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スペインで戦うフットサル選手・荒牧太郎の挑戦 by 荒牧太郎

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フットサルとの出会い
by 荒牧太郎

 今でこそスペインでプレーする機会を得られ、どっぷりフットサル漬けの毎日を過ごせていますが、僕にもフットサルに出会う瞬間がありました。

 フットサルを始めるきっかけ…。それは、当時のフウガ目黒(現フウガすみだ)の監督、須賀雄大さんに声をかけてもらえたからです。大学在学中も、サッカー部の練習の後に、フウガの練習に顔を出し、フットサルもやっていました。当時のフウガは競技系のチームとエンジョイ系のチームを両方持っているような状態で、僕はエンジョイ系のチームでプレーし、フットサルというよりもミニゲームを楽しんでいた感覚です。

 現在はFリーグの準加盟クラブになっているフウガですが、実は僕の出身高校である都立駒場高校のOBと、暁星高校のOBが作ったチームで、高校時代の先輩や同級生がプレーしていました。高校の同級生や先輩達とミニゲームを楽しむ感覚で参加していた僕に、大学卒業のタイミングで須賀さんが競技としてフットサルに取り組まないかと声をかけてくれたんです。これが僕が本格的にフットサルをプレーするきっかけになりました。

 フットサルを始めるにあたって須賀監督は、非常に大事な言葉を送ってくれました。

 それは「全く新しい競技を始めるつもりで取り組んでくれ」という言葉です。

 サッカーとフットサルは、同じように足を使ってプレーする競技。それなのに全く違う競技として取り組む? 一見おかしな話ですが、僕にとっては非常に重要なアドバイスになりました。

『大学まで真剣にサッカーに取り組んできた』という自負が、フットサルに取り組むにあたって邪魔になる可能性があったからです。

 というのは、フットサルとサッカーには、もちろん似ている部分、共通する部分もあります。

 しかし、フットサル独自のルールや決まり事、戦術も少なくありません。それを「サッカーだったらこうなのに…」と考えてしまい、素直に受け入れることが出来なければ、ただでさえ始めるのが遅かった僕の成長を更に遅くすることになったでしょう。

 サッカーとフットサルの一番の違い。それはコートの大きさです。フットサルのコートは縦40m、横20mというサッカーとは比べ物にならないほど、小さなピッチで行われます。つまり、そのコートのサイズに応じて、発揮すべき技術や戦術が違うということです。

 例えば、フットサルではよく足の裏を使います。狭いピッチで激しくプレッシャーを掛け合う為、すぐにボールをコントロールできるように、相手に応じてボールの置く場所を変えられるように、足の裏でボールをコントロールすることが多いです。また、相手のタイミングをずらし、なおかつ強いシュートが打てるトーキックが大きな武器になったりもしますし、ライン際でのプレーや、フォローの位置や動き方、相手のマークを外すフェイクの動きなど、サッカーより狭いスペースでやる分、サッカー以上に1対1の駆け引きがピッチ上では行われています。

 もちろん、サッカーで培ったスキルが活きる場面もありましたが、まずはフットサルに慣れる必要がありました。

 最初の半年くらいは、須賀さんになかなか試合に出してもらえず、苦労したことを覚えています。個人として様々な駆け引きや技術、個人戦術を学んでいると同時に、チームとしての決まり事やセットプレーのサインなど、覚えなければならないことも多かったです。

 今思えば、フットサルを始めてすぐに試合に出られなかったことが、良かったのかなと思います。もちろん試合に出て活躍するに越したことはありませんが、「自分は素人なんだ」と認識して取り組んでいた分、年齢に関係なく、誰にでもアドバイスを求められましたし、『今までのサッカースキルで十分通用するんだ!』という勘違いもしないで済みました。

 その後、チームでブラジル遠征に行き、そこでチャンスを掴んで試合に出られるようになり、リーグ優勝も経験できました。更に、その翌年には半年間のブラジル留学も経験させてもらいます。そこでも様々な経験が出来ましたし、フットサルについてもたくさんのことを学ぶことが出来ました。

 ブラジルから帰国後、タイミング良く第14回全日本フットサル選手権がスタートします。それまでフウガではチームに大きく貢献できていたわけではない僕を、須賀さんは思い切って使ってくれました。チームは決勝トーナメントでは1回戦でバルドラール浦安に3-0で勝ち、準決勝でもデウソン神戸に5-1で勝利を収め、決勝に駒を進めます。決勝相手はFリーグでも唯一の完全プロクラブ、名古屋オーシャンズでした。この試合も6-4で競り勝ち、フウガは地域リーグ所属のチームながら、日本一に輝くことが出来たのです。

 Fリーグの上位3クラブを破って優勝できたことは、チームにとっても大きな自信になりました。また、僕個人も幸運なことに、その大会のMIP賞を受賞でき、そこから更に次のステップへ進むきっかけを掴めました。

 余談ですが、フットサルを始める時、須賀さんからこうも言われていました。

「フットサルだったら日本一だって本気で目指せるぞ!」

 全日本選手権の決勝の後、須賀さんと「まさかこんなに早く実現するとはな!」と話したことをよく覚えています。

 大学を卒業してから始めたフットサル。始めた時期はかなり遅いですが、須賀さんの言葉で真摯にフットサルに取り組めた結果、自分の成長のスピードを早めることが出来たんだと確信しています。

[写真]フウガ目黒で全日本選手権優勝を果たし、荒牧はMIPに選出された

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