常に『狭き門』ですから、どこまで妥協できるか、あるいは、どの点を重視するかが、セレクション合格の重要なカギになります。あえて書くと、大学卒業予定選手は「プレー報酬には期待しない」と割り切った方が現実的だと思います。前年度Jリーガーでも、『バイトとの両立』か引退かを選択する場合もあるのが現状ですから。

是非、大学3年生の皆さんには、今のうちにアルバイトで貯金をすることを、お勧めします。

●1月16日
栃木ウーヴァ・セレクション

JFL(Jリーグに次ぐカテゴリー)クラブの可能性と、ウーヴァの現実を、選手たちがどう「天秤にかけるか」という観点で注目していたのですが、『人気上々』とは、なりませんでした。

セレクション会場は、栃木県足利総合運動公園陸上競技場。参加者は34人。地域リーグ・クラブでプレーしていた選手が多く、大学卒業予定選手は少数派。「高校生は1人だけだったと思います」(ウーヴァ関係者)。クラブ側から「選手が特定できる記述は不可」という条件で取材許可を出してもらったため、詳細は書けませんが、少なくとも、昨季JFL15位のチームの割には、今季からJFLに参戦する長野パルセイロとカマタマーレ讃岐よりも、全体的なレベルは低かったです。確認できた範囲では、昨季、JFLチームで主力としてプレーしていた選手は0人。福島ユナイテッド、長野パルセイロ、松本山雅などのセレクションで見かけた選手は複数いました。

人気がイマイチだったのは、セレクション実施に際して、クラブ公式HPで、以下の2項目を記したことも影響したのでしょう。

・仕事の斡旋はありません。
・プロ選手契約制度はありません。

ちなみにウーヴァは平日夜間練習(JFLのクラブチームで平日夜間練習をしているのは、MIOびわこ草津、横河武蔵野とウーヴァのみ)で、プレー報酬なし(昨年度実績)。つまり、基本的に、選手たちは自力でバイトなどの仕事を探して、プレーと生活を両立させなければいけません。その上、近場のアウェーは、試合前日泊ではなく、当日に栃木を発つスケジュールでした。横浜誠監督いわく「JFLで最も厳しい環境」です。

見方を変えると、セレクションに参加したということは、実情を理解した上で、『覚悟ができている』ということでしょう。11対11の紅白戦形式で行われ、3人が「二次面接」に進みました。ポジションはFW、MF、CB。それぞれ1人。いずれも、昨季は地域リーグ強豪チームでプレーしていた選手です。面接結果は不明ですが、3人合計で約90分間も費やしました。

[ウーヴァ展望]
現状としては、昨季以上に厳しい戦いになる可能性が高いです。エース的存在だったFW高橋駿太がFC琉球へ移籍した他、CB中川勇人(前・町田ゼルビア)、MF石舘靖樹(前・栃木SC)らも退団するなど、チーム力低下は明らか。とはいえ、アマチュア・チームゆえ、有望選手を獲得することは至難です。ただ、だからこそ、上を目指す選手からすれば「チャンスがある」チームだと言えます。

横浜監督いわく「うち(ウーヴァ)を、ステップアップの場として考えてほしい」。実際、高橋駿太という好例も、あります。彼はウーヴァ在籍時「自由にプレーさせてもらえるのが楽しい」と言っていましたし、勝利至上主義のチームよりも、持ち味を活かせたことは明らかです。

つまり、例えば、JFL強豪チームのサブよりも、下位チームで試合に出た方が将来につながるかもしれません。それは、主力の引退や移籍などで戦力ダウン必至のMIOびわこ草津などにも言えることですが……。

ウーヴァ同様にプレー報酬0円のアルテ高崎から、プレー報酬があるV・ファーレン長崎や長野パルセイロに移籍した選手も、います。相対的に過酷な環境で実績を残すことは、『格上』JFLクラブにとっては、計算できる即戦力です。

[Jを目指すクラブの選手に必須の資質とは?]
JFL以下のセレクションを見ていて感じることのひとつは、サッカーのレベルは高いものの、大人しい選手が多いということです。言い方をかえれば、サッカーの実力は言うまでもなく、人間としての魅力を含めて、「自分がファンを増やす」くらいの意欲がないと、人気があるチームは作れないと思います。

松本山雅の初練習などで片山真人を見て、改めて実感しました。現在、26歳。07年、近畿大学卒業後に山雅に加入し、その後、FC岐阜、水戸ホーリーホックを渡り歩いて、今季、山雅に『出戻り』移籍。社交性に富んだ天真爛漫な性格に加えて、気配りの良さは相変わらずでした。

例えば、片山が山雅に所属していた07年当時は0歳だった女の子に「大きくなったねえ」(と声をかけた後に抱き上げ)、地元TV局の(若い)女性スタッフには「齢とったねえ」と(ノリが悪い人には言えないフレーズ)……。当然、前者は訳がわからず(親は喜び)、後者は怒ったフリで返しつつも、笑顔。

地域密着とは、こういうことなんだろうなあ、と思ったしだいです。

見方を変えると、ファンと相対的に濃い関係を構築できる時間のあるチーム(つまり、ファンが少ないチーム)は、選手にとって『チャンスの宝庫』とも言えます。ウーヴァ、MIO、そして、アルテ高崎……、もちろん、地域リーグ所属クラブしかり。

[写真]栃木ウーヴァセレクション。MF前田和也(右端、前・山形)ら所属選手も運営に関わった
[JFL]松本山雅初練習

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