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ボランチ専門講座mobile版

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6月21日に刊行された『ボランチ専門講座』(著・福西崇史、構成・北健一郎)のモバイル版がゲキサカにてスタート。全8章の本書より、1章1本ずつを掲載。より詳しい内容はぜひ本書(amazon.co.jpにジャンプします)でご確認ください

 ボランチをやるようになってうまくなったものに、車の運転がある。

 ボランチはボールをコントロールしながら、自分をマークしている相手のポジションも気にしつつ、空いているスペースを探し、相手と味方の状況を確認し、ゴールに結びつくパスを出す。

 運転中は前の車との車間距離や信号の切り替わるタイミングを気にしながら、車の影から誰か飛び出してこないかを予測しつつ、進路変更や車線変更を何度も行なって目的地に向かう。

 常に変化していく周りの状況を見ながら、同時進行的に情報を処理して、決断を下していく。その点でボランチのプレーと車の運転はすごく近いものがある。ボランチになってから車の運転が上達したのは偶然ではないと思う。

 ボランチになるまでのFWだった自分には、周りを見るような余裕がなかった。どうやって目の前のDFをかわしてシュートに持ち込むか――それしか考えていなかった。だが、ボランチになってからは自然と全体を俯瞰して見るようになった。極端に言えば30度ぐらいの視野でプレーしていた選手が、180度の視野でプレーするようになったのだ。

 ボランチをやっているうちに、今まで見えていなかったことが見えるようになってきた。目の前で行なわれているのは同じサッカーの試合なのに、捉え方がまるで違ってくるのだ。

 相手のサイドバックが何度も攻撃参加して疲れてきている。じゃあ、こっちのサイドにボールを回して攻めてみよう。トップ下の選手のマークが空きやすい。じゃあ、縦パスをどんどん狙ってみよう。ボランチをやることによって、サッカーがどんどん面白くなってきた。

 ジュビロ磐田でチームメートだったドゥンガは、相手のプレッシャーが強いと見るや、DFラインの背後のスペースにロングボールをボンボン蹴っていた。「(ロングボールばかり蹴ることで相手にも読まれて簡単にボールを失うのに)どうしてロングボールを蹴るんだろう?」と思ったが、ドゥンガには狙いがあった。ロングボールを何本も蹴られると、相手は裏を突かれるのを嫌がってDFラインを下げる。それによってDFラインと前線の間にスペースが生まれてパスをつなぎやすくなった。

 ジュビロはパスサッカーをするチームだったが、あえてつながずに蹴ることによって、自分たちのサッカーがしやすい環境を作ったのだ。相手の出方を見たうえで、どのように試合を動かすか――。そういったことまで考えられるようになって、初めて「ゲームを作っている」と言えると私は思っている。

 車に乗っているときも、目の前の車しか見えていなければ、信号が変わるタイミングに気づかなかったり、飛び出してくる人に気づかなかったりして事故を起こす要因になってしまうだろう。

 良いボランチとは、チームという車を運転するための優秀なドライバーでなければいけない。
※本企画は毎週月曜更新予定。感想はこちらまでお寄せください。
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