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SEVENDAYS FOOTBALLDAY by 土屋雅史

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『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:敗者なき準決勝。真夏の群馬に輝いた太陽王子の逞しき進撃(柏レイソルU-18)
by 土屋雅史

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 断じて、敗者ではない。轟く雷鳴にその行く手は阻まれたが、堂々と戦い切った彼らは、敗者ではない。きっといつか、これも懐かしい思い出だと、みんなで笑い合える日が必ず来る。だって、真夏の群馬で全力を尽くして戦った6試合は、こんなにも楽しく、こんなにも充実した時間だったんだから。

「抽選になったら誰も責められないですし、ここはもうしっかり現実を受け止めて、酒井さんが言ってくれたように胸を張って帰るしかないので、表彰式が終わった時に拍手をしてくれて、『日本一、絶対獲るからな』と言ってくれたマリノスのみんなに、自分たちの想いを託したいと思います」(柏レイソルU-18・西村龍留)。

 大会のレギュレーションによる抽選という結果で、決勝進出は叶わなかった柏レイソルU-18(関東6)。だが、灼熱の陽射しの下でここまで勝ち上がってきた“太陽王子”たちの輝きは、その結末なんかで微塵も色褪せることはない。顔を上げて、胸を張って、最高の仲間と勝ち獲った全国3位を、誇っていいのだ。

 横浜F・マリノスユース(関東5)と対峙した準決勝は、いきなりのビハインドからスタートする。前半9分と14分に連続失点。2点を追い掛ける展開となったが、柏U-18のキャプテンを任されているDF西村龍留(3年)は、まったく不安を感じなかったという。

「自分は失点した直後のみんなの顔をよく見るんですけど、この大会に来てからは、先制された試合でも、チームは誰一人下を向かないですし、今年のチームには『1つになれる』という特徴があるので、2点差が付いても『引っ繰り返せるな』と思っていました」。

 特筆すべきはベンチメンバーの熱量だ。劣勢に立たされたピッチの中の選手たちに、ポジティブな声が次々と飛ばされる。「この夏のために“走り”も相当やってきて、そこを乗り越えてきた仲間ですし、ツラい時でもみんなで支え合ってやってきたので、ベンチのヤツらやメンバー外のヤツらがしっかりサポートしてくれるんです。だから、ピッチに出ている11人はしっかり自信を持ってやる必要がありますし、そこも今年のチームの特徴かなと思います」と西村はチームの一体感を強調する。

 彼らの想いは、確かな成果に反映される。27分にはサイドを大きく使った展開からPKを獲得すると、エースのFW山本桜大(3年)がきっちり成功。さらに、前半終了間際の40+4分には左サイドからMF中村拓夢(3年)が上げたクロスに、飛び込んだ山本のヘディングが鮮やかにゴールネットを揺らす。「中村くんが良いクロスを上げてくれたので、感覚で合わせるだけでした。ちょっと驚きました」と本人も言及したゴラッソ。流れが柏U-18に傾きつつあったことは、間違いない。

 前半終了の前後から、雷の音が夜空に響き出す。群馬の夏では珍しくない光景だが、少しずつその回数も頻繁になり、後半のキックオフ時間は先送りされることになる。「雷も鳴っていましたし、この時間が長くなるなというのはわかっていたので、ベンチのヤツらに足を伸ばしてもらったり、なるべく歩いたり、『身体が固まらないように』とは声を掛けていました。『プレーしたい』という気持ちは相手より上回っていたなと思います」(西村)。

 だが、稲光はくっきりと夜空に浮かび上がり、雨も徐々に激しさを増していく。前半終了から30分ほどして、試合中止が決定。決勝への進出権は、抽選に委ねられる。

「最初は現実を受け入れられないというか、ボーッとしていたんですけど、コーチの話を聞いたり、みんなが泣いている感じを見て、自然と涙が出てきました」(山本)「率直に悔しいですけど、誰も責めることはできないですし、これもサッカーなので、受け入れるしかないなと思っています」(西村)「こんなことがあるんだなと。監督としていろいろな経験はしていく必要があると思うんですけど、こういう経験をするとは思わなかったので、選手たちの涙を見ていると、責任をより強く感じてしまいましたね。もっと他にできたことがあったんじゃないかなと」(酒井直樹監督)。抽選の結果、横浜FMユースが決勝進出。柏U-18の進撃は、予期せぬ形で終焉を迎えることになった。

 今年の柏U-18のここまでは、決して順調に進んできたわけではない。「シーズンが始まる前に自分たちは“心配されている代”みたいに言われていたんですけど、みんなそう言われて悔しかったですし、だったらやってやろうという気持ちがあって、自分を中心に3年生で『このままじゃ終われない』というミーティングをしたんです」と西村が明かしたように、3人のトップ昇格者を輩出した1つ上の代でもコンスタントに試合に出ていた選手は、山本とMFモハマドファルザン佐名(3年)ぐらい。小さくない反骨心を抱いて、2022年のチームは立ち上がった。

 迎えたプレミアリーグでも、クラブユース選手権の関東予選前までは黒星先行。川崎フロンターレU-18には1-5で大敗を喫するなど、現実を突き付けられた試合もあった。そんな苦しい状況下で、選手たちがもう一度見直したのが、酒井監督が言い続けてきた『目配り、気配り、心配り』だ。

柏レイソルU-18を率いる酒井直樹監督


「大人が仕向けることはできるんですけど、本質的に理解して、行動に移して、一歩足を踏み出すことって子供なのでなかなか難しいんです。そこを言い続けてきたことで、彼らがそれに乗ってくれて、プレミアリーグも最初は勝てなかったんですけど、何かを変えなきゃなと考えた時に、彼らがチームへの気配り、仲間への気配り、後輩への気配り、横にいる人への気配りを気にし出したら、1つ1つの行動が変わってきたんです。その行動が変わってきた時に、彼らは勝ち出しましたね」(酒井監督)。

 もう1つの重要な要素は“素走り”。「その時はキツいですけど、その先のことを見れば、『自分たちに返ってくるから、みんなでやり切ろう』というのを常に自分から言ってきました」とは口にした西村も、そのキツさについて言及していたが、それもコーチングスタッフには明確な意図があった。

「体力の向上はありますけど、チーム力を上げるためですね。藤田(優人)コーチが凄くそういうところを大事にしていて、明治大学でも国見でも日本一を獲った彼の中の正解というものがあって、“素走り”の中でもしっかり仲間の背中を押してあげる、引っ張ってあげる、声を掛けてあげる、キツいヤツを見つけてあげるとか、そういうところですよね。彼らはしっかりと全員がこなしていますし、キツくなったヤツが背中を押されてゴールしたり、1日1日の練習の中で凄いものを得ているなということが連続してできていました」(酒井監督)。

 酒井監督を筆頭に、永井俊太コーチ、藤田コーチ、吉川脩人GKコーチ、近藤正史トレーナーと、柏U-18を支えるスタッフ陣も役割が明確でキャラクターも立っており、何よりサッカーに懸ける情熱が凄まじい。彼らがオン・ザ・ピッチだけではない部分で、選手たちを成長させていることも、このチームを知る上で語り落とせないポイントだ。

 準決勝進出という成果を上げた今大会の手応えについて問われた山本は、「グループリーグで試合を重ねるごとに、連携やみんなの調子が上がってきて、負ける感じが全然しなかったので、このままいけば優勝できるという雰囲気はありました」と語っていた。その雰囲気を下支えしていた“一体感”に関して、指揮官はその理由をこう考察している。

「このご時世で、みんなで寝泊まりしたり、遠征を組むことがなかなか難しいんですけど、本当の意味でサッカー選手たるものは、まず人間として生きていくスキルや気遣いが結局大事なので、こういうタイミングでみんながちょっとずつ良いところを吸収し合っていると。チームですべき片付けや行わなくてはいけない作業をどう乗り越えていくかというところで、みんながそっちを優先するようになって、むしろ試合に出ているヤツらもしっかり動くようになっていたんです。それってなかなか柏にいるだけではできないことなので、特にこの全国大会という新鮮な場を彼らもリスペクトして、『何かを吸収できるぞ』という想いで入っていると思うんですよね」

「それが素直に、純粋に、“吸収”に変わったところは、ここに来て正解だったなと。食事もみんな黙食ですし、食事の会話も、お風呂の会話もない、部屋の行き来もないと。『何のための遠征なんだよ』って、冷静になると考えるかもしれないですけど、その中でも『何かをより良くしていこう』という想いがあって、サッカー以外の部分が彼らのプラスアルファになっているところが、本当にこの大会の成果だなとは思いました」。

ピッチを見つめるベンチメンバー。彼らの存在がチームを支えている


 決勝へと進出することになった横浜FMユースを率いる大熊裕司監督は、「ちょっと切ないですね。選手にも少し背負うものもできたのかなという話はしましたし、責任を持って次も戦わなくてはいけないかなと思います」と話しつつ、敵将についてこう言葉を残している。「よく知っています。おぼこくて、かわいかったヤツが、素晴らしいチームを作っていますし、まさかこういう形でユースの監督同士として試合をやるとは思っていなかったですけれども、本当にアグレッシブで良いチームを作っているなと、毎回思いますね。こういうところでまた再会できるのは非常に嬉しいです」。

 実は酒井監督がレイソルの下部組織からトップチームへと昇格した時、主力選手として活躍していたのが左利きのMFだった大熊監督。7歳違いの2人は同じ黄色いユニフォームを纏い、ともにJリーグのピッチにも立ったことのある旧知の仲なのだ。

「大熊さんには守備をしなくて、『直樹!帰れ!』と怒られていたので(笑)。もう大先輩ですし、大熊さんは下平(隆宏)さんとか沢田(謙太郎)さんとか曺(貴裁)さんとか、今は監督をされているような人たちからも一目置かれていたんですよね。今は優しいですけど、ベンチでも威圧感が凄くて『あっちは見ないようにしよう』って(笑)。でも、そういう人としても選手としても尊敬していた人と、同じピッチで、同じ立場で戦わせてもらっていることは本当に感謝しかないですね」(酒井監督)。

 サッカーを自分の中心に置いている限り、そのキャリアはいろいろな形で交錯していく。それはきっとこの日の試合を戦った柏U-18の選手も、横浜FMユースの選手も、例外ではない。サッカーに関わっていれば、またどこかで必ず出会う。卒団しても、現役を引退してたとしても、その縁はずっと、ずっと、続いていく。

 取材エリアに出てきた時は、涙で言葉が続かなかった西村が、丁寧に、真摯に報道陣の質問に答えていく姿は、まさにキャプテンのそれ。「チームを引っ張るキャプテンとして、『キツい顔をしてはいけない』と藤田さんに言われてきましたし、チームの先頭に立つ人間としても、酒井さんや藤田さんにずっと育ててきてもらったので、そこは誰にも負けないと思います」と話しながら、まだ残されているこれからのU-18で過ごす時間への決意をきっぱりと、こう言い切った。

「夏の大会はこれで終わってしまいますけど、ここからプレミアリーグもあるので、こういう経験を無駄にしてはいけないなと。この仲間とやれる練習も限られていますし、1日1日を無駄にしないで、ここから全部勝てるようなチームになれるよう、自分がどんな時でも先頭に立って、チームを引っ張っていきたいなと思います」。

 きっと稲妻を見れば、柏U-18の彼らはこの日のことを思い出す。今はまだそうは感じられないだろうけれど、自分のすべてを懸けて向き合ったものに、自分のすべてを知っている仲間のことに、想いを馳せられる“何か”があるということは、本当に幸せなことなのではないだろうか。あるいは10年後や20年後の夏の日。雷の轟く夜空を見上げながら、彼らがこの日を笑顔で思い出す時が来ることを、願ってやまない。



■執筆者紹介:
土屋雅史
「群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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