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素顔のなでしこたち

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 スマートフォン対応の電子サッカー雑誌「ゲキサカプラス」で好評連載中の『素顔のなでしこたち』。日本女子代表(なでしこジャパン)の主力選手のインタビュー記事と撮りおろし写真を掲載したスペシャルコンテンツの一部をゲキサカでも特別公開します。
 女子W杯制覇、ロンドン五輪アジア最終予選突破。国民栄誉賞も受賞し、「なでしこジャパン」が流行語大賞に選ばれるなど、2011年の“顔”となった彼女たちの素顔に迫るロングインタビュー。第7弾は、INAC神戸レオネッサのMF澤穂希選手です。
 なお、電子サッカー雑誌「ゲキサカプラス」はiPad、iPhone、iPod touch、ソフトバンク3G携帯、ソフトバンクアンドロイド携帯に対応。アプリ「ビューン」にて閲覧可能です。ゲキサカプラスでしかご覧いただけない写真も多数掲載されていますので、是非そちらでもお楽しみください。


―緊張の式典が終わってからもまた大変でした。
「インタビューが何回かあって、会場に食事する場所があったので、食事をしてから、生放送の中継があって。そこからさらに取材を複数受けました。終わったのは夜中でしたね。そして、翌朝の便で帰国という(笑)」

―すると、感慨に浸る暇もなかった。
「受賞したすごさをなかなか実感できなくて。でも徐々に時間が経ち、帰国後の会見をしたりトロフィーを眺めていると、“あー、取ったんだなあ”と。でも、トロフィーはすぐに(日本サッカー)ミュージアムに行ったりして手離したので、今も取ったのかなあと、そこまで実感がないのが本音です」

―澤選手は友人も多いですから、たくさん連絡が来たのでは?
「メールは、W杯で優勝したときみたいな(膨大な)状況になってしまったので、さすがに帰国してから返信してました。W杯のときもそうでしたけど、現地にいると日本の状況が分からないんです。だから生放送なども特にいつもどおり対応していたのですが、一気に連絡が来ましたね」

―なでしこジャパンの仲間からは?
「近賀(ゆかり)と大野(忍)(ともにINAC神戸)からはスイスにいるときからすぐにメールが来て、『おめでとう』と祝ってくれました。帰国後に(宮間)あや(岡山湯郷)も祝ってくれました。あやとは最近、一緒の仕事があって、その合間にいろいろと話をして。『すごいよ、穂希ちゃん!』って言われたんですけど、『いやいや、あやの方がすごいよ』って言いました(笑)」

―澤選手は、バロンドールの投票(各国代表キャプテンには1~3位を投票する権利が与えられる)で1位に宮間選手を挙げておられましたね。
「絶対、あやですよ。彼女しかいないです。W杯でドイツの選手ともアメリカの選手とも試合をしましたが、自分にとって一番インパクトがあったのはあや。だから迷いなく彼女を1位にしましたね」

―そのインパクトとは?
「(世間の)目はW杯得点王やMVPになった自分に向きがちですけど、それを支えているのは、あやをはじめとする中心選手であって。彼女がいなければ、私も得点を取れていないし、あの試合(W杯決勝)にも勝っていなかったと思う。メンタルの部分、チームの雰囲気づくり、楽しくする、和ませるというところも彼女なしではできなかったでしょう。ピッチの中でも外でも、あやがいるからなでしこ(ジャパン)が成り立っていると思います」

『夢は見るものではなく叶えるもの』をモットーにサッカー人生を走り続けてきた。今回のバロンドールは、彼女の言う「夢」のひとつが実現したと言っていいのだろうか?
 なぜこの疑問が浮かぶかというと、これまで彼女が発した夢に「得点王」や「MVP」、「バロンドール」といった言葉は一度たりとも出たことがないからだ。そして、この少し不思議な事実に、サッカー人、澤穂希の強さが隠されていた。

―澤選手はこれまで夢を語る際に「バロンドール」といった個人的なことは言ったことがありません。
「それ、正直思っていなかった(笑)。バロンドールを取りたいとか、W杯で得点王、MVPとか……。サッカーはチームプレーですし、ポジションはボランチですし、得点王なんて(笑)。とりあえず“世界一になりたい!”とは思っていましたけど、個人賞に関しては考えたことがなかったですね。でも結果論ですが、それがよかったのかもしれません、意識しすぎなくて」

―この1年で世界一になり、個人としても多くの賞を獲得しました。でも澤選手は変わりませんね。
「今までと変わらずですね。環境はガラッと変わりましたし、今までと違う生活……生活しづらくなった部分もありましたけど、女子サッカーを多くの方々に知ってもらった大きなチャンスでしたので」

―そのチャンスは続いています。
「言い方は悪いかもしれませんが、日本人でもアジア代表になれるというか、世界でも活躍できる。さらに世界一の賞を取れるのも証明できたので、子どもたちに夢を与えられたと思います。女の子も男の子も、壁にぶつかることは多々ありますけど、ちゃんと諦めずやれば、その先には今回のような結果が待っている。できないことはない!って証明できたと思う。だから、子どもたちの目標、モチベーションになってくれればと思います」

―個人賞ばかりが注目されることについては?
「いや、でも今は多くの方がチームを注目してくれていますので不満はないです。そのぶん、W杯を優勝してからは期待もされるし、五輪も絶対プレッシャーはあると思います。でも、逆に楽しむぐらいの余裕を持てたら、と」

―『楽しむ』というのも澤選手の重要なキーワードですよね?
「プレッシャーと思ったら、それは絶対プレッシャーになってしまいます。では、ないのかと問われて、ないと言ったら嘘になりますけど、それよりも五輪のような大舞台にはだれもが立てるわけではないじゃないですか。全員が行けるわけではないし、選ばれた人しか立てない。であれば、そういうチャンスに恐縮して何もできないよりは、思い切り自分の力を出して楽しんでやった方がいいですよね」

―すばらしいポジティブさです。
「これも自分が経験してきたことがあってのことで、20歳ぐらいのときでは言えなかったと思います。当時はもっとがむしゃらですし。でも今は時間も経って、余裕もできて、経験も積んで。せっかく一回しかないチャンス、人生なんですから、楽しんでやった方がいいのではと考えるようになりました」

―その考え方もW杯前から一貫しています。
「それが自分の強みかもしれません。そういうと何かおかしい感じがしますけど」

―今はサッカーが楽しいですか?
「楽しいです! オフが明けるまでしばらくサッカーをしていなかったんです。それで久しぶりに男の子とボールを蹴ったんですが、うまくできないんですよ(笑)。ボールが足につかなかったり。すると“下手だな”って思うし、できないことで逆に“もっとやってやる”っていう気持ちになる。1回オフに入ってリフレッシュできてよかったです」

―リフレッシュはできたんですね。
「できました! 大分と海外に旅行に行って。体をゆっくり休ませることができました」

―すでに先を見据えていますが、澤選手にとってバロンドールを受賞した日は、サッカー人生でどのような日と言えるでしょう?
「もう“生涯忘れられない日”。3人の最終候補に入れたこと自体、夢心地でしたし、ましてそこから(バロンドールに)選ばれて壇上に上れるということも夢心地でしたし。なかなかサッカー選手であの場に立てるというのは……。今までアジアではだれもいなかったわけですし、すばらしい体験でした。則さんの受賞も印象的でしたし、最後に選手のみんなが集まったときも印象に残ってますし、翌朝、日本サッカー協会の会長やスタッフさんたちと前日の話をしながら食べた朝食も印象深いです。1月9日前後の3~4日間は、本当に夜見る幸せな夢の中にいたような感覚でした」

(取材・文 伊藤亮)

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