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東京五輪への推薦状 by 川端暁彦

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「東京五輪への推薦状」第4回:技術、戦術、心意気。大宮の『うかつな男』山田陸が備える未来への資質
by 川端暁彦

 第一印象は「何だかうかつな選手だな」というものだった。当時その選手は中学2年生になったばかりで、まだジュニアユースでもレギュラーではなかった。途中交代で出てくると、「やってやるぜ」とばかりに相手のボールホルダーに食い付いて戦う姿が印象的だったのと同時に、こちらが「えっ」と驚いてしまうミスも飛び出る“爆弾要素”も見え隠れした。

 その選手、大宮アルディージャユースの山田陸をジュニアユース時代から一貫指導してきた伊藤彰監督は当時を思い起こして「粗削りで、自分のプレー優先で、しかもすぐにカーッとなっちゃう選手でしたよね」と笑いつつ、「でも今は『ゲームの中の自分』を意識できていて、しっかりチームのために働ける男になってきました」と、その成長に目を細める。

 ポゼッションスタイルの大宮ユースで不動のアンカーを務める。ちょっとした動きを入れてディフェンスラインからパスを引き出して散らして、そして前の選手からボールを落としてもらってまた散らす。生み出すのはスピードとリズムの変化。思い出したように繰り出されるクサビのパス、スルーパスは大宮ユースの生命線とも言える。本人の言葉を借りると、「シンプルにはたいて、隙あらば縦パス」というプレーが山田の真骨頂だ。

 8月に参加したPSV主催の国際ユース大会・オッテンカップでは出色の存在感を見せて、視察に訪れた元オランダ代表フィリップ・コクー監督(PSV)から「大宮で誰が欲しいかと言われれば、4番(山田)が欲しい」との高評価を受けたと言う。強健な肉体を持つ相手にも怯まず冷静にボールを動かし、異国の地で大宮ユースのサッカーを表現してみせた。

 伊藤監督は「アイツがいなければユースではワンボランチを採用していない」とも言う。カバーすべきスペースは広範で、判断の部分でも身体能力的にも高い能力が要求される役割を「山田を成長させるため」(伊藤監督)に託してきた。夏の日本クラブユース選手権(U-18)では決勝でスタミナが切れてしまった印象もあり、本人も「体力面は本当に課題」と痛感した様子。ただ、その「痛感」にはきっと意味がある。

 中学時代に日本選抜に選ばれた経験はあるものの、代表チームとは縁が薄い。もちろん、監督の好みもあるので何とも言えないが、狙える資質があるのは間違いない。かつて「うかつ」に見えたプレーは、積極性とチャレンジマインドの裏返しだった。たとえ監督に怒鳴られても、もう一回チャレンジしていく心意気が山田にはあって、それは大きく成長していく選手が必ず持っている資質である。

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