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スポーツライター平野貴也の『千字一景』 by 平野貴也

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「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第20回:敗れ去りし者の輝き(学法石川GK古川雅弥)
by 平野貴也

 何度も、何度も前へ出た。相手に決定機が訪れる度、守護神は前方のスペースへ飛び出し、間一髪で相手のFWを食い止めた。第94回全国高校サッカー選手権大会の福島県予選決勝、学法石川高のGK古川雅弥は、2連覇を目指す尚志高の強力な攻撃に対する最後の砦として立ちはだかった。

 はじめは、出遅れた。相手に先に触られるシーンが続き、前半、守備ラインの裏へ飛び出して来た相手とクロスプレーになり、こぼれ球を別のFWに決められた。それでも、古川は「消極的になるのではなく、自分からもっと行こうという気持ちで臨んだ」と積極的な飛び出しを止めなかった。前半も後半も延長戦も、GKが前に出ていなければ失点したであろう場面は、山ほどあった。ときには、PAの外まで飛び出し、ヘディングでもクリアした。試合は、PK戦までもつれ込む接戦となった。しかし、古川は最大の見せ場で力が及ばなかった。相手の1点リードで迎えた5本目。古川は、威嚇するように相手の目前へ迫った。傍から見れば余計なことでしかなかったが、少しでも動揺を誘いたかった。しかし、主審から警告を受けて引き下がった古川が伸ばした手にボールが当たることはなかった。

 負けた。受け入れ難い現実は、まともに見られる景色ではなかった。古川は突っ伏して泣いた。どんな言葉も慰めにはならない。憧れ続けた全国大会への道は断たれた。表彰式でも涙は止まらなかった。トーナメントは、非情で残酷だ。明暗のコントラストは、極めて強い。しかし、その分だけ放たれる光も強い。都道府県予選と言えば、世間一般の注目は「どこが代表校になるのか」の1点だが、県大会の決勝戦は各地方局でテレビ放送が行われ、新聞等の記事にもなる一大イベントだ。誰もが立てる舞台ではない。そんな場所で強い輝きを放ったことは、敗者になったとしても誇れることだ。

 帰路に向かうチームバスに乗り込む前、古川は「1年生の時から試合に出させてもらって、やっと決勝に出られた。負けてしまったことは悔しいけど、テレビ中継もされるような試合で、多くの人に自分のプレーを見せられることは幸せだと思う」と言い残した。奇しくも、古川はPKで勝敗を争った尚志のGK石塚亮と同じ大学に進み、今度はチームメートになる予定だという。昨日の敵は、今日の友。「今度は、負けないように頑張りたい」と言うと、ようやく少し笑顔になった。忘れ得ぬ日の輝きは、きっと財産になる。
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