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W杯予選激闘通信「戦士たちの思い」

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 6月14日、ワールドカップ3次予選突破を決めたタイ戦後、現在の代表の“空気”について聞いたとき、遠藤保仁は次のように話した。
「このチームのまとまりは非常にいい、半端なくいいよ。選手間が積極的にコミュニケーションをとっているし、話しやすい空気のあるチームだから。年齢に関係なく、選手それぞれが思ったことを言い合える空気がある」
 だからこそ、「監督の考えるサッカーへの理解力も高まっている。攻守の切り替えとかは非常に高いところまで来ている」と手ごえを感じられるまでにチームが進化したという。3月アウエイでのバーレーン戦で敗れ、指揮官が「俺流宣言」し、新たなチーム作りが始まってから、わずか2ヵ月余り。特に5月中旬からの約1ヵ月に及ぶ合宿、試合は、チームの絆を深くしていった。
 その中心に立っているのは、紛れもなく遠藤だ。
 長きに渡り、控えの立場に甘んじていたジーコジャパン時代。
「試合に出られないのであれば、代表へ参加しても意味がない」と話す選手もいるが、遠藤は「あのグループにいるだけでも大きい」と、ほぼすべての合宿や遠征へ参加している。
 試合に出られない悔しさ。代表で抱く渇望は、ガンバ大阪での遠藤を輝かせるエネルギーを生んだ。ジーコジャパンが終わるころ、ガンバ大阪での遠藤は、陰ながらチームを支えるボランチから、試合を決める仕事を担うエースへと成長していた。

 遠藤の前代表での経験は現代表のチーム作りにおいて、少なからず影響を与えているに違いない。数多くのベテランや海外組の選手の集まりであったジーコジャパンだが、チームの団結力に課題があったとも言われている。自分の主張を訴えるだけで、相手の意見を聞こうとしない選手もいた。現代表には、そんな窮屈さはない。そのことは遠藤の言葉からも想像ができる。
 先発落ちした3月のバーレーン戦、途中出場しながらも敗戦。「1人1人が自信を持ってプレーしていくことが大事になる」と話す遠藤が、非常に厳しい表情をしていたことが印象的だった。それは過去にあまり見られない顔でもあった。たとえ監督の判断とはいえ、日本代表へ貢献できなかった悔しさが重く漂っていた。
 だからこそ、アウエイでのタイ戦は、「バーレーン戦のような戦い方は絶対にしてはいけない前半で勝負を決める」と決意して挑んだ。セットプレーからの2得点、すべてでアシストしている。
 この試合に限らず、遠藤のCKからゴールが決まることは多い。しかし、そんな試合後の遠藤は「適当に蹴っただけ」と話す。タイ戦後も「まあ、たまたま行ったのがたまたま入ったというか……」と言うに留まっている。その言葉の真意はわからない。もちろんただ、蹴っただけではないのは事実だが……。ただ、そうとぼけるのも、遠藤らしい。自分自身の話になるととぼけてしまうことの多いのが遠藤なのだ。チーム内の立場や役割についても、「俺は、選手の間で、笑いをとるために、適当に言っているだけ。そっちがメイン」と煙に巻く。しかし、考えてみれば、選手たちの会話に顔を出し、笑いを取るのも重要な役割だ。“会話”というボールに数多くタッチしながら、コミュニケーションを深める。それはピッチ上でゲームを作る遠藤の姿と似ている。
 味方をサポートし、汗をかき、黒子として、チームを支える。守備的MFとしてプレーする現在、遠藤の美意識はそこにあるに違いない。

※本企画は不定期更新予定です(W杯3次予選期間中続きます)。感想をこちらまでお寄せください。

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