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スポーツライター平野貴也の『千字一景』 by 平野貴也

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「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第24回:伏兵の一撃(明治大DF岸本英陣)
by 平野貴也

 延長戦終了の2分前、明治大のMF差波優人が蹴った右CKを合わせたのは、思わぬ伏兵だった。左からボールの軌道へ飛び込んだ2年生DF岸本英陣のヘディングシュートが、順天堂大のゴールへ突き刺さった。初の公式戦出場で初ゴール。しかも3分前に投入されたばかりで、ファーストタッチ。初物尽くしの一撃だ。アシストした差波は「あいつ、ヘッド強いですよ。でも、相手にはデータがなかったと思います」と岸本に狙いを定めていた。岸本自身も「僕の特徴は、ヘディング。それほど背が高いわけじゃない(177cm)ので、相手が空中戦に強い選手を付けて来なかった」とマークされていないことを感じ取っていた。全日本大学選手権の準々決勝、土壇場で決めた「してやったり」の勝ち越しゴールは、決勝点になるはずだった。

 しかし、明治大の栗田大輔監督は「あいつは、お祭り男。やってくれたと思った。でも、そこで終わらせておけよって……」と笑顔を少し歪ませた。得点直後、岸本はラインコントロールに失敗して相手にCKを献上。結果、相手CKのこぼれ球から自分が直前までマークしていたFWへロングフィードを入れられ、順天堂大に3度目の同点弾を許した。試合は、PK戦の末に勝利したが、岸本は「失点は、僕が裏を取られて、コーチからもお前のミスだぞと言われました。プラスマイナス、ゼロですね……」と頭をかいた。

 岸本は、帝京大可児高時代にも高校総体、高校選手権に出場。一昨年の総体では、チーム初の全国8強進出に貢献した。大舞台には縁がある。父から授かった名は「英陣(えいじん)」。英は、英雄的な存在になることへの期待。陣は、家族や仲間など人の輪を意味したもの。名は体を表す、まさにお祭り男だ。世界の強豪バルセロナが誇る闘将プジョルに憧れるストッパーは、ピッチ外では、いじられキャラ。「この髪型とか、よくいじられます。ベッカム風のつもりだったけど、失敗。短くなってしまった。そのおかげでコースがシュートのコントロールができた? あっ、そうかもしれないですね」と冗談を言われて迷わず乗ってくるあたりは、確かにいじり甲斐がありそうだ。

 しかし、単なるお騒がせ男では意味がない。大学で初めて得た舞台では、短い時間で持ち味は出したものの、英雄になり損ねた印象は否めない。岸本は「もし、また出場機会があったら、得意の対人とか空中戦を見せたいです」と、次なる大暴れを予告して会場を後にした。

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