beacon

19年前の悪夢再び…前年度王者・早稲田大が2部降格、「本気になったのが遅すぎる」

このエントリーをはてなブックマークに追加

懸命に言葉を紡いだ早稲田大・新井主将

[11.5 関東大学リーグ第21節 桐蔭横浜大3-2早稲田大 BMWス]

 約一年前の懸念が的中してしまった。2015年11月5日、関東大学サッカー1部リーグで19年ぶりに優勝した早稲田大古賀聡監督は「前回優勝したときは、翌年に降格し、その後は8シーズン1部へ上がれなかった。ここをスタートに」と険しい表情で口にしていた。

 あれから約1年、前年度王者・早稲田大は泥沼の7連敗を喫し、12年ぶりの2部降格。指揮官の一言は現実に……。二度目の悪夢となった。

 1部残留を目指す早稲田大にとって、勝利が必須な桐蔭横浜大戦。前半を2-0で折り返したが、後半に3失点を喫して敗れた。今季1試合を残しての2部降格決定。試合後にはスタンド部員の前に、登録メンバーやスタッフも集まり、“青空ミーティング”が行われていた。

 ピッチレベルへ立った選手たちはうなだれる。上方のスタンド部員からは熱い声もかかった。主将のDF新井純平(4年=浦和ユース)が「この責任の全ては俺にあると思っています」と声を発する。

 言葉に詰まりながらも「来年、1年で1部に戻るために。それぞれが降格を受け止めて、何を残せるか。背負っていかなければいけないのはもちろんだけど、次に何ができるのか。残り1試合で生き様を見せないといけない」と自らに言い聞かせるように話した。

 選手たちが順に話すなか、「頑張ったって言うなよ!頑張ってないからこうなったんだろ!」。仲間たちからは時折、厳しい声も飛んだ。

 その後に話し始めた古賀聡監督の声は、いつにも増して熱を帯びていた。「自分に矢印を向けて戦わせることができなかった俺の責任だ」と言うと、「この1年、遅すぎる。本気になったのが遅すぎないか? 土壇場になって殻を破って、さらけ出して、何かを伝えようとしたけれど、それじゃあ遅いんだって!」と叫ぶように話した。

「今週あれだけ変化してできるなら、なぜやらなかった!なぜできなかった!何がブレーキをかけていた!そこが問題だろ!」

 今季は開幕2連勝の5戦負けなし(3勝2分)でシーズンをスタートさせた。しかし第5節から第11節まで、7試合勝ちなし(3分4敗)と勝利から遠ざかり、前期リーグを9位で終えた。中断期のアミノバイタル杯では準優勝し、総理大臣杯では8強入り。東京都トーナメントでは優勝し、19年ぶりに天皇杯本選出場を果たした。

 しかし迎えた後期リーグは低迷。後期開幕2連勝でスタートし、全日本大学選手権(インカレ)圏内の5位を維持していたものの、そこから失速。連敗続きで一気に降格圏の11位に転落し、流れに抗うことはできなかった。

 前節・慶應義塾大戦に1-3で敗れ、この1週間は濃い練習を繰り返してきたというが、時既に遅し。8戦ぶりの複数得点をしたものの、桐蔭横浜大に逆転負けし、降格は決まった。かつて1996年に1部優勝したときは、翌年に2部へ降格しており、同じ轍を踏んでしまった。なぜ、もっと早く危機感を持てなかったのか。なぜ、もっと早く開き直れなかったのか。後悔は募るばかりだ。

 昨季はDF金沢拓真主将を筆頭に、DF奧山政幸(現・山口)やDF八角大智(現・盛岡)、FW宮本拓弥(現・水戸)を擁して、19年ぶりのリーグ制覇を成し遂げた。前線も含めた全員がボールを追い、守備をするチームは、22戦19失点のリーグ最小失点の数字を誇った。しかし今季は、ここまでで21戦29失点。前年度からの主力である新井主将やGK後藤雅明(4年=國學院久我山高)の奮闘むなしく、昨季の“堅守”は鳴りを潜めた。

 攻めては、今季21試合を終えて、総得点数はリーグワーストタイの21得点。エースFW山内寛史(4年=國學院久我山高)が故障で離脱するなか、FW中山雄希(4年=大宮ユース)がチーム最多の7発と奮闘。MF相馬勇紀(2年=三菱養和SCユース)が3得点5アシストと活躍をみせたが、結果につなげることはできず。相馬とDF熊本雄太(3年=東福岡高)のホットラインでセットプレーから点を稼いだ時期もあったが、終盤戦は相手のマークに苦しんだ。

 新井主将は「人として一番であれば、結果はついてくるというのは、先輩方が表現してくれました。そんななかで一番になりきれなかった。人間力も成長させることができず、自分の自己満足で終わっていたのではないかなと言うのは、すごく感じています」と言う。

「どこか矢印が違う方向に向いていたんだと思います。負けが続き、失点に関して、どこか“自分の責任じゃない”とまでは言わないですが、自分自身に矢印を向けきれなかったんじゃないか。それが監督の言う『プライドを捨てきれなかった』というところにつながってくると思いますし、それが全てなんじゃないかなと思います」

「抽象的ですが、精神的な部分も含めて、人間力の至らなさなのかなと思います。我慢強さも含め、そういった一人ひとりの人間的な弱さの差が、2得点から3失点などの結果につながってしまったのかなと……」

 選手たちの口からは“人間力”や“人として”と言った言葉が多く発せられた。歴史あるワセダの看板を背負うことは、自分たちを奮い立たせてくれるが、時として自分たちの首を絞める。

 この日の対戦相手・桐蔭横浜大のMF今関耕平(4年=千葉U-18)主将は、「自分たちよりも早稲田大の方が伝統など背負っているものが違うなと、戦っているなかで感じました」と口にした。対峙した相手にも伝わるほど、早稲田大の選手たちは重い荷物を背負い、戦っていた。伝統校という重圧をプラスに転じることができれば、状況は違っていたかもしれない。

 しかし伝統校という重圧は、心地よい負荷に変わるときもある。仲間やOBたち、支えてくれる人たちの思い。背負うだけではなく、たくさんの人々の思いに自分の気持ちも乗せて、独りではなくチームとして戦っているんだと認識したとき、それは力になる。

 新井は言う。「仲間の思いを背負って戦うとか、支えてくださる方のために戦う意識とかは、ワセダならではの“らしさ”がある部分だと思っています」。

 降格は決まったものの、今季のリーグ戦はまだ1試合が残っている。「生き様をみせたい」と4年生たちは誓う。彼らは“2部へ落とした世代”と刻まれてしまうが、“19年ぶりの優勝を支えた世代”でもある。酸いも甘いも経た4年間。今季ラストゲームで海老茶の戦士たちは何を残すか。

(取材・文 片岡涼)

TOP