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バルサ仲本の「うちなー蹴人紀行」

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「エイサーを見て思ふこと」

 沖縄には「エイサー」と呼ばれる踊りがある。お盆の時期(沖縄のお盆は旧暦の7月13日から15日)に行われる伝統芸能で、一般的に15日の夜、つまりご先祖様をあの世にお送りする夜に若者が各集落を踊り巡らせ、家族の繁栄と無病息災を祈願する。

 色鮮やかな衣装に身を包み、力強く太鼓を打ち鳴らす姿は勇壮で、それに憧れ、演舞する青年会に入る子供たちが今なお耐えない。血気盛んな若者も、いざ太鼓を持たせると一列に整列し、先輩・OBの指導の下、必死になって練習し団結する。私も経験したことあるが、エイサーの吸引力には常々驚かされる。

 文化が熟成されていると享受できる人も増える。するとその文化は途絶えることなく伝達され、また熟成されていく。エイサーはこの繰り返しによって発展してきた。しかし文化は一朝一夕で形成できるものではない。誕生から長い年月をかけ、関わってきた方々に敬意を払いながら、様々な修正を加え形成されていくものだ。

 それはサッカーも同じ。確固たる形を作り出すには時間が必要だ。では時間とはなにか。経験から学ぶことである。

 FC琉球はJリーグ昇格を目指している。と同時に、沖縄のサッカー文化形成の方向性を探っている。そのひとつがベテランの積極補強。チームには我那覇和樹永井秀樹、永井篤志、寺川能人と、Jリーグ出場200試合以上の選手が4人いる。ベテランの存在はチームに大きな影響を与えている。

 MF松内徹。2009年に17歳以下の日本代表に選ばれた彼は、同じポジションの永井秀樹のプレーを常に注目し、刺激を受けている。

「1本のパスも無駄にせず、ポジション取りやトラップの方法まで永井さんのプレーをすべて吸収できるようにしたい」。そう話す松内の眼光は獲物を狙うかのように鋭い。またディフェンス陣は、寺川の存在に圧倒されているという。

「彼の背中を見ていると俺も頑張らないといけないと思わせる。練習中も常にアドバイスをくれ、寺川さんの存在は大きすぎる」。今シーズン、センターバックの一角を担う21歳の伊藤竜司はプレーのみならず、メンタル面の成長も寺川の存在により手ごたえを感じている。

「経験は最大の教師」。ベテラン選手は南国の地で確実に影響をもたらしている。この経験、ぜひ所属選手だけではなく、広く子供たちにも伝えてほしいと私は願う。これまで培われた選手の経験と知識は沖縄サッカー界において財産と言えるからだ。

 我那覇和樹が幼少時代を過ごした那覇市小禄に県内有数の少年サッカーチーム「宇栄原FC」がある。彼もそのチームのOBで、正月には恒例となっている初蹴りに参加し、子供たちとふれあっている。憧れの存在を目の当たりにしようと周りには100人近い子供たちがズラリと並ぶ。

 我那覇の他にも當間建文(鹿島アントラーズ)や當間正人(ビーチサッカー日本代表)、上原彩子(プロゴルファー)など世界の檜舞台で戦う選手がOBとしてグラウンドに立てば一斉に集まる。憧れの選手と身近に接するということは子供たちの向上心を引き出す効果があり、その経験は必ず未来を左右する。だからこそ、琉球の選手たちには積極的に少年サッカーチームを回り、経験と知識を子供たちに伝えてほしいのだ。

 文化の形成は憧れから始まる。それはエイサーも同じこと。また少年サッカーチームに限らず、サッカーとは関係のない公共の場においても幅広く選手を露出させることが必要だ。

 JFLの町田ゼルビアでは選手による絵本の読み聞かせを行っている。ゼルビアは地域に根ざしたクラブ作りを目指し、選手やマスコットは積極的に地元の行事に参加しているとのこと。このような地道な活動は確実に知名度アップの要因となり、今シーズンのゼルビアはJリーグ準加盟承認条件である平均3000人をキープしている(1試合平均3171人)。地域とのスキンシップは非常に重要である。

 一方、FC琉球。今シーズンのホーム戦平均入場者数はおよそ1898人。3000人には到底及ばない。「結果」というボールを投げ入れれば県民は受け取ってもらえる。そう思いたいところだが、そう簡単にはキャッチしてもらえない。ある意味チームは県民に対し「片思い」をしているようなもの。好きになってもらうには、もっと身近に接してもらえるよう工夫し、相手との信頼関係を築くことが必要だ。それが構築出来れば、普段の生活において何気なくチームのことを考えるようになり、試合のない日は寂しいと思わせ恋しくなる。人間と同じなのです。

 今沖縄に新たな文化、「サッカー文化」が構築されようとしている。たしかに沖縄出身プレイヤーがチームにいてくれれば嬉しいが、チームを応援するものにとっては県出身に限らず、すべての選手を応援し関心を持っている。選手それぞれが県民に、そして子供たちに憧れる存在となって欲しい。そして県民に誇りを抱かせるチームになって欲しい。文化を構築するには時間と経験、そして共感が必要だ。

[写真]読谷村座喜味青年会によるエイサー演舞(撮影:金城有佳)

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