beacon

「託せるのは彼しかいない」日本一の鳥栖アカデミー築いた“陰の立役者”、高校最後の守備固めで歓喜のガッツポーズ

このエントリーをはてなブックマークに追加

サガン鳥栖U-18DF末次晃也(3年)

[12.30 日本クラブユース選手権U-18大会決勝 FC東京U-18 2-3 鳥栖U-18 敷島公園サッカー・ラグビー場]

 エースの勝ち越しゴールが決まった直後、サガン鳥栖U-18田中智宗監督はベンチに控えていた副キャプテンに出番を告げた。「最後の最後のギリギリの場面、チームを託せるのは彼しかいない。何の迷いもなく、最後に入れることができた」。後半アディショナルタイム、DF末次晃也(3年)はピッチに立ち、90分間走り抜いた仲間たちとともに日本一の喜びを分かち合った。

試合後、胴上げされた末次

 振り返ること2017年、サガン鳥栖U-15は日本クラブユース選手権(U-15)大会と高円宮杯全日本ユース(U-15)大会の2冠を制し、クラブの全カテゴリで初めて日本一の栄誉を手にした。当時、チームを率いていたのは現U-18指揮官の田中監督。主将を務めていたのが末次だった。

 3年前の高円宮杯期間中、報道陣から「チームの核」を問われた指揮官は、迷わず末次の名前を挙げていた。

「今年は彼のおかげで楽をさせてもらっている。『日本一のトレーニングをして、日本一の選手にならないと、日本一のチームにはなれないんだよ』ということを、彼を中心に発信してくれていて、私があまり言わなくてもいいくらい」。

 鳥栖U-15は当時、夏の大会で大活躍して大会MVPにも選出された選手が退団するなど、戦力面・精神面ともに打撃を負っていた。だが、末次を中心にその逆境を力に変え、冬の2冠目につなげた。指揮官は決勝の試合後にも、そんな主将について「すごい中学生」と賛辞を惜しまなかった。

 末次は当時を次のように振り返る。

「自分は中学校の時からそうだったんですが、『嫌われることを怖がるな』ということを田中さんから教えてもらった。それが何かと言うと、誰かを注意できる人、耳の痛いことを言える人がいる集団が必ず強いと。それを僕は実践できるようにならないといけないと思っていた。それができるということはプレーで示せるということにもなるので、嫌われ役になることを心に留めていました」。

 そんなキャプテンシーは3年が経っても健在。今季は主将のFW兒玉澪王斗(3年)とともに、副主将としてチームを支えており、指揮官に「彼に対する信頼というのは絶大なものがある」と言わしめる存在となった。

 一方、変わったものもある。それは末次がピッチに立つ時間だ。中学時代はセンターバックの一角で守備の中心を担っていたが、高校では守備固めの起用がメイン。「自分はスタメンじゃないので、常に何ができるかを考えながらやっていた」。時にはテクニカルエリアに飛び出して出場選手にゲキを飛ばすなど、縁の下の力持ちとして奮闘していた。

「もちろんスタメンの11人は戦ってくれていた。でも強いチームはスタメン11人が戦えばいいわけじゃない。一体感は必要になってくるし、サブの選手もそこを考えている。『チームのために』というのをキーワードにしていて、それは鳥栖らしさにもつながる。そうやって今大会を戦えたと思う」(末次)。

 末次がチームに与えた影響は計り知れないが、最高学年となったシーズンに中学・高校で初タイトルを獲得したのは紛れもない事実。鳥栖U-15は“末次世代”以降の3年間、2度の日本一と1度の全国準優勝を達成してきたが、今季初めて全国制覇を果たしたU-18が、ここから黄金時代をスタートさせる可能性も大いにある。

 アカデミー躍進の“陰の立役者”となった末次は「タイトルを取れたということ以上に今年1年が難しいシーズンで、うまく活動ができなかった中、チームでやってきたことが間違っていなかったとこの大会で証明できたことが良かった。いまの1、2年生にはそれを結果で示すことができたので、財産を残せたのかなと思う」と述べ、鳥栖の未来にも目を向けた。

「来季は初めてのプレミアリーグなので間違いなく難しいシーズンになると思う。ただ、今季の僕たちがどういうふうに練習に取り組んでいたか、どういうふうに試合に臨んでいたかを感じ取ってくれていたと思う。出ていた選手はプレーで示してほしいし、今大会に来られていない人に伝えてほしい。そういったものを僕たちはプレーで示してきたと思う」。

 また末次自身も来季、進学先の関西学院大で新たな挑戦をスタートさせる。

「今年はスタートで出ることが少なかったけど、もう大学への準備は始まっている。みんながオフシーズンで休んでいるのなら自分はやらないといけないし、大学の練習参加も始まるのでしっかりコンディションを合わせていきたい。1年生だからというのは関係なく、そこからアピールしていく」。選手としても、もう一花咲かせるつもりだ。

2017年冬の高円宮杯、鳥栖U-15の主将として日本一

2020年のクラブユース選手権、鳥栖U-18の副主将として日本一

(取材・文 竹内達也)
▼関連リンク
第44回日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会特集

TOP