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ブラジルサッカー通信 by 藤原清美

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ジーコ、子供たちの笑顔のために
by 藤原清美

 リオデジャネイロは海と山の自然、都会の利便さを兼ね備えた風光明媚な観光都市。サッカーはもちろん、ビーチ、マリン、スカイなど、あらゆるスポーツのメッカでもあれば、カーニバルやボサノバで有名なように音楽のメッカでもある。

 そんなリオの抱える問題が、ポルトガル語で「ファベーラ」と呼ばれるスラムの存在だ。リオのファベーラが危険なのは、市内に点在するファベーラごとに、それぞれマフィアが入り込み、地域を仕切っているからだ。外部の人間が立ち入るのは言語道断。中に住む住人も、大半は善良な市民であるにも関わらず、子供たちがクスリの運び屋などをきっかけに道を踏み外してしまう。マフィア同士の縄張り争いに巻き込まれることもある。

 2014年W杯と2016年五輪の開催を控え、リオは立ち上がった。大量の軍警察を投入して、2010年にはコンプレックス・ド・アレマンというファベーラ、2011年にはホシーニャというファベーラからマフィアを一掃したのだ。リオでも最も大きい、この2つのファベーラは今、貧しくとも平和な暮らしを取り戻しつつある。

 そんなファベーラに住む子供たちを、まったく違った形でサポートしているのがジーコだ。ジーコは2009年3月にファベーラや貧しい地区に住む子供たちのための、無償のサッカースクールのプロジェクトを立ち上げた。

 全国に広がるフランチャイズのシステムを取っていて、申し込んだ自治体やスポンサー企業は、きちんと長期的なビジョンを持ち、誠実に運営していけるのかをジーコが面接したあとで、「ジーコ10」の名前を使い、同じ哲学と方式を持って運営することができる。現在、全国15州に広がり、50以上のスクールが開校した。

 リオでも、マンゲイラやシダージ・ジ・デウスといったファベーラで運営されている。そして先日、新しくホシーニャ校が開校した。イラク代表監督を務めるジーコは現在、イラクとブラジルの往復生活。その忙しい中だが、もちろん開校式に参加した。

 ジーコは言う。

「サッカーを通して、子供たちは社会性や規律を身につける。サッカーはすべての子供たちにチャンスを与えるんだ。人種も貧富の差も越えて、すべての子供たちが、チャンスを得ることができる。それを、自分でつかむことだ。多くの努力を積み重ねることによって、将来につながるチャンスをつかむことができるんだ。もちろん、ここに来る子供たちの中から、将来素晴らしい選手が現れるかもしれない。でも、エンジニアや建築家、その他のプロ、ジャーナリストを目指したっていいんだ。サッカーを通して学んだ、努力するという意識が、そこにつながっていく。このスクールには、そういう効果がある」

 夢を与えるだけでなく、夢をつかむために、子供たち自身が頑張ることを教える。

 子供たちを前に「サッカー選手になりたい子は?」。そう問いかけるジーコに歓声が上がった。貧しく、過酷な環境に生きる子供たちの弾けんばかりの笑顔は、見ていて本当に感動する。

[写真]ジーコ、無償のサッカースクール開校で子供たちに囲まれて

※本コラムは不定期更新です。このコラムの感想をこちらまでお寄せください。

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