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内田篤人@BLUES戦記

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 頭の中ではパスカットを考えた。しかし、体が動かなかった。
 3-0と日本がセーフティーリードに入っていたはずの後半42分。気温34度、湿度70%、無風のバーレーン・ナショナルスタジアムに、まさかの場面が訪れた。
 蒸し暑いだけではない。9月6日はイスラム教徒が日中の飲食が禁じられているラマダンの最中だ。その状況で10人での戦いを強いられ、完全に足が止まっているように見えていたバーレーンが、突然に右サイドからロングボールを放り込んできた。

 ボールは今野泰幸の前をすり抜け、左側から詰めてきた背番号14、サルマン・イサへ。至近距離で対峙する内田篤人の上半身が、ほんの一瞬だけ前へ動く。しかし、足が出ない。サルマン・イサのシュートは、いとも簡単に日本のゴールネットを揺らした。

 「頭ではカットに行こうと思ったけど、体が反応できなかった。まずいと思ったら、もうトラップしていたから…」

 水に浸したかのように濡れたブルーの背番号3のユニホーム。失点の瞬間、内田は呆然とした表情を浮かべた。そして、この失点で浮足立った日本は、その1分後に田中マルクス闘莉王がオウンゴールを献上し、1点差まで詰め寄られてしまう。まさか、その先には、ドロー劇が待っているのか――。

 冷汗もののロスタイム3分間が終了。結局、日本が3-2で勝利を得たが、W杯予選の怖さをまざまざと見せつけられた一戦だった。

 「失点のシーンについては、今野(泰幸)さんと話しました。本当はボランチがいればよかったって。(中澤)祐二さん、闘莉王さん、今野さんがそこにいればね、と。でも、自分のところで抑えられれば良かったんですけど」

 試合後、ミックスゾーンに出てきた内田はさばさばとした口調で、そう言った。ロッカールームではベンチで戦況を見つめた川口能活とも話をしたという。
「勝ち点3が取れたから問題ない。アウェイで勝ち点3は大きいという話です」
 さらに内田は繰り返した。「勝ち点3が取れて良かった。全然悪くないと思う。気にしてないです。問題ないです」
 だが、実際の様子は違っていたらしい。中村俊輔は「ウッチーは負けたような顔をしていた」と明かした。
 普段から「僕はディフェンダーなので、まずは守備をしっかりしたい。無失点で勝ちたいという気持ちがある」と口にしている内田のことだ。失点そのものを悔しく思っていることは想像に難くない。ミックスゾーンでの強気な言葉は、落ち込みそうになる自分を鼓舞するものだったのかもしれない。

 けれども、岡田監督が「2失点したが、ひょっとしたらこれが一番いい形だったかもしれない」と総括するように、反省点が出ての勝ち点3奪取は、試合でなければ得られない価値があった。内田も言う。

「試合の流れ的にも、1点目、2点目、3点目といい流れで取れて、良過ぎたくらい。あのままキレイに3-0で勝っても、ね。だから良かったと思いますよ」

 南アフリカへ続くW杯アジア最終予選の道は、最低でも残り7試合。「長いね。でも、アウェイで勝ち点3を取ってのスタートだから全然問題ないっしょ」
 弱冠20歳のサッカープレーヤーが、長く、苦しく、険しい道を歩む覚悟を持つには、コンディションといい、展開といい、本当にいい経験となる試合だった。
 9月6日21時30分キックオフ、マナマでのバーレーン戦。内田篤人は90分間フル出場した。U-23日本代表では面白いほど自在にできていたオーバーラップからのチャンスメーク。今回、その回数は数えるほどだったが、守備では前半40分、エリア内でサルマン・イサと1対1になり、完璧な間合いで攻撃のアイデアを封じるなど、決して悪くないパフォーマンスだった。

 中村俊輔はこう言ってフォローする。「ウッチーは負けたような顔をしていたけど、下を向く必要はまったくないからね」。2失点は今後への引き締め材料。前向きに胸に刻んでおけばいいのだ。

※本コラムは不定期更新です(内田招集時、日本代表W杯予選前後更新を予定)。ぜひ感想をこちらまでお寄せください。

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