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「ジーコ備忘録」mobile

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 ついにグループリーグ最終戦、ブラジル戦が幕を開けた。序盤の展開は一方的だった。GK川口能活の好セーブで何とか失点を免れるも、ロナウド、ロビーニョ、ジュニーニョ・ペルナンブカーノのシュートが次々と日本ゴールを襲う。重圧を掛けるブラジル。ぎりぎりのところで耐える日本だったが、34分、得点を先に手にしたのは日本だった。FW玉田圭司の挙げた先取点にジーコは大いに喜んだ。


 歓喜が体の中を駆け抜けた。ゴールの瞬間というのは気持ちのいいものだ。力がみなぎった。選手たちにも力が湧いているはずだ。自信が膨らんでいるはずだ。これはいける。私はそう強く思った。
 ブラジルが攻め、日本が耐えるという展開は依然として続いていたが、20分までのように大ピンチの連続というほどではなくなっていた。ブラジルにもリードを許した動揺はあったのだと思う。これが大会初めての失点だった。その影響か、リズムが多少、悪くなっていた。
 我々はまずはハーフタイムまで何とか持ちこたえ、リードして前半を折り返したかった。ロスタイムは1分と表示された。あとわずかで前半は逃げ切れる。あとわずかで一息つける。しかし、そうはいかなかった。
  
 この試合を決めたと言ってもいい1点がブラジルに入るのだ。惨敗への分岐点となる得点が記録されるのだ。
 ロスタイムに入り、ブラジルは自陣右のスローインからパスをつなぎ始めた。カカがドリブルし、ロナウジーニョが左SBのジウベルトに振った。ジュニーニョ・ペルナンブカーノ経由のパスを再び受けたロナウジーニョは今度は右外に浮き球で展開する。このパスの出所へのプレッシャーがまったく掛かっていなかった。
 走りこんでいた右SBシシーニョが頭で折り返す。三都主の対応が不十分。ロナウドがファーサイド寄りでフリーになっている。中澤が背後をとられている。ゴール前に日本の守備陣がいないわけではないが、そろってボールウオッチャーになり、相手の最も危険な男を見逃している。GK川口も出られない。
 シシーニョが頭で中央に戻したボールをロナウドは、フリーで楽にゴール左にコントロールして同点ゴールとすることができた。これほど痛い失点はなかった。
 前半終了まで1分もないところで、試合を振り出しに戻されたのだ。ブラジルから2点を奪う作業を最初から始めなければならない。しかも残された時間は半分の45分しかない。選手たちの気持ちがへこんでいるのが伝わってきた。あと数十秒、耐えていれば……。
 前半終了の笛が鳴り、うなだれた選手たちが控え室に戻ってくる。中田英は怒りの声を発している。川口も何事かを言い返している。選手たちの目はうつろだ。ショックを受けているのは明白だった。あまりにも重い失点だった。
  
 後半が始まると、ブラジルに余裕が戻っていた。パスワークが軽くなっている。ブラジルの才人たちは笑みを浮かべて試合を楽しんでいる。遊び心が膨らみ始めていた。
 こうなると日本はなす術がなくなる。細かなパス回しだけでなく、大きな展開も加えられ、ボールの取りどころがまったくなくなった。MF陣の走力が落ち、パスコースを限定できなくなった。ずるずると引いたDF陣はゴール前で跳ね返すことしかできない。動きに鋭さがなくなり、簡単なフェイントで切り返される。
 53分、ジウベルトからパスを受けたジュニーニョ・ペルナンブカーノが左サイドから右足で強烈なミドルシュートを放った。ボールは無回転で落ちた。川口が伸ばした両手の上を抜けた。見る者の度肝を抜くシュートで、ブラジルが2‐1と勝ち越しに成功した。日本の選手たちの心臓を射抜くような一撃だった。自分たちが2点差をつけて倒さなければならない相手に、目の前ですさまじい破壊力を見せつけられたのだ。
 59分、SBジウベルトに左外を駆け上がられ、右隅に3点目のゴールを流し込まれた。 
81分にはオーバーラップしたフアンとの壁パスを2度、交換したロナウドが、この日2点目のゴールを決めた。過去2戦で動きが悪く批判を浴びてきたエースが、ワールドカップの通算ゴールを14点とし、史上最多タイを記録した。記念のゴールを祝福するブラジル・イレブンのそばで日本の選手たちは惨めな姿をさらした。これ以上の屈辱はなかった。私を含めて全員が恥辱にまみれていた。

 ロスタイムの3分が経過し、試合終了のホイッスルが響いた。これほど悲しい敗戦はなかった。後半は、なす術なくブラジルに翻弄され3点を失った。反撃の足もなく、覇気もなく敗れ去った。ぼろぼろにされて試合終了を待った。
日本は1分2敗の勝ち点1、得点2、失点7、得失点差-5の最下位でドイツに別れを告げることになった。2大会連続の決勝トーナメント進出という夢は打ち砕かれた。
 

 グループリーグ敗退が決まり、ジーコは日本と世界との差を改めて感じた。日本代表はまだまだチームとして、肉体的にも精神的にも成熟していなかったと思い知ったことを明かす。
 ジーコがブラジル戦後の記者会見で「監督が試合に勝つわけでも、負けるわけでもない。選手が試合に勝つわけでも、負けるわけでもない。勝つのも負けるのもチームなのだ」と話した真意とは?
 詳細は新刊『ジーコ備忘録』に掲載。


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※本連載は『ジーコ備忘録』のダイジェスト版です。詳しい内容は本書をご覧ください。毎週土曜日更新予定

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