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SEVENDAYS FOOTBALLDAY by 土屋雅史

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『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:想いを背負う(早稲田大・奥田陽琉)
by 土屋雅史

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 その男は、いろいろなものを背負っている。多くの人から寄せられる期待も、結果を出し続けなければいけないというプレッシャーも、こうありたいと願い続けてきた未来も、いつもいろいろなものを背負っている。でも、そんな自分が嫌いじゃない。それが誰にでもできることではないことも、ちゃんと自覚しているから。

「いろいろ背負いがちなタイプだとは思います。でも、そういうものがあった方が、逃げ場がなくなりますし、自分は強くなれると感じているんです。だから、あえて言葉でも発信をしますし、確かに『背負いがちだな』とは自覚していますけど、それがダメだとは思わないんです」。

 黄色とエンジの血を全身に宿す、早稲田大のナンバー9。FW奥田陽琉(4年=柏レイソルU-18出身)は自分に集まる想いを背負い、今日も、明日も、明後日も、ゴールに向かって突き進み続けていく。

 アップエリアから、苦しむチームを見つめていた。関東大学リーグ2部第4節。前節は引き分け、開幕からの連勝が2でストップした早稲田大が、東伏見サッカー場に“昇格組”の山梨学院大を迎えたホームゲーム。前半から押し気味に進める流れの中、後半3分に先制点を献上。1点を追い掛ける展開を強いられる。

 2試合連続でスタメン起用されたものの、ゴールを奪えなかった奥田のこの日はベンチスタート。後半に入ってからはウォーミングアップを繰り返しながら、ピッチの仲間へ向けて大きな声を張り上げる。

「声を出すことやチームを良くしようということに関しては、別に気を遣っていないというか、それは自然に出ることなので、そこに対してはあまり力を使っている感じはないですね」。常にチームを明るく、ポジティブな雰囲気に持っていこうとする姿勢は、レイソルのアカデミー時代から何1つ変わっていない。

 1人目の交代はサイドバック。2人目の交代もサイドバック。なかなか奥田に出場のタイミングは訪れない。ようやくベンチから声が掛かったのは、残り10分を切ってから。エンジの9番を纏ったストライカーは、改めて自分の役割と、為すべきことを頭の中で反芻する。

「まだ0-1だったので、『1点獲れば流れは絶対に来るし、絶対に引っ繰り返せる』って。あの時間でピッチに入ったので、周りも足が止まっている中で、自分がかき回して、前でチャンスを作るしかないと思って、試合に出ました」。

 しかし、なかなか決定的なチャンスが巡ってこないどころか、逆に45+1分には追加点を奪われてしまう。致命的な2失点目。エンジの仲間がうなだれる中、9番はすぐさまボールを拾い、チームメイトを鼓舞しながらセンターサークルへと急ぐ。

「0-1でも0-2でも、点を獲らなきゃいけないことには変わりはないので、自分のマインド的には変わらなかったんですけど、ディフェンスラインの選手たちは『ああ、もう終わった……』という顔をしていたので、あれだけ吠えていました。僕たちが目指しているのは日本一やリーグ制覇で、じゃあ負けている試合だったら何もやらなくていいのかといったら、今後の成長のためにもゴールに向かい続けることが必要なわけで、そういう想いがああいう立ち振る舞いになったのかなと思います」。



 0-2でタイムアップの笛を聞いた試合から15分後。奥田は再びグラウンドを走っていた。“1試合目”の出場時間が短かった選手と、メンバー外の選手がシャッフルされた構成のチームで臨む、山梨学院大との練習試合。リーグ戦の後に組まれたその一戦でも、もちろん目の前のボールと向き合うスタンスは変わらない。

 100パーセントの力で走る。声を出し続ける。チームメイトの得点を笑顔で喜ぶ。そして、自分でもゴールを奪う。

「ああいう練習試合であっても、むしろああいう時に何ができるかというのを表現し続けないといけないですし、自分に落ちている時間はないというか、絶対に1日1日を無駄にしないということは、本当に意識してやっているところです」。練習試合が終わり、試合を見に来てくれた知人へ挨拶に向かい、後輩たちと一緒にゴールを片付け、引き上げてきたのはチームの中でも限りなく最後の方だった。

 率直に言って、大学入学後の3年間は想像していたような軌跡を描いてくれなかった。「正直、思っていた理想とはかけ離れています。1年目はリーグの開幕戦に出られて、良いスタートを切れたと思いつつ、ケガをしてしまって、復帰した年始の全国大会では名前を上げられるぐらい活躍できたんですけど、2,3年目でだいぶ出場機会も減りましたからね」

「それこそ去年はスタメンで出ても前半の“プレスキャラ”というか、『先発だけど中継ぎ』みたいな感じのキャラが定着していましたし、『良いことなんてほとんどなかったな』って。大学に来てからはキツいことの方が多いですね」。

 高校3年時は柏レイソルU-18で9番を託され、エースストライカーとして躍動。プレミアリーグEASTでも13ゴールを叩き出し、青森山田高の武田英寿(現・水戸ホーリーホック)や尚志高の染野唯月(現・鹿島アントラーズ)を抑えて、得点王に輝いた実績もある。だが、大学生活では思うような結果を残せず、周囲の期待に応えきれていないことは自身が一番よくわかっている。

 高校時代は同じ黄色のユニフォームを着て、一緒に勝利を目指していた“元チームメイト”が、自分がくすぶっているのと時を同じくして、押しも押されもせぬレイソルのエースへ駆け上がった急成長にも、少しだけ複雑な想いを抱かざるを得ない。

「(細谷)真大はエグいですね。正直、今の真大ってJリーグの顔じゃないですか。もちろんアイツが点を獲ったら嬉しいですし、レイソルが勝ったら嬉しいですけど、さすがに『差は広がってんなあ』と思っちゃいますよね。アイツはA代表にも行っていますし、世代別代表のエースですしね」。

 柏U-18時代は奥田がセンターフォワードで起用されていたため、ウイングで出場することが多かった細谷に、今ではストライカー感が出てきたことも、本人は想定していたという。

「真大はセンターフォワードもできるとはユースの時から感じていました。でも、真大が誰かと2トップを組むのを見ても、『真大を生かすんだったら、オレとやった方がいいんじゃないかな』って(笑)。プロでも真大はサイドでプレーするのかなと思っていたので、フォワードであんなに活躍するとは、ですよね。でも、やっぱりアイツは持っているんですよ。大事な時に点を獲りますし、もうレイソルの試合を見たらだいたい細谷真大が点を獲っていますから(笑)」。

 その力を認めざるを得ないことは百も承知。それでも、エンジのストライカーにだって、意地がある。「でも、やっぱり真大には絶対に負けたくないので、マジで絶対に負けたくないので、やり続けますよ」。力強く言い切った言葉は、自分自身に言い聞かせているようにも響いた。

 2023年は大学ラストイヤー。今のままでは、目指してきたプロサッカー選手という目標に届かないかもしれないことは、痛いほど理解している。だが、奥田にはその未来を絶対に手繰り寄せたい大きな理由が、2つある。

 1つは、小さい頃から憧れてきた“レイソルの9番”の存在だ。

「自分はずっと工藤(壮人)くんが一番好きな選手で、レイソルのスタッフからも『工藤に似てる』と言われてメッチャ嬉しかったですし、工藤くんみたいにチームを引っ張り続けて、大事なところで点を獲り続ける選手になりたいと思って、大学に入ってからも頑張ってきたんです」。

「一度だけ工藤くんの代が年末のミニゲーム大会をやっていた時に参加したことがあって、ツイッターでご本人にリプを送ったら、『頑張ってね』『一緒の舞台に立とうね』と返してくれて、もう勝手に自分を重ねていたので、ああいうチームに欠かせない選手という存在を、今でも本当に目指してやっています」。

「だから、亡くなったということを聞いた時は頭が真っ白になりました。でも、工藤くんに対してそういう想いを持っている自分が、工藤くんぐらいの活躍をすることで、工藤くんを人々の記憶から消したくないという想いはありますし、それぐらい工藤くんはオレの目標なんです。やっぱりレイソルの9番、背負いたいですよね」。

 昨年10月に急逝した、忘れがたき“レイソルの9番”。多くの人の心に、ゴールという名の希望と勇気を灯し続けてきた工藤壮人が貫く意志は、確実に頼もしい後輩へと受け継がれている。

 もう1つは、いつも一番近くで見守ってきてくれた家族の存在だ。

「オレは少し田舎の方に住んでいたので、レイソルに入ったことで家族も2回も引っ越していますし、高卒でプロになるという約束をしていたのに、結局大学に行かせてもらって、迷惑ばかり掛けてきているので、家族のために頑張りたいというのが一番ですね」。

 この日の試合もピッチサイドには両親の姿があった。小さい頃から自分のサッカーのためにいろいろなことを犠牲にして、掲げてきた夢の実現に向けて120パーセントで応援してくれている家族のためにも、そう簡単に投げ出したり、諦めたりすることは、自分が自分に許さない。



 奥田は不思議な選手だ。ストライカーのメンタリティは持ち合わせているが、決してそれを前面に打ち出すタイプではなく、むしろチームメイトとの和を重んじ、時には他人の利益を優先するタイプにすら映る。もっとエゴを剥き出してもいいのではないかと感じることもあるが、それは性分ではないのだろう。

「正直チームが勝てば何でもいいので、『チームが勝つためにこのポジションをやれ』と言われればやりますし、『こういうプレーをやってくれ』と言われればやりますし、自分の活躍よりもチームの勝利のためにやってきているところはありますね。そういう性格なので、そこはずっと変わらないんじゃないかと思いますし、そこは変えたくないんです」。そう笑った表情も、やはり何とも彼らしい。

 4年目に入った大学生活も、プロサッカー選手になる権利を掴むための時間も、そう多くは残されていない。ゆえに、もうやるべきことも、向き合うべきことも、明確過ぎるぐらい明確だ。

「チームとしては1部に昇格したいです。自分たちと同じ想いを後輩たちにはしてほしくないと思っていますし、そのために自分にできるのは、チームが勝つための点を獲り続けることだけなので、本当にどんな試合においても点を獲り続けることを目標にしています」

「オレはゴールに向かう姿勢は連鎖すると思っていますし、そういう流れに乗れば勝手に点は入り始めると考えていて、毎回のように『なぜかわからないけど点が獲れるプレーヤー』になっていかないといけないなって。立ち止まっている暇なんてないですし、その先にプロがあると信じながらやり続けるしかないので、まだまだ頑張りますよ」。

 不器用で、愚直で、暑苦しくて、だからこそ誰もが期待したくなるストライカー。みんなの想いが集まってくる奥田陽琉は、それを背負えるだけ背負いきって、今日も、明日も、明後日も、ゴールに向かって突き進み続けていく。



■執筆者紹介:
土屋雅史
「群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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