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新たなCLへの道となるか? 「日本人東欧クラブ買収」

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 クラブワールドカップに出場するFCバルセロナが来日した。連日、欧州最高峰のクラブに触れられる最高の12月を過ごせそうだ。その大会開幕直前に、日本とヨーロッパに関わる、ある会見に出席してきた。

「Mコンサルティンググループ株式会社 ヨーロッパサッカー1部リーグ経営参画記者会見」

 8日に都内代官山にて行われた会見だ。過去に福島県リーグ・バリエンテ郡山(現シャンオーレ郡山)の経営を主導し、PR会社の社長としても200社2000商品を手掛けた立川光昭氏(39)が、東欧のマケドニア1部リーグの強豪クラブ・FKラボトニツキの経営に参画する。

 同社は現地法人を設立し、そこを通じてラボトニツキの全株式を段階的に取得していく方針だ。会見にはマケドニア側から新会社の取締役ボバン・バブンスキー(旧ユーゴ、マケドニア代表/元ガンバ大阪)も同席した。
 
 選手に続き、経営者も日本から本場に進出していくという試み。これまでも日本人オーナーによるヨーロッパ強豪国のクラブ買収や、本田圭佑や岡崎慎司らが下部リーグのクラブにコミットする事例がある。今回の件は、これらとは少し趣の違う動きが感じ取れる。“日本サッカーの欧州進出”の新しいモデルとなりうる要素が見いだせるのだ。

 マケドニアリーグの欧州内でのランキング(UEFAランキング)は 40位/全54リーグだ。国際的に有名な選手も在籍していない。決して強国とは言えない国のトップクラブを買収した、という点がこの話の真新しさだ。きっかけは、会見にも登壇した現地法人の取締役、池田俊輔氏のヨーロッパでのネットワークから。マケドニア側の考えはこうだった。「国内リーグのライバルクラブが外国の資本を導入し、強化されていく姿を目にした。我々も採り入れたいという思いがあった。私は日本人の細かい経営手法について知っていたから、ぜひとも彼らを迎えたかった」(会見にて、バブンスキー氏)

 旧ユーゴの南端に位置するマケドニアは、東にブルガリア、南にギリシャと国境を接する人口320万の小国だ。90年からのユーゴ紛争後、同地域内で唯一武力衝突なしで91年に独立を果たした。面積は日本の九州の2/3程度で、最大の交易国はギリシャ。EUには加盟していない。

 ちなみに「マケドニア」とは本来地域名で、ブルガリア、ギリシャの一部にまたがる地域を指す。国家名と地域名が一致しないという理由から、一部の国が「マケドニア共和国」という名称を公式的なものとは認めていない。具体的にはEUと日本だ。日本での正式名称は「マケドニア旧ユーゴ―スラビア共和国」。英語の表記でも”FYR Macedonia”を度々目にする。Formar Yugoslav Republic=旧ユーゴということだ。

 サッカーに関していうと、FIFAランキングは136位(日本は53位)、ワールドカップ本大会、ヨーロッパ選手権の本大会への出場歴はない。日本代表とのAマッチ歴はなく、両国リーグ間の選手の往来では、マケドニアから日本への流れの方が活発だ。Jリーグではこれまで5人がプレーした。バブンスキー氏は96年から98年までガンバ大阪でプレーし、CBとして若き日の宮本恒靖氏らとともにDFラインを支えた。2013年に湘南ベルマーレでプレーした長身FWステボはKリーグでは大活躍を見せたが、日本の地では8試合1ゴールの結果に終わっている。

  FKラボトニツキは、そんなマケドニアのトップクラブだ。 UEFAクラブランキングではこの国トップの254位(全456クラブ)。リーグ戦優勝回数は12回(リーグ改変前を含む)、カップ戦は9回(同)を誇る。ここ10年の国内リーグで、7シーズンで3位以上をキープしている。

 この点が重要なポイントのひとつだ。

 マケドニアリーグの優勝チームには、翌シーズンのチャンピオンズリーグ予備予選出場権が与えられる。2位、3位とカップ戦優勝クラブには、ヨーロッパリーグ予備予選の出場権が。これらによる出場フィーが以下のように見込める。

 ■チャンピオンズリーグ予備予選 1回戦敗退時でも約5800万円。出場フィー約2600万円+「国内優勝チームがUCLに出場しなかった場合のフィー」約3200万円プラス。マケドニアのクラブは1位のみが出場権を得るため、これが適応される見通し。
 ■ヨーロッパリーグ予備予選  約2600万円~3000万円(1回戦~最終プレーオフ=4回戦相当)。

 ラボトニツキは、今年の7月にヨーロッパリーグの予備予選最終プレーオフに出場。2試合合計でわずか1ゴール差での敗退を喫した。賞金は3000万円にとどまったが、仮に本大会に出場していれば出場フィーだけで約3億1000万円を手にしていた。ちなみにチャンピオンズリーグの場合、本選参加だけで約15億円のフィーが得られる。
 クラブの年間運営費は「J2の中位程度」というから、財政的に見ても両大会予備予選の恩恵はある。本選への出場権獲得となれば、さらにメリットは大きくなる。つまりは新経営陣は「両大会予備予選への出場で収益を確保しつつ」、「将来的にはチャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグでの戦いを展望したビジネス展開」を行うことになる。この点は、これまでの日本人オーナーによるフランス、スペインなどでのクラブ買収の歴史をふまえて誕生した、新たな流れといえる。

 立川氏は会見でこういった問題意識も明らかにした。「13-14シーズンには4人いたチャンピオンズリーグ本選進出選手が、今季は0人になった。この問題も将来的には改善したい。現地のクラブ文化を尊重し、吸収しつつも日本人選手が常にCL、EL本選に出場できる状況をつくりたい」

 一方で、現状をこうも認識している。「既存のクラブでも代表選手は多く、国内ではビッグクラブ。しかしCLやELの予備予選に出るとどうして力の差を感じる。そこはエイヤーと気合を入れて戦ってもどうにかなるレベルではない。かといって、スター選手を獲得すれば良いということではなく、チームそのもののステージを抜本的に高めなければいけない」。つまりは、国内リーグでの地盤を維持しつつ、少しずつベースをアップする作業に取り組むことになる。

 CL、ELの出場フィー獲得以外の経営ビジョンとして紹介されたのが、「日本人選手獲得」と「ユース部門の強化」だ。EU圏外のマケドニアリーグの外国人枠が「登録は4人、同時にプレーも4人」が可能だ。一方でこれ以外にも、マケドニア協会に5000ユーロ(約55万円)を支払えば、国内リーグに限り追加登録も可能だ。

 これを受け、バブンスキー氏はこんなプランを明かした。
 「可能な範囲内で日本人選手を多く獲得していきたい」

 これはユース年代の選手にも当てはまることだろう。池田氏はクラブの今後の展望として「ユースチームの強化」を挙げた。「日本からの資金で環境をより整備し、良い選手を育ててチームを強化したい。質の高い選手が外国のクラブにも獲得されるような流れをつくりたい」

 天然芝2面、人工芝2面という同国有数の練習施設を有するラボトニツキは、ユース世代の実力でもこの国のトップクラブだ。所属選手のほとんどが同国の年代別代表に選ばれている。「今後、日本の高校・大学・Jリーグとコミュニケーションを取らせていただきつつ、選手の迎え入れに取り組んでいきたい。欧州での厳しい競争に挑んでいただきつつ、受け入れ先のオーナーは日本人という安心感を訴求したい」(池田氏)。トップ、ユースの双方で「新たな日本選手の欧州での拠点づくり」。この点も経営参画での大きな狙いのひとつだ。

 今回の経営参画には、当然、課題も出てくることだろう。「マケドニア現地の悩みとして、マーケット規模の小ささがある」と立川氏はいう。国土が九州の3分の2ほどしかない小さな国なのだ。何より、マケドニア国内リーグで現状を維持しながら、成績を上乗せしていくマネジメントは簡単なことではない。結局は、既存の経営努力を粘り強く続けていくことになるだろう。

 ホームタウンのファンにスポーツを観ること/することの喜びを提供すること。試合で勝つこと。観客動員を増やすこと。グッズを売ること。広告スポンサーを獲得すること。そして放映権料を得ること。さらに有能な選手を育成し、国外クラブへ送り出すことにより移籍金を獲得していくことも加わっていく。

 立川氏は会見でこのような考えも口にした。「現地マケドニアの企業・文化・考え方だけでは限界という声があった。だからこそ、我々も参画を望んだ。クラブに日本の経営ノウハウを取り入れれば面白いのではないか、と感じている。何度もコミュニケーションを取らせていただく中で、『我々に足りないものを現地がもっていて、また現地に足りないものは我々が提供できるのではないか』と考えるに至った」

 “サッカー強豪国ではない国のトップチームを買収”という新しい挑戦。来日中のバルサのように"チャンピオンズリーグで優勝”といった目標は現実的ではないにしても、日本サッカーが選手の移籍以外で欧州最高峰に関われる、別のチャンネルを生み出していくのではないか。この先、たとえ困難が立ちはだかっても、その経験と克服ノウハウの取得が、日本サッカーの肥やしとなっていくはずだ。

(取材・文 吉崎エイジーニョ)


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