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サッカーが根付かないと警鐘を鳴らす 横浜FC山口監督「日本にはタブーが多い」

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 昨シーズンの途中から横浜FCを率いている山口素弘監督は、寡黙なタイプである。チーム状況などについて質問しても、ほとんどの場合は「いろいろだよ」と、のらりくらり、かわされてしまう。そんな監督が、珍しいほど熱く語った。直前にFW三浦知良とサッカーを見ることの大切さについて話したばかりだったこともあり、山口監督にも前日に行われた横浜FM対マンチェスター・ユナイテッドの感想を聞こうと思ったのだ。

「昨日の試合を見ましたか?」。そう切り出すと山口監督は「見たよ」と言い、試合の印象を聞くと、即座に「あのマン・オブ・ザ・マッチ(以下、MOM)はないんじゃない? ありえないでしょ。選手がかわいそうだよ」と語り出した。さまざまな思惑があってのことだろうが、その試合のMOMには、30分ほどの出場にとどまり、得点にも絡んでいない、試合に敗れたマンチェスター・UのMF香川真司が選出されていた。デイビッド・モイーズ監督も疑問を呈していたが、『日本のサッカー界というのは、こういうところなんだな』という印象を持たれても、仕方がない。

 まだまだ日本に、サッカーが根付いていないことの証拠だろう。山口監督は、必要なことに対する十分な議論が足りないと強調する。「たとえば先週の東京V戦もそう。普通だったらもっともっと議論されるよ」。指揮官が言うのは、第25節の東京V戦のことだ。横浜FCは2-2で迎えた試合終了間際、DF中島崇典がドリブルを仕掛けた東京VのDF森勇介に対してファウルを犯したとして、PKを取られた。これをFW高原直泰に決められ、リーグ戦で8試合ぶりの黒星が付いた。

 突っ込みどころは、満載だ。まず、中島は足が掛かるといけないと判断し、足を引っ込めていた。森が、足が掛かるのを未然に防ぐためによけたのか、ダイブしたのかは分からないが、少なくとも接触はなかった。さらに、それが起きたのはPA外のこと。そしてそして、副審は主審に対してファウルがPA外で起きたと伝えたにもかかわらず、主審はPKを命じたのだった。イタリアあたりのテレビ局であれば、ヨダレを流して、何度も何度も、この場面だけを繰り返して放送し、議論を重ねそうだ。

「今の時代、ダイブなんてありえないし。そういうのも議論されない。そういうのが悲しいよね。それでいて『Jリーグができて20年でどう』とかさ『世界にどう』とか言うけど、だったら、そういうところも世界に近づこうよ。あんなことが起きたら、1日中、放送するでしょ。4人くらい解説者が出てきてさ、ずっと話し合っている。あんなダイブがあったら選手も、今後、何試合もどの会場に行ってもブーイングを浴びるでしょ。ダマすっていうのはね。特にイングランドなんかは、そうだよね。そういう文化も根付いていかないとダメだよね」

 プロは、憧れの対象であり、子供たちのお手本でもある。「あれを見て、子供たちがマネをするんじゃないの?」と、山口監督も警鐘を鳴らす。

「それを『マリーシア』とか言うのであれば、それはおかしい。よく『子供たちがマネをするから、シャツはパンツの中に入れましょう』とか、そういうことは言うけど、だったらああいうプレーをマネされないように、取り締まらないと何の意味もない。そういうのが、残念。『タブー』とか、『言っちゃいけない』っていうのが多い。ミスはある。それは選手も監督もそうだし、レフェリーにもあることは分かっている。でも、それをどれだけ議論して、良くしていくことが大事。でも、議論が起こる前にうやむやにしてしまう。もちろん、内部ではやっているのかもしれないけど、それは分からないから。意見書を提出したから、あとで文章で返答は来ると思うけど、『あれはダイブでした。今後ともよろしくお願いいたします』っていう文章が来て終わりだからね。しょうもない」

 Jリーグの試合は、毎日毎日、行われるものではない。その試合と試合の間でも、人々が日常的にサッカーについて議論し、いろいろなアイディアが生まれてこそ、サッカーは本当の文化になるのではないだろうか。誰もが話題にしそうな場面について、初めから議論できないようにしてしまえば、前進するスピードは遅くなり、同じことが繰り返されるだけだろう。

(取材・文 河合拓)


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