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バルサ仲本の「うちなー蹴人紀行」

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多大な期待と様々な不安が交差する沖縄SVの船出

 J3のSC相模原を退団した元日本代表FW高原直泰が来年から本格活動するサッカーチーム「沖縄SV」の設立会見を12月8日(月)、那覇市の内閣府沖縄総合事務局で行った。沖縄SVは沖縄県うるま市に事務所を構え、うるま市と金武町、宜野座村を中心に活動を行うとのこと。Jリーグ入りを目標とするチームは来年から始動し、県リーグ3部から参戦する。

 沖縄SVは正式名称を「沖縄Sport-Verein(オキナワ・シュポルト・フェアイン)」といい、ドイツ語で「沖縄スポーツクラブ」という意味。総合スポーツクラブとしてサッカーに限らず様々なスポーツ分野に特化し若年層を中心としたアスリートの育成の場としてのアカデミーを作るとともに、世界を目指すアスリートが集中して出来るトレーニングやリハビリ、またスポーツ経験が活かせるセカンドキャリアの準備が行える研修施設としても活用される。

 この構想を提案したのは高原とともに株式会社アスリートアイランドの設立に出資した元ラグビー選手の福永昇三氏。明治大から三洋電機ワイルドナイツに入団した福永氏は2011年に明治大でコーチを務め、2年後には沖縄に移住している。ラグビー選手の顔を持つ一方で経営者としての一面も持ち、「スーパートレーニングセンター構想」の創案者でもある。スーパートレーニングセンターは沖縄SVが担う環境面のほか、学校やホテル、病院、飲食店なども巻き込んだ総合施設で、テニスの錦織圭も所属したアメリカのIMGアカデミーのような施設を温暖な沖縄に作り、日本における新たなスポーツ文化の形成を目指すというものである。今回の会見が内閣府沖縄総合事務局で行われたのは、この構想が沖縄における新たなスポーツベンチャー、スポーツビジネスの形成に理解を示したからだ。

 うるま市にはJリーグチームや韓国の野球チームがキャンプを行った施設があり周辺にはゴルフ場も隣接する。また金武町や宜野座村もプロスポーツチームがキャンプを行う場所として施設が充実している。今回、沖縄SVのJリーグ入りを目指すというところが注目されているが、一番の注目は様々なアスリートに集中できる環境を提供し、トップアスリートを輩出する場所を沖縄に作るという点である。高原自身、将来的にはアカデミーの学校をつくり世界に羽ばたいていけるような選手を育てたいという夢があったと語るように、育成に興味を持っていた。しかし、サッカー選手としてプレーしたいという気持ちもあり悩んだという。そこでスーパートレーニング構想のモデルケースとして沖縄SVを立ち上げることで自身もプレーし、同時にプロとしてのメンタリティーを選手に伝えることで選手もチームも成長すると考え、今、それが実現可能な沖縄に移ることを選択したそうだ。ちなみに沖縄SVが設立するに至ったのはほんの一か月前だったというのは驚きである。

 またこの高原の考えに賛同し、ドイツでプレーする多くの日本人選手の代理人を務めるトーマス・クロート氏が沖縄SVのアドバイザーを務めることが決まった。高原とは常に連絡を取り合ってたというクロート氏は、ハンブルガーSVバイエルンドルトムントをフレンドリーマッチのために日本に呼び寄せた張本人。ドイツのクラブチームが沖縄でキャンプや試合を行う構想も持っており、沖縄の子供たちとヨーロッパのクラブチームの選手の交換留学をさせたいという考えも明かした。

 今回の沖縄SVの設立は大きな注目を浴びているが、その一方で疑問視している人も少なくない。かつて存在した沖縄かりゆしFCはJリーグ入りを目指しながらも2009年をもって解散している。またJ3のFC琉球も創設して12年の間に経営陣が4人も変わっていて、クラブ運営は不安定な状況だ。そのようなシーンを見てきた中で今回誕生した沖縄SVもスポンサー収入や自治体との支援は受けられるのかなど心配する声もあがっている。スーパートレーニング構想の根幹を担う沖縄SVが、サッカーチームとして沖縄に根付かなかったら元も子もない。その不安を払拭させるためにも沖縄の現状を理解した上でこれからのチーム運営を務める必要がある。世界基準が沖縄で通用するとは限らない。また監督兼選手としてのみならず営業活動や試合運営などをこれまで未経験な仕事を行うわけだから、そのためにも高原をサポートできる体制も必要だ。

 相模原との契約が来年1月末まであるがその後は高原自身もうるま市に移住し、本格始動する。「地域の皆さんとともにチームを強くしていきたい。骨を埋め、このプロジェクトにすべてを賭ける」。高原直泰一世一代の決意。覚悟は伝わった。沖縄を拠点に日本のスポーツ文化を、新たなビジネスモデルとなるのか。今後の動向に注目していきたい。

執筆者紹介:バルサ仲本(仲本兼進)
1978年生まれ。沖縄県出身。沖縄のRBCiラジオでの勤務を経て、現在はスポーツライター兼ラジオディレクターとして活動。サッカー・バスケ・野球などプロアマ問わず取材を行っています。RBCiラジオ「スポーツフォーカル」月曜サッカーコーナー出演。地域リーグを中心に情報を発信する「コミュサカチャンネル(ツイキャス)」番組ディレクター。「J's GOAL」J3琉球担当記者。ツイッターアカウントは@kenshinac

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