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素顔のなでしこたち

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 スマートフォン対応の電子サッカー雑誌「ゲキサカプラス」で好評連載中の『素顔のなでしこたち』。日本女子代表(なでしこジャパン)の主力選手のインタビュー記事と撮りおろし写真を掲載したスペシャルコンテンツの一部をゲキサカでも特別公開します。
 女子W杯制覇、ロンドン五輪アジア最終予選突破。国民栄誉賞も受賞し、「なでしこジャパン」が流行語大賞に選ばれるなど、2011年の“顔”となった彼女たちの素顔に迫るロングインタビュー。第7弾は、INAC神戸レオネッサのMF澤穂希選手です。
 なお、電子サッカー雑誌「ゲキサカプラス」はiPad、iPhone、iPod touch、ソフトバンク3G携帯、ソフトバンクアンドロイド携帯に対応。アプリ「ビューン」にて閲覧可能です。ゲキサカプラスでしかご覧いただけない写真も多数掲載されていますので、是非そちらでもお楽しみください。


―2011年FIFA女子年間最優秀選手(以下、バロンドール)を受賞した2012年1月9日のことはよく覚えていますか?
「あのときは、カゼをひいていまして……(笑)。オフに入ったら気が緩んじゃって、1年に1回のカゼのタイミングと重なってしまいました。なので体調的に結構しんどかったんです」

―では朝から辛かった。
「朝から取材がありました。FIFAをはじめ、海外メディアの取材を数件対応しました。着物を着るのに1時間半ぐらい時間がかかったんですけど、則さん(佐々木則夫監督)の奥さんの淳子さんや娘さんが先に着付けをしている間にもインタビューを受けて」

―想像以上にバタバタです。
「頭がポーッとしている一方で、朝から取材を受けて式典があって、食事があって、周りにはテレビで見るスーパースターがそろってて……。だから、正直よく分からなかったです(笑)。でも、行く前から絶対楽しもうと思ってたんですよ。一生に一度あるかないかの、サッカー選手ならだれでも憧れるところですし、経験もなかなかできないことですし。だったら『楽しんじゃえ!』って」

―実際に楽しめましたか?
「しんどい中でも、普段見られない選手を間近で見られて、何人かとは会話もできたので楽しめました。サッカー選手としてテンションが上がりましたね」

―選手はだれと話されたんですか?
「シャビ(・エルナンデス)と(ジェラール・)ピケ(ともにバルセロナ)は普通に英語がしゃべれるので話しました。憧れの選手であるシャビとは、たまたま滞在先のホテルのフロアが同じだったんです。そしたら、たまたま式の前にエレベーターでばったりと会って。すぐに私に気づいてくれて『W杯優勝おめでとう!』と声をかけてくれて。クラブW杯といった彼の出ている試合は、実際に見たことはあるんですが、面と向かって話をするのは初めてだったんです。『いや、ありがとうございます』って感じで返事をしました。英語で、丁寧に、丁重に(笑)」

―では、ピケとはどんな話を?
「写真を撮ってもらったときに話をしました。『いつ来たの?』とか、簡単な会話でしたけどね」

―式典が始まり、席についてからの記憶は?
「(隣席だったアメリカ女子代表FWの)ワンバックとはちょくちょく話をしていましたけど、式典の最中は緊張もしたし、どこか気持ちが落ち着きませんでした。式典自体は1時間以内で終わるぐらいの長さだったんですけど、則さんが(2011年FIFA女子世界年間)最優秀監督賞で名前を呼ばれたときは、うれしくて感動しちゃってウルウルきたのはよく覚えています」

―自分ではなく監督のときに涙がこみ上げるというのが澤さんらしいです。
「監督はスピーチもよかったんです。震災もあったので、日本のことを思って話していましたし、その国の代表として来たスピーチにグッとくるものがありました」

―ではご自身について。「ホマレ・サワ」と名前が呼ばれた瞬間は?
「反応ができなかったです。すぐに立ち上がることができませんでした。呼ばれると思ってなかったから、スピーチなんて用意していませんでしたし。とにかく、みんなに対しての感謝の気持ちは伝えようと。でも頭は真っ白で。だから“が”とか“を”とか間違えちゃって(笑)。何を言っていいのかわからなくて。最初から知っていれば、紙に書いておいてそれを読むこともできたんでしょうけど」

このような名誉の、ある賞を、いただき大変うれしく思ってます。
このような、すばらしい賞をいただけたのも、会長、監督、コーチ、チームメイト、家族、友達、ほんとにあの、今まで女子サッカーを、に、携わってくれた、すべての、方々の、おかげだと、思っています。
感謝しています。ありがとうございます。
この賞を糧に日々、また、精進していきたいと思います。
本日は、本当にありがとうございました。
(2012年1月9日、「FIFA年間表彰式」澤穂希スピーチより抜粋)

 時間にして30秒ジャストの受賞スピーチは、カゼで朦朧とした状態で咄嗟に思い浮かんだ言葉だった。だからこそ、この言葉には澤穂希という世界一の選手の素が垣間見える。

―受賞して、壇上から見た光景は覚えていますか?
「全員が(私を)見ていたので。映画館では、客席のみんながスクリーンを眺めるじゃないですか、その逆バージョンです。自分がスクリーンから客席を見る感じで。スピーチ中の視線はもう……ただ真正面を見ていただけでした」

―チームプレーや仲間を最も大事にする澤選手らしいスピーチでした。
「(リオネル・)メッシ(バルセロナ)もバロンドールを取れたのはシャビをはじめ、最高の仲間がいての受賞だと言っていました。私がこうなったのも、なでしこのみんながいて、所属チームのみんながいて、普段一緒に練習する仲間や監督や、いろんな方がいて成長させてくれたと思います。この思いだけは絶対伝えなきゃと。団体チームの個人賞として一人が選ばれますけど、それはみんながいないと取れない。だからみんなには本当に感謝してます」

―メッシとは並んで記念撮影をしていましたが、何か話はしたのですか?
「メッシは記念撮影前の待合室でも何回か会っていて。元々シャイとは聞いていて、英語も話せるか分からなかったので。写真を撮ってもらったんですけど、『写真お願いします』って言っても笑顔なく撮る感じで(笑)。でも、最後の最後、式典のあとにVIP席に入ることができたんですが、そこにメッシの家族もいて恋人らしき人もいて、去るときに普通に笑顔で手を振って『チャオ!』って言ってくれました。分からないですけど、一人だと人見知りする方なのかもしれませんね」

(取材・文 伊藤亮)

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