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素顔のなでしこたち

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 スマートフォン対応の電子サッカー雑誌「ゲキサカプラス」で好評連載中の『素顔のなでしこたち』。日本女子代表(なでしこジャパン)の主力選手のインタビュー記事と撮りおろし写真を掲載したスペシャルコンテンツの一部をゲキサカでも特別公開します。
 女子W杯制覇、ロンドン五輪アジア最終予選突破。国民栄誉賞も受賞し、「なでしこジャパン」が流行語大賞に選ばれるなど、2011年の“顔”となった彼女たちの素顔に迫るロングインタビュー。第6弾は、岡山湯郷BelleのMF宮間あや選手です。
 なお、電子サッカー雑誌「ゲキサカプラス」はiPad、iPhone、iPod touch、ソフトバンク3G携帯、ソフトバンクアンドロイド携帯に対応。アプリ「ビューン」にて閲覧可能です。ゲキサカプラスでしかご覧いただけない写真も多数掲載されていますので、是非そちらでもお楽しみください。


―メニーナに所属したのは、中学2年からですね。
「サッカーの上手な人たちとプレーするのは新鮮で、楽しかったですね。実家は千葉の大網白里ですから、メニーナの練習場まで片道3時間半ぐらいかかりました。帰りはお酒に酔ったサラリーマンの人たちに囲まれながら電車に揺られてました。ぶつぶつ一人ごとを言ってるおじさんもいましたね。席があくと、腰をおろして教科書を開こうとするのですが、すぐに眠ってしまって……。一度寝過ごして終点の駅まで行ったのに誰にも起こしてもらえず、そのまま東京のほうまで戻ってしまったこともあります。今振り返ると、どうしてあんな生活を続けられたのか不思議ですが、当時は高いレベルでサッカーをするために1日1日が必死だったんだと思います。あるとき、メニーナのチームメイトに『あやのボディバランスがいいのは電車に揺れられてるからだね』と言われましたが、どうなんでしょうね」

―NTVベレーザ(現日テレ・ベレーザ)に昇格しますが、2000年に退団します。当時の宮間さんにとって大きな決断だったのでは。
「もちろん、遠いところから通っていたこともありましたが、決定的だったのはチーム内のポジション争いです。言葉で説明するのが難しいのですが、当時の女子サッカー界ではベレーザに関わらず、同じポジションの人を傷つけてでもポジションを奪え、そこまでしないとダメなんだ、という考えがあったと思います。でも、私は仲間を蹴落としてまで自分がピッチに立ちたいとは思いません。そんな思いが監督にどう伝わったのかわかりませんが、ある試合で私はベンチ入りのメンバーから外されました。観客席から試合を見ながら、メンバーから外された悔しさよりも『何か違う』と思ったんです。それが退団の一番大きな理由です」

―しかし、トップレベルになればなるほど、チーム内の競争も激しくなるのは必然でもあります。
「そうですね。ひょっとしたら、私もこれまでに自分が気づかないうちにチームメイトを傷つけたことがあったかもしれません。ただ、競争はあくまでサッカーのプレーですべきだというのが私の考えです。みんなに優しく接して、仲良し集団を作ればいいと考えているわけではありません。優しくてうまくなればいいですが、そんなに甘いものでもありませんから。湯郷では厳しい言葉を発することもありますが、相手をこうさせたいから、自分がこうしようと考えるのは好きじゃありません。私は常に自然体のまま、サッカーをしていたい」

 どこか孤高の薫りを漂わせながら、周囲に対する心遣いを忘れない。そのまなざしはチームメイトだけでなく、ライバルチームの選手たちにも向けられる。W杯で優勝を決めた直後、彼女が見せた行動は世界中のサッカーファンの胸を熱くした。

―優勝が決まった直後、仲間の輪に飛び込むのではなく、アメリカ代表の選手達の健闘を讃えに行きました。
「考えて動いたわけでなく、自然な感情だったんでうまく説明できないんです。もし、あれがPK戦でなかったら、チームの輪に一緒に加わっていたと思いますし、友だちのいるアメリカではなく、ドイツが相手だったら、また違っていたかもしれません。あのシーンについてはよく聞かれるのですが、あまりふれて欲しくないな、というのが本音です」

―この『ゲキサカ』のインタビューで、岩清水梓選手や阪口夢穂選手が「宮間選手がチームを支えてくれた」と語っています。
「ほんとですか? 2人にはなんか贈っておきます(笑)。私がどうしたというよりも、今のなでしこは澤さんはもちろんですが、軸になる選手の誰かが声をあげれば、瞬時にみんなの意識が一つの方向に向かう。個々の判断がチームの隅々にまで行き渡るチームだとは思っています」

―ロンドン五輪が近づいてきました。どんな心境で大舞台を迎えますか。
「もちろん、代表に選考されるのが前提ですが、中国での五輪予選はW杯で優勝した自信と経験で勝てたような気がします。だからといって、飛躍的にチーム力が高まったとは思っていません。五輪では自分たちがW杯チャンピオンであるという意識をどこかにしまって、もう一度チャレンジャーの気持ちで戦いたいですね」

(取材・文 城島充)

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