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ブラジルサッカー通信 by 藤原清美

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ジーコ旋風、スウェーデンに吹き荒れる
by 藤原清美

 今月11日、親善試合ブラジル対イラク戦が、スウェーデンのマルメで開催された。試合3日前にマルメ入りしたイラク代表を、宿泊ホテルの前で大歓迎したのは、200人以上ものサポーター。道路をふさぐほどのお祭り騒ぎとなった。

 というのも、スウェーデンには16万人のイラク移民が住み、その大半がマルメ在住なのだ。主催はブラジルサッカー連盟で、イラクの人々への大きなプレゼントとなった。

 イラクはこの直後の16日、大事なW杯アジア最終予選・オーストラリア戦を控えていたため、ホームゲームの代替開催地となるドーハで、今月初めから合宿を行っていた。気温40度のドーハから、8度のスウェーデンへ。オーストラリアに対するアドバンテージだった環境への適応期間の長さと、遠征の消耗の少なさを失ってでも受け入れた、今回の試合への招待だった。

 イラク代表を率いているのは、ご存じのとおりジーコだ。「日程は、もちろん理想的ではない。しかし、イラクと親善試合をしたい国なんて、ないんだ。普段は代表同士ではなく、クラブチームと練習試合をするしかない。それが、ブラジルと試合をする機会が持てるなんてね。ブラジルからの招待が来たとき、断る理由はなかった」と語っていた。

 イラク代表の試合をスウェーデンで見られる。しかも、あのブラジルとの対戦だなんて! サポーターの歓喜も、並々ならぬ様子だった。この幸せを呼び込んでくれたのは、ジーコの存在に他ならない。連日、ホテルの前に集まったサポーターは「イラク! イラク!」の大合唱の他に、スター選手、そして、ジーコの名前をコールした。ジーコは気さくに写真やサインに応じ、その幸せを倍増させていた。ジーコの兄であり、アシスタントコーチでもあるエドゥーも「イラクのホームゲームは、全部マルメでやればいいんじゃないか?」と冗談を言うほどだった。

 ジーコとエドゥー、そしてフィジカルコーチのモラシーを含めた3人のブラジル人指導陣は、大きな障害にぶつかっている。サッカー協会が正常に機能せず、国内組の選手が日常的にプレーできないほか、3人とも何か月もの給料未払いにあい、この8月には辞任の話も出た。

 それでも、9月のアジア最終予選・日本戦の事前合宿に旅立つ前日、ジーコは「2014年にイラクをブラジルに連れて来られたら、とてもうれしいことだよね。とても苦しんできた国だし、今なお多くの問題を抱えている国。それに、サッカーを熱烈に愛している国だし、ブラジルサッカーが本当に大好きな国なんだ。だから、W杯に出場することは、もちろん私の経歴にとっても大事なことだが、国にとっても、本当に重要なことになる」と語っていた。

 試合は0-6と、ブラジルの圧倒的な強さの前に敗れたが、ジーコは「これがフィジーに対してなら、心配するところだが、ブラジルの存在はとても大きい。選手たちにはとても良い経験になったことだろう」と語り、監督としての戦績よりも、選手のレベルアップを重視したことを語っていた。

 そしてやっぱり、マルメに集まったサポーターたちだ。スタンドの大半を埋めたイラクサポーターは、自国の選手にはもちろん、カカやオスカル、ネイマールの好プレーには立ち上がって拍手喝采し、ブラジル対イラクの一戦を間近で見られる幸せを、思いっきり楽しむ様子がうかがえた。

 ところで、16日にブラジルと対戦する日本に対して、ジーコがアドバイスを送ってくれた。「ブラジルの選手は技術力が高く、とても器用だから、注意深くマークをしないといけない。ただ、この試合への対応のために、あまり多くを変えるべきではない。日本がこれまでやってきたことを活かして戦えば、良い試合になる」。イラクの選手たちを愛するジーコの心は、今なお日本にも向いている。

[写真]ホテルロビーでファンサービスをするジーコ

※本コラムは不定期更新です。このコラムの感想をこちらまでお寄せください。

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