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ブラジルサッカー通信 by 藤原清美

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サントス敗戦でブラジルの監督が思うこと
by 藤原清美

 クラブW杯決勝で、サントスがバルセロナに0-4で大敗したことは、ブラジルサッカー界に大きな衝撃を与えた。というより、メディア関係者がショックを受け、機会あるごとに「あの試合から見えてくるもの」を、サッカー関係者に問いかけている。

 私も同じだ。最初はブラジル代表マノ・メネーゼス監督から始まった。マノは「この敗戦が、ブラジルサッカーの問題に関し、より深く、より有益な議論に向かわせると期待する。」と語っていた。

 ブラジルでは、いまだにFWやボランチの人数によって『攻撃的だ』『守備的だ』と批判するのに対し、バルセロナはCBがいなくても守備的にプレーできるし、FWがいなくても攻撃的な試合ができるとし、その戦術力の高さを称賛した。また、それが35年をかけて完成されたものであるとし、長期的な視野でサッカーに取り組むことの重要性を訴えた。

 その後、監督組合の年間表彰式が行なわれたため、出席したブラジルの名監督たちにも問いかけた。長年をかけて熟成したサッカーという意味では、94年W杯優勝監督のパレイラも同様だった。

「バルセロナのサッカーは、クライフがプレーした時代から、30年をかけて熟成されたもの。高いボールポゼッション、ボールを回し、スペースを埋め、相手にプレッシャーをかけながらも、攻撃を重視する。そして、個々の技術力の高さを、チームプレーに活かしている」

 それが、ブラジルのサッカー哲学に似ていることから、今のスペインサッカーはブラジルと比較されることが多い。だから、パレイラは「我々も、我々のサッカー哲学を取り戻すことだ」と語る。

 06年にインテルナシオナルを率いてクラブW杯を戦い、バルセロナを破って優勝したアベウ・ブラガ監督は「当時のバルセロナは、まだここまで完成されていなかった」とし、現在のバルセロナの熟成の一つに、個々の選手のクォリティーを挙げた。

「個々の選手が顕著な活躍を見せるのは、チーム全体が良かったとき。バルセロナでは、個々とチームが同時に成長している。対するブラジルは、12歳で注目を集めた選手が、そのまま個人として成長している。それは、下部組織が勝利を優先し過ぎて、育成を忘れていることから、発生する問題だ」と、警鐘を鳴らした。

 一方、02年W杯優勝の際、ブラジル代表テクニカルコーディネーターを務めたアントニオ・ロペスはこう言う。

「単なる1敗とは言わないが、ここで“ブラジルサッカーは変わらなきゃいけない”と、道を踏み外すのが、最も危険なこと。ブラジルサッカーの理想とは、天才的な技術力、スピード、パスワークを活かし、“攻撃は最大の守備”を実践する、あのサッカーショーだ。ここで慌てるのではなく、そのクォリティーを上げていくために、トレーニングと経験を積み重ねることだ」

 こうした議論は、これからも続いていくことだろう。おそらく、14年W杯ブラジル大会でブラジルが優勝を達成する、その瞬間まで。

[写真]監督表彰式で語り合うエヴァリスト・ジ・マセド(ブラジル人初のバルセロナ選手だった)、パレイラ、アントニオ・ロペス

※本コラムは不定期更新です。このコラムの感想をこちらまでお寄せください。

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