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スペインで戦うフットサル選手・荒牧太郎の挑戦 by 荒牧太郎

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スペインにおけるユース世代のフットサルの取り組み
by 荒牧太郎

 スペインと日本のフットサルにおける一番の違いは、歴史や環境と言われることが多いです。スペインはW杯でも常に優勝争いをする国ですし、かつてのプロ選手がクラブの監督をしていたり、若い世代のコーチを務めていること、指導者育成システムや各カテゴリーのリーグの整備などにその歴史や環境の違いを見て取ることが出来ると思います。

 その環境や歴史の違いは様々な要素が絡んでいますし、どちらが良いとも一概には言えません。それでもあえて、世界のトップを走るスペインのフットサルに追い付き、追い越す為に強化するべきこと、という視点で書こうと思います。今回は特に若い世代の競技フットサルに焦点をあてて行きます。

 日本のサッカーやフットサルもジュニア、ジュニアユース、ユースなどカテゴリー分けされていますが、スペインでもalevin、infantil、cadete、juvenilとカテゴリー分けされています。juvenilの上がjuniorで18歳から21歳のことを言うで、juvenilが日本のユースに当たるのではないでしょうか?

 なぜ最後に「?」が付いてしまうのか。これは文化的な違いにもなると思うのですが、人と会って話をしたり、一緒にプレーする中で年齢を聞くことがほとんどないからです。juvenilでプレーしているけど実際いくつだろう? とかトップで一緒にやってたけど実は何歳でびっくりした! なんてこともしょっちゅうあります。

 スペインではカテゴリーを超えてプレーすることが、日本ほど大きな壁になっていないという印象を受けます。では、なぜカテゴリーを超えてもスペインの若い選手たちは平気でプレー出来てしまうのか? その秘密はトップチームでもあっても下のカテゴリーであるjuvenilであっても、全く同じ環境でリーグ戦を戦っているからだと思います。

 スペイン1部リーグも2部リーグも14チームごとのリーグ戦(本来1部は16チーム)で、前期後期に分かれてホーム&アウェーで行われます。スペイン1部2部リーグはスペイン全土で行われますが、それ以下の2Bやjuvenilのリーグ戦は、各州ごとのリーグ戦になります。ただし、ホーム&アウェーで行われること、20m×40mのコートのサイズ、20分ハーフのプレーイングタイム(プレーしている時間のみタイマーが進む)というレギュレーションに違いはありません。

 これが若い世代が上のカテゴリーで活躍する1つのヒントになっているんじゃないかと思っています。例えば、juvenilから初めてトップチームの練習試合に参加することになったとします。今まで憧れていた選手と一緒にプレーするだけでも緊張してしまうかもしれません。でも、試合前のアップや、ミーティングは、いつもと同じです。試合が始まってからも普段と大きな違いを感じることはないでしょう。相手のレベルは上がっていますが、味方のレベルも上がっています。

 そんなスペインに対して日本では、下のカテゴリーの選手は、正規コートよりも狭いコートで試合をすることが多く、ピッチも人工芝で、試合もランニングタイムということが多いはずです。トップチームに昇格しても、普段とあまりにも違う状況でプレーせざるを得ない。スペインの子供と、日本の子供、どちらが本来の力を発揮しやすいか。一目瞭然ですよね?

 また移動距離に違いこそあれ、ホームで試合をすること、アウェーで試合をすることの違いも感じられます。更にトップ選手と同じ様に20分プレーイングタイムで試合をするとなると、juvenilの選手には体力的にもかなり厳しくなります。だからこそ、そういう状況の中でどうやって自分の力を発揮するのか、頭を使うようになります。試合状況や時間、ファウルカウント、交代のタイミングや試合の勝負所など、小さい頃から自分で考える力も身に付くでしょう。また、経験のあるベテラン選手からは、試合を読むことや様々な駆け引きを学べます。

 トップチームと同じ環境でやっているからこそ、自分と比較することも出来ますし、自分に置き換えて考えることも出来ると思います。また、実際に自分がトップチームに上がった時も実力を発揮しやすい。

 スペインでは選手登録の面でも、日本とは違っています。例えばトップチーム(スペイン1部リーグ)の試合が土曜日にあった場合、juvenilの選手が1人招集されますが、試合には出られなかったとします。それでも翌日にjuvenilのリーグ戦があった場合、トップに招集されたjuvenilの選手も、その翌日の試合に出ることが出来ます。トップでは出場機会がなくてもjuvenilのリーグ戦で試合経験を積むことができる。こういった部分もスペインと日本の違いだと言えます。

 スペインでは本当に多くのフットサルの試合が行われています。練習は何の為にするのか。もちろん試合の為ですよね。では、その試合をする機会をどれだけ増やすことが出来るのか。若いうちからどれだけ厳しい試合を経験できるかが、日本のフットサルがレベルアップする鍵になると僕は思います。

 もちろん歴史や文化の違いもありますし、スペインがすべて正しいというつもりはありません。ただフットサルを本気でやりたいという人達の為の環境が、少しでも整って行けば良いと思っています。

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