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[関東リーグ]名門を支える小柄な大将 FP吉成圭「僕はチームを守っていかないといけない」

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[12.28 関東リーグ第18節 フウガすみだ2-4ファイルフォックス 駒沢]

 タイムアップのブザーが鳴ると、ファイルフォックスのベンチは歓喜に包まれた。その中に一人、号泣していた男がいた。かつての日本代表のエース、FP木暮賢一郎が長らく背負っていた11番を付けた選手兼監督のFP吉成圭だった。

 Fリーグができる前、関東リーグが国内ナンバー1リーグだった頃、吉成は鷺沼SCの先輩でもある木暮に誘われ、フットサルを始めた。当時のファイルフォックスは、カスカヴェウ(現ペスカドーラ町田)と並び実力、人気を二分するチームだったが、獲得したタイトルの数では他を圧倒していた。当時のチームには木暮のほか、FP難波田治、FP小宮山友祐、FP岩田雅人、FP稲葉洸太郎、FP森岡薫ら、日本代表選手も多数在籍。思いきりの良さと強烈な左足のシュートに光るものを感じさせた吉成だったが、ピッチ外でのムードメイカーとして目立つ存在だった。

 しかし、Fリーグ開幕が決まると、チームの主力選手たちの多くは移籍を決断する。ファイルフォックスはF参入を目指さずに、地域リーグで活動を続けることになったからだ。そのチームに残った吉成は、チームの得点源へと成長し、2007年関東リーグでは得点王、ベスト5に輝いた。

 この活躍を受け、吉成自身もFリーグのシュライカー大阪からオファーを受け、移籍した。だが、ケガもあり、本来のパフォーマンスを出し切れないまま、3シーズン後にファイルフォックスに復帰した。以前に付けていた背番号3が埋まっていたこともあり、木暮の着けていた11番を背負うことになったが、チームには同じくFリーグ挑戦から復帰していた難波田らもいたため、自身のプレーに専念できていた。

 ところが昨シーズン終了後、難波田をはじめ多数のベテランや主力がチームを離れる。これを受けて吉成は、選手兼監督になった。若手にファイルフォックスの伝統である『ファイティングスピリット』や『堅守速攻』を叩き込みながら、自身のプレーやコンディションにも細心の注意を払う。関東リーグ開幕前には、2部に降格するのではないかと心配されたファイルフォックスだったが、そんな吉成の下で団結し、見事に準優勝という結果を残した。名門を牽引した165センチの小兵は、少なくないプレッシャーを感じながら1年を戦い抜き、喜びの涙を流した。

 フウガすみだ戦後、吉成は「泣きマネっす。泣きマネ」と最初に言ったが、すぐに「そりゃ、ああなりますよ。この準優勝は、特別ですから」と、シーズンを振り返った。

「今季は大幅に選手が入れ替わって、不安がかなり大きかったんです。すごい若いチームだし。だから、とにかく一丸になって勝利を目指そう、相手に気持ちで負けないとか。ファイルの伝統の部分を口酸っぱく突きつめてきたら…気づいたら2位ですよ。やっぱり、当たり前の2位じゃないから。昨年まで長らく出番のなかった選手たちが、ピッチの上で気持ちを出して、ファイトしてくれていた。今日のゲームを見たらわかると思いますが、個人でも成長したし、その個人が集まったという意味で、チーム的にもすごく成長したと思いますよ」

 もちろん、吉成も大きく成長した一人だ。ともにプレーするGK石渡良太は、「昨年まで、(難波田)治とかに怒られている姿を思い出すと、すごく成長したと思う」と証言する。以前は自身がゴールすることに強いこだわりを持っていたが、ノーゴールだったフウガすみだ戦後も「いいんですよ、僕はもう。声を出して、みんなを動かすだけで。…だけ、はマズいな(笑)」と、チーム全体に気を配っていた。

 試合直後は涙に暮れていた吉成だが、30分後には気持ちを切り替えていた。「やり切ったッス。でも、これが終わりじゃないので。また年が明けて地域チャンピオンズリーグや選手権予選もあります。そこでフウガと戦うことも、うまくいったらあるので。今日は彼らの中で、『もう優勝も決まっているし』というのが、どこかにあったと思う。でも、次に当たるときは、彼らに勝ち点のアドバンテージはないし、100パーセントのなりふり構わずに来るフウガとやることになると思うから。今日の勝利は忘れて、またイチからやっていきたいですね」。

 昨年、ファイルフォックスから2人の主力選手が、フウガすみだに移籍した。来季からフウガすみだはFリーグへ行くが、今後もファイルフォックスが関東リーグに所属している限り、優秀な選手は引き抜かれていくだろう。だが、吉成はそんなチームだからこそ、守っていきたいという。

「僕はチームを守っていかないといけない。全盛期のファイルフォックスと言われる時代があって、そのときに『Fリーグに行きたいヤツは、勝手に個人でチャレンジしろ。イヤになったら、戻って来い』という感じがあった。僕もそれでチャレンジして戻ってきましたが、そのころチームは本当に苦しかった。地域CLにも出られなかったし、(2部との)入れ替え戦にも回ったりして。でも、その間にチームを守ってくれたキタトモさん(北智之)とか、(松村)栄寿さんという存在がいる。その人たちの苦労があって、今ファイルフォックスが存続している。そういう意味でも、簡単になくしてはいけない、伝統のあるチームだと思うし、次は俺が守る番かなと思っているから、気を引き締めてやっていきたいです」

 そう言うと吉成は、ふと胸のエンブレムに目を落とし、ニカッと飛び切りの笑顔を見せた。

(取材・文 河合拓)

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