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[特別対談]U-19代表FW小川航基×MF堂安律「“今の俺たち”を成長させていく」

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U-19日本代表FW小川航基(左)とMF堂安律

 10月に行われたAFC U-19選手権で初優勝を飾り、来年5月に韓国で開催されるU-20W杯出場権を獲得したU-19日本代表。全試合無失点と鉄壁の守備を築く中、チームに勝利をもたらすゴールを演出し続けたのが、エースとしてネットを揺らすFW小川航基(ジュビロ磐田)と高い技術を駆使して好機を生み出すMF堂安律(ガンバ大阪)の2人だった。東京五輪世代の攻撃の核となる2人が、歓喜に沸いたU-19選手権、将来、そしてお互いのことを語り合った。

5番目のキッカーで「俺は持ってる」(小川)
大会MVPも「何で俺かなー」(堂安)


――来年のU-20W杯の出場権を獲得し、さらにAFC U-19選手権を初制覇しました。帰国後の反響も大きかったと思います。

小川「正真正銘のアジア王者となったことで、皆が「おめでとう!!」と祝福してくれました。普段はあまり喋らないような人でも(笑)。ただ、本当にうれしかったですね」

堂安「(大会が行われた)バーレーンでは正直あまり実感がなかったけど、帰国して空港についたときにメディアの人や一般の方、田嶋(幸三)会長が迎えてくれたので、いろいろな人が応援してくれていたんだと実感しました。もちろん、史上初の優勝だし、それが無失点での優勝だったので、すごいことをしたんだなとは思いましたが、大会前の遠征で対戦した(U-19)フランスがすごく強くて、そこでの経験もあったから、案外簡単に勝ち上がれた気がしないでも…(笑)」

小川「うーん。でも、それは皆が若干感じているとは思うような…。何か思ったよりみたいなのは(笑)。ただ、それがアジアのレベルだからなのか、自分たちが成長したからああいう試合ができたかは正直分からないですね」

堂安「分からないね。でも、第2戦のイラン戦で引き分けて(△0-0)、第3戦のカタール戦に引き分けたら終わりという状況で、しっかり勝てた(○3-0)のは大きかったし、そこを乗り越えたことで勢いも付いたと思う」

――初戦のイエメン戦(○3-0)は硬さがあったように感じます。

小川「どのカテゴリーのどの大会でも、やっぱり初戦は難しいですね。予選のときもそうでしたが(対ラオス○2-0)、大会の初戦は本来の力を出すのは難しいというのは感じます」

堂安「イエメン戦では前半を0-0のままで終わってハーフタイムを迎えて、多分全員が『俺ら大丈夫なのか』と思っていたと思う」

小川「イエメンの実力を考えても『まずいなー』という感じだった」

堂安「試合に勝った後も、そういう話をしたよね。小川くんとは食事会場の席が近かったので、『俺らヤバいな』という話をしたのを覚えています」

――ただ、0-0で迎えた後半開始直後に小川選手が先制点を奪います。あの1点は大きかったのでは?

堂安「予選のラオス戦のときもそうでしたが、小川くんはチームが苦しいときにゴールを決めてくれるんですよ。チームとしても本当に楽になって、メンタル的にも落ち着いたし、さすがだなと感じましたね」

――小川選手自身は、「俺が決めてチームに勢いをもたらしたい」という気持ちは?

小川「苦しいときにゴールを奪うというのを、高校時代から自分のテーマとして掲げてきました。チームが一番点がほしいときに決めるのがストライカーだと思ってやってきたので、そういう状況、そういう場面で結果を残せているのは自分にとっても自信になりますが、チームメイトの力があってこそだと思っています」

堂安「やっぱり、自然とボールを集めたくなる選手なんですよ。僕は出し手ですけど、良い動きをしてくれるのでパスを出したくなる。本当に皆が一番見ている選手なんじゃないかなと思います」

小川「自分もチームメイトに結構要求しているよね。『自分がこう動いたら、ここに出してほしい』というのを皆に伝えているので、そういう積み重ねが得点という形に表れていると思います」

堂安「俺も『こう動いてほしい』と伝えていますが、準々決勝のタジキスタン戦(○4-0)の先制点なんかは意思が合ったゴールだったと思う。中東の選手はボールウォッチャーになることが多く、小川くんとは『ゴール前に入ってこんと、止まっていてくれ』という話をしていて、ファーサイドに合わせるだけのボールを送ればチャンスになると思っていた」

小川「相手がボールウォッチャーになって、自分のことを見ていなかったからね。律と目が合ったかは分からないけど顔を上げたのは見えたので、『これは絶対に来る』と思って準備していたし、実際に良いボールが来たので自分は合わせるだけだった」

――タジキスタン戦では堂安選手も鮮やかな大会初ゴールを奪いました。

堂安「グループリーグで得点がなくて、ストレスが溜まっていましたね(笑)。ただ、ゴールが決まってうれしいというよりも、『やっとチームのために何かできた』という気持ちの方が大きかった。『俺がやるぞ』ということは考えず、チームが勝つためのプレーをすることしか考えていなかったのが、良かったのかなと思います』

――ゴール後の両手を挙げたパフォーマンスが印象的でしたが。

小川「ああいうスーパーゴールを決めたら、すかしたくなるよね(笑)」

堂安「あれはね(笑)。でも、グループリーグで点を取っていたら、ああいうことはしなかったですよ。グループリーグで決めていたら普通に喜んだだけだと思うけど、なかなか点を取れていないと、自然とああいう動きになっちゃいますよ」

小川「うん、分かる。何か貫禄を出したくなるんだよね(笑)」

堂安「でも、あとから皆に怒られました。『ベンチに来るって約束してたやんけ』って(笑)。『すいませんでした』って謝りましたよ」

――準決勝のベトナム戦(○3-0)は2人ともベンチスタートとなりました。

小川「メンバーはガラリと代わりましたが、誰が出ても同じサッカーができるのがこのチームのいいところです。なかなか出場機会を得られない選手もいたので、『やってやるぞ』という気持ちが伝わってきた。自分は出場している選手をサポートしようと思っていたし、信じていました」

堂安「僕たちが試合に出ているとき、ベンチスタートとなった選手は本当にサポートしてくれるので、僕も全力でサポートしようと思った。ベンチでもできることがあるし、いつもやってもらっていることをやろうと意識しました。本当にチームワークもあったし、ピッチ上からピッチ外の何から何まで、優勝しないといけないチームだったんじゃないかなと感じますね」

――決勝のサウジアラビア戦(☆0-0PK5-3)では、PK戦の最後のキッカーを小川選手が務めました。

堂安「正直、決めると思っていましたよ。どこに蹴ろうが、もしGKにコースを読まれようが、この雰囲気は入るやつやなと思った。ポストに当たっても入るやろという雰囲気、そういうチーム全体の雰囲気があったので外すことはないだろうと見守っていました」

小川「悪夢というとあれですが、選手権の場面(桐光学園3年時、3回戦青森山田戦のPK戦で5番目のキッカーを務めて失敗)が頭をよぎりもしたし、『考えるな、考えるな』と思っても、やっぱり出てきてしまう。でも、巡り合わせというか、『自分が決めれば勝ち』という場面に結構巡り合うんですよ。その状況をプレッシャーに感じるのではなく、『あっ、これは来た。俺は持ってる。これを決めてやろう』と考えるようにして。実際に最後、決めることができておいしかったですね(笑)」

――堂安選手は大会MVPに輝きました。

堂安「頂いちゃいました(笑)。でも、うれしいですけど、素直に喜べないんですよね。やっぱり勝ち上がれたのも、大会を無失点で抑えてくれたディフェンス陣がいてくれたおかげやし。MVPと言われた瞬間はホンマに「何で俺かなー」と思ったし、この話はどこで聞かれても「何でやろ」と答えているくらいです」

小川「いや、相手は本当に律のことを警戒していたよ。律にボールが入るのを相当嫌がっていたのが、同じピッチに立っていて分かったから。それだけ警戒されてマークがつきながらも、結果を出したから評価されたと思うけど」

堂安「相手が警戒してたなんて、そんなの小川くんも一緒やん」

小川「いや、俺は律ほどではなかったよ(笑)」

「こいつヤバいな」と思った(小川)
初対面でも関係なかった(堂安)


――プレーヤーとしてのお互いをどのように見ていますか。

堂安「小川くんは本当にエースやし、心強い。さっきも言いましたが俺は出し手なんで、本当にゴールを決めさせたいというか、こいつが決めてくれればという気持ちで試合に挑んでいます。ただ、ガムシャラにゴールを狙うだけでなく、状況を見てパスも出してくれるので、良い信頼関係を築けていると思う」

小川「律はボールを受けやすい持ち方をしてくれる。FWとしてはありがたいパサーでもあるし、ドリブルもできて、シュートもできる、本当に何でもできる選手だと思う。こういう選手がチームにいると点を取れるという感覚になります」

――初めて会った時のことは覚えていますか。

堂安「覚えてますよ。まだU-18代表の頃、俺が一個上の代表に初めて入ったときに小川くんがいました」

小川「えっ、そうなの? 最初って覚えてないですね(笑)」

堂安「覚えてないの? (15年3月の)大分の合宿だよ。俺は知らんかったんですけど、(15年1月の)ロシア遠征に参加した選手から小川くんのことを『スゲー良い選手』と聞いていて、そうなんやと思っていた。一番覚えているのは、紅白戦で俺がボランチに入ったとき、小川くんが『俺、動くから見てて』とずっと俺に言ってきたこと。初対面でも関係なしで、要求がすごいと思った(笑)」

小川「今も昔も、要求は結構するね」

堂安「自分が点を取るためなら、どういう手段を使ってもいいみたいな感じやった(笑)」

小川「代表でも、チームでもしつこいと思われているかもしれない…。『俺、こう動くから見てて下さいね』って言うと、皆『分かってるよ』みたいな感じがする(笑)。俺が律に持った第一印象は(15年4月)の神奈川合宿かな。すごいアシストをしてたよね」

堂安「あっ、あの試合か」

小川「ベンチで練習試合を見ていたら、藤谷(壮=神戸)が『堂安さん行った、堂安さん行った。あっー、堂安さんだー。ドゥーアン行ったよ!!』みたいな(笑)。分かります? 『エグい、エグい、ドゥーアン!!』って(笑)。確かにものすごいプレーで、『こいつヤバいな』って思った。それが最初に抱いた印象だったかな」

堂安「でも、そのとき、俺はサブ組ですからね。前後半45分で分かれていて、小川くんはスタメン組だったよね」

――年齢は小川選手が一つ上になりますが。

堂安「年齢は関係ないですよ。役割は違うかもしれないけど、小川くんが試合中に点を取っていれば、悔しい思いもあります。年上やけど、一年後に小川くんのようになっていたいという考えではなく、一緒にピッチに立っているので負けられない。ライバルですよ」

小川「律は年齢では一つ下だけど、プロデビューしたときの試合(ACLのソウル戦)をテレビで見ていて、年下に見えなかった。それは皆が思うところだし、年上だろうがガツガツ行く。そこは強みだと思う」

――今年は2人にとってプロ1年目でしたが、振り返ってみていかがでしたか。

小川「自分はリーグ戦の出場がなかったし、厳しかったですよね。今までのサッカー人生でベンチ外というのは、あまり経験したことがなかったので、なかなか試合に出られない悔しさがあった。今までの積み重ねを断ち切られるというか、折らされたというか。心が折れるということはなかったけど、プロの貫禄を見せ付けられた気がします」

堂安「俺は想定内だったかな。目標はもちろんJ1でスタメンで出ることだったけど、J3で実戦を積むのが一番だと思われているとは感じていたから、まずはJ3で結果を残そうと思った。イメージどおりに結果を残せたし、二ケタ得点の目標は達成できた(21試合10得点)から。でも、後半戦は宇佐美(貴史)くんが移籍して、攻撃の選手が一つ空いたということでJ1で出場機会も得られましたが(3試合で25分間出場)、もっと出場時間がほしかった。もちろん悔しさはあるし、満足なんてしていない。J3で結果を残せて、想定内の1年だったとは思うけど、全然マックスではないですよ」

小川「エコパでの試合(J1第2ステージ第8節磐田対G大阪)では、途中から出てきた律がアシストを決めて、自分は『いつもどおりだなー』と思ったけど、周囲から『あいつ、スゲーな』と言われてやっぱり悔しさもあったし、『俺も試合に出たい』という気持ちが強くなったよ」

――お互いに今後「こういう選手になってほしい」というリクエストはありますか。

堂安「FWは内容も大事だと思うけど、やっぱり結果やと思う。小川くんは代表に来たら、絶対に毎回点を取っているイメージがある。俺らは『今回だけは取らせない』とか冗談で言っているけど(笑)、必ず点を取って帰って行く。だから、どのカテゴリー、どんな場所でも、どのステップ、どんな環境にいても内容ではなく、そういうペースで点を取り続けてほしい。来年のU-20W杯でも期待しているし、将来俺らがA代表に入ったときにも、今と変わらずに点を取るのが当たり前のストライカーでいてほしいですね」

小川「律は何でもできるというのが強みだと思うので、どのレベルでもそれができるようになってほしいかな」

堂安「今できていることを、どのステップでもできるようになるのが一番やね。意外と俺らは感性が似ているかもしれないんですよ。考え方もそうやし、負けず嫌いなところがあるし」

小川「上のカテゴリーに行って、つぶされてしまえば、チームやファン・サポーター、メディアの皆さんから『期待外れ』と思われてしまうので、期待されて試合に出たら、その期待どおりのプレーを見せられるようになりたいですね」

――来年の5月には韓国でU-20W杯、そして20年には東京五輪が行われます。最後に今後の抱負をお願いします。

堂安「東京五輪が行われるとき、俺は22歳です。若いとは思わないし、そのときはバリバリ海外で活躍しておきたいイメージを持っています。俺は一日でも早く海外に行ってプレーしたいと思っているので、そのためにはU-20W杯での活躍がキーになってくると思う。それは俺だけでなく、小川くんもそうだと思うし、皆意識しているはずです。ただ、今回のAFC U-19選手権でチームのために戦うことが、自分のプレーにつながってくると実感したので、自分本位になるのではなく、これからもまずはチームが勝つためのプレーを考えてピッチ立ちたい」

小川「手倉森(誠)さんから言われた言葉なんですが、今まで10代でA代表に入った選手は数選手しかいないし、今はU-20W杯、五輪を経験してA代表という階段ができているので、そうではなくU-20W杯からA代表を目標にしろと言われて、それは本当にそうだなと感じました。もちろん、だからと言って早々にはうまくいかないので、高い目標を持ちながら成長を続けていくのが大事だと思う。まずはU-20W杯で、“ドン”とインパクトを与えられるように頑張ります」

(取材・文 折戸岳彦)

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