beacon

Jを目指せ! by 木次成夫

このエントリーをはてなブックマークに追加

279回 JFL後期17節 松本山雅対ホンダロック
by 木次成夫

Jリーグを頂点にしたムーブメントには、『サッカーを軸にした新たな生活文化の提案』
という側面があります。目標は、より多くの人たちが「以前よりも日常生活が楽しい」と感じること。Jリーグ参入は、目標達成のための手段に過ぎません。参入すれば、人気が飛躍的に高まるとも限りません。

理想は「地域リーグよりもJFLが楽しい」→「J2下位でも楽しい」→「できれば、上位に進出してほしい」という流れ。つまり、参入前にサポーター(ファン)を、どこまで増やせるかが、その後のカギを握ると思います。JFLまでを経験していれば、J2下位でも「強くなった」と感じるわけですから。もちろん、低迷期が長引けば、辛抱できなくなるかもしれませんが……。

●11月27日 JFL後期17節
松本山雅 2-0 ホンダロック

[前節(前期6節)終了時点の順位]
1位:SAGAWA SHIGA(61)
2位:長野パルセイロ(57)
3位:町田ゼルビア(55)
4位:V・ファーレン長崎(54)
5位:松本山雅(53)
6位:琉球(46)


[得点経過]
21分 1-0(得点:CB飯田真輝)
*右サイドをMF久富賢がドリブル突破からクロス→ヘディング

46分 2-0(得点:久富賢)
*左サイドからMF木島徹也→FW片山真人→MF北村隆二とつないで、MF久富が右からシュート

[試合総括]
試合は序盤から山雅ペース。前線からの積極的なプレッシングが効きました。チームの出来が良くない時期は、ボールを奪った後、大雑把に前線を狙うことが多かったものの、この試合は組み立ての意識が上々。両サイド(左MF木島徹也、右MF久富賢)を経由したり、FW片山をクサビに使ったり、ボランチ北村が積極的に前線に上がったり――。

献身的なプレーが持ち味のボランチ小松憲太を今季スタメン初起用したことで、北村らが攻撃面で持ち味を出しやすかったのかもしれません。もし、この試合がシーズン終盤でなければ、「今後が楽しみ」と言いたくなるようなサッカーでした。

≪シュート本数≫
山雅10本(前半2本、後半8本)、ロック6本(前半1本、後半5本)

対するホンダロックは、攻撃面で中途半端。良くも悪くも、つなぐ意識が高すぎたという印象です。後半17分に木島が2枚目にイエローで退場した後は数的有利になったものの、CB飯尾和也を中心にした山雅守備陣を崩しきれず。たとえ大雑把であっても、序盤からハイクロスを多用するなどの打開策はあったと思うのですが……。

[後期17節、上位陣の結果]
SAGAWA SHIGA 2-0 カマタマーレ讃岐
琉球 0-4 長野パルセイロ
町田ゼルビア 1-3 アルテ高崎
V・ファーレン長崎 2-2 栃木ウーヴァ

[後期17節終了時点の順位]

1位:SAGAWA SHIGA(64)
2位:長野パルセイロ(60)
3位:松本山雅(56、+20)
4位:町田ゼルビア(55、+30)
5位:V・ファーレン長崎(55、+21)
6位:ツエーゲン金沢(46)

残り2節(山雅は最終節が震災復興試合のソニー仙台戦のため、勝ち点に関わるのは次節のみ)。Jリーグ参入が2チームになれば、最下位ソニー仙台はJFL残留となり、地域決勝(全国地域リーグ決勝大会)上位3チームがJFL昇格。その一方で、J参入が1チームの場合、地域決勝の上位2チームが自動昇格で、ソニー仙台は地域決勝3位と入替戦。

[山雅人気の要因]
ホンダロック戦の観客数は9606人。この時点で平均7179人(合計114874人)。12月11日のソニー仙台戦(前期1節)で4126人が集えば、目標の『平均7000人』をクリア。昨季の『平均5080人』を大幅に上回るJFL新記録達成は必至でしょう。

なぜ、山雅は際立ってサポーター(ファン)が多いのか? 以下、改めて考えてみました。

≪サッカー+社交性≫
地域リーグ時代にサポーター(ファン)との交流に積極的な選手が“偶然”多数集結したことが、人気上昇の起爆剤になったと思います。中でも片山真人、金澤慶一、今井昌太、佐々木惇、竹内優、高沢尚利ら、性格の良さと実力を兼ね備えた大学新卒が加入した07年シーズンは「地域リーグ版ドリーム・チーム」と評しても過言ではないほど。プレースタイルだけでなく、キャラも多彩でした。もし、愛想がない選手が多かったら、ここまで人気は高まらなかったのでは?  

≪プロセスの魅力≫
多くの人たちが、「Jリーグだから楽しい」のではなく、「Jリーグを目指すプロセスも楽しい」と感じたのでしょう。地域リーグからJFLに至るまでは、いわば『高度成長期』。選手と相対的に密な関係を含めて『昭和』のような魅力もありました。見方を変えると、今後は『停滞期』もありえるにもかかわらず、選手との交流機会を減らしている現状には疑問を感じます。

≪子供の夢は、高齢者の憩い≫
中高年サポーター(ファン)が多いことも山雅の特徴です。スポーツ関係者は『子供の夢』をアピールしがちですが、同時に『高齢者の憩い』にもなるということ。少子高齢化時代に中高年を惹きつけることは、ビジネス面でも重要です。また、進学や就職で故郷と離れた人たちの里帰り観戦は、親子のコミュニケーションを促進する効果もあります。子供からすれば、楽な親孝行です。

≪パルセイロの存在≫
かつて、山雅とパルセイロが北信越1部に所属していた頃、合併して強いチームを作るべきだという意見がありました。それが、今季はJFL上位で共存。昇格1年目のパルセイロは地域リーグ時代のメンバーが主流で、2年目の山雅は大補強を敢行。ところが、リーグ順位はパルセイロの方が上。山雅首脳陣にとっては痛恨の結果でしょうが、ライバルの存在は貴重です。パルセイロの健闘により、山雅の強化が失敗だったことが“より”明白になったのですから。ちなみに、07年以降の5シーズンのうち、3シーズンはパルセイロがリーグ成績で勝っています。

TOP