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内田篤人@BLUES戦記

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 89分からロスタイムにかけての時間帯、中国人の主審は連続して3枚のイエローカードをカタール選手に出した。

 遅すぎる。日本が3-0とリードし、あとは終了の笛がなるのを待つだけというころになって初めて出た警告に、日本の報道席からはため息が漏れた。
19日、ドーハのアルサッド・スタジアムで午後7時半に始まったカタール対日本。カタールは試合開始直後から、何度も危険なタックルを繰り返していたのだ。ケガ人が出なかったことが奇跡的なくらいだ。

 90分にマジド・モハメド・ハサンに出た警告は、内田篤人の左ひざを狙ったものだった。

「あそこはファウルを誘って時間を稼ぎに行ったんだけど、痛いね、あれは」

 苦笑いを浮かべながら内田は言った。W杯アジア最終予選3戦目にして初めての完封劇。「ドーハの悲劇」の地で、勝ち点で並んでいたカタールを破っての無失点勝利だっただけに、表情も口調も自然と明るくなっていた。日本を出る前から痛がっていた右ヒザ以外には、どうやら新しいケガはしていない。

「中東とはユースからずっとやってきたけど、ああいうのばっかりだった。だけど、試合中に倒れていくのが多いのは日本人。ああいうところで、向こうを倒すくらいじゃないといけない。それはユースのころから思っていたけど、これからも日本が倒してやろうくらいの気持ちでいきたい」

 今年1月に岡田武史監督に抜擢されてから約1年。プレーでも見た目にも線の細さを感じさせていたのは、まだ二十歳なのだから当然と言えば当然だ。

 右サイドで攻守に内田とのコンビネーションプレーが多い中村俊輔は、たびたび内田のことを口にしている。今から10年前の自分、二十歳だったころの自分と、何か重ねて見ていることがあるのだろう。

 俊輔とて、自分のプレーで頭がいっぱいになっていた昔日がある。しかし、今ではチームの精神的支柱へと成長した。カタール戦では前半の早い時間帯、闘将の趣すら漂わせ、ミスした選手に怒鳴っている俊輔がいた。試合後は「ウッチーがなかなかリズムに乗れていなかった」とさりげなくクギを刺しもした。

 内田が時折見せる軽いプレーに物足りなさを感じる向きは、実際のところ少なくない。しかし彼は彼なりに一歩ずつ前に進んでいる。相手を倒そうというくらいの気迫を秘めていたと言い、実際に試合で出せたのがその証しだ。

 そして、現在の「日本代表・内田篤人」を支えるストロングポイントを見せたのは19分だった。右サイドからエリア内へ出したパスで、田中達也のGKまた抜きシュートによる先制点をアシストした。

「パスの前はあまり覚えていないんだけど、俊輔さんか誰かが開いたら、真ん中にあいたところができたんです。狭かったけど長谷部さんが走ってくれたので狙ったら、奥に達也さんも走ってくれていた。達也さんがうまく決めてくれた。でも、狙ったというより、あのタイミングで持っていれば、いつも誰かしら走ってくれるからね」

 ラフプレーにもひるまず、気持ちの入ったいい試合だったと言われると、すぐさまこう返した、

「そうですね。バーレーンで3-0から3-2まで行かれてしまったので、それだけはいやだと。僕はDFなので、アシストできたことよりも無失点で抑えたことがよかったですね。でも、きょうは相手の真ん中がルーズだった。パスを通してもいいのかなというぐらいのルーズさだった。良すぎるのは良くない。ちょっとあたふたしたほうがいいんだよね」

 興味深いのは、オーストラリアが1-0で勝利したことを聞かされたときのことだ。内田は驚いていた。

「え、オーストラリア負けたんじゃないの? バーレーンでしょ? 1-2でバーレーンが勝ったって、カタールの選手が言っていたけど……」

 ドーハと時差のないバーレーンのマナマで行われていたオーストラリア戦は、日本対カタール戦より1時間半早い午後6時のキックオフだった。つまり、ドーハの試合のハーフタイムに結果は分かっていた。カタールの選手がどのタイミングででたらめを言ったのか不明だが、ハーフタイムに言っていたとすれば、日本に気の緩みをもたらそうとする姑息な作戦の一つである。

 「ドーハの悲劇」を3-0で一蹴した夜。もしかすると、内田は新たな「中東らしさ」を発見したかもしれない。

<写真説明>11月19日カタール・ドーハ、決戦前。この試合中の最新写真は最新PhotoNews

※本コラムは不定期更新です(内田招集時、日本代表W杯予選前後更新を予定)。ぜひ感想をこちらまでお寄せください。

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