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“自信を取り戻す戦い”を制したF東京、大熊監督「強くなってJ1に戻るということが証明できた」

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[1.1 天皇杯決勝 京都2-4F東京 国立]

 「ACL!」「ACL!!」。「1億円!」「1億円!!」--。サポーターから何度も景気のいいコールがかけられた。選手たちも笑顔で手を振り、応える。今季はJ2を戦っていたFC東京が天皇杯を制し、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)の出場権を獲得した。悔しさいっぱいの表情で始まった今シーズンを、満面の笑みで終えることができた。

「このチームは自分が見てきた選手(獲得に動いた選手)も多いので、自分自身の夢でもありましたが、彼らのレベルアップに、クラブのレベルアップも含めて、どうしてもアジアに連れて行きたかった。それを達成させてくれたことに感無量かつ、感謝しています」

 今季限りで退任する大熊清監督は目を赤くし、タイトル獲得を喜んだ。J2降格の危機にあった2010年9月に監督に就任したが、残念ながらJ1残留に導けなかった。J1復帰が至上命題だった2011年シーズン。チームに精神的強さを求めてJ2優勝での昇格、そしてACL出場権まで導いた。まさに最高の形で“勇退”することになった。

 因縁の相手を下しての日本一だった。決勝の相手の京都は、J2に降格させられた相手だった。2010年12月4日のアウェー戦に0-2で敗れ、新旧日本代表が揃う“エリート軍団”は、失意のどん底に落とされた。そんな京都に、今季のリーグ戦ではアウェーで4-1、ホームでは6-1、そしてこの日の決勝戦では4-2と叩きのめした。3戦14得点の大暴れで“リベンジ”に成功した。3-1とするスーパーミドル弾を決めたDF森重真人は「きょうもそうだったけど、監督は京都とやるときは、悔しい思いをした相手だから、それを忘れないで戦おう、と話してきた。悔しい思いをした京都にこういう戦いができて、勝てたことが良かった」と胸を張った。

 今季、大熊監督は、タレント軍団を精神的に強くするため、厳しい練習と厳しい言葉で叱咤してきた。ピッチ内外でたくましさを求めた。因縁の相手に3連勝しての載冠は、精神的な成長があったからだと言える。指揮官は試合後のロッカールームで、初めて選手たちを褒めた。DF徳永悠平は「最後の挨拶の時、『今日は本当に感動した。初めてお前たちを褒める』と。ジーンときました。監督を最高の形で送り出すことができた」と吐露した。

 天皇杯は、再びJ1で上位を狙うための、自信を取り戻すための戦いでもあった。圧倒的な強さでJ2を制覇したが、「選手からも、自分たちのサッカーが本当にJ1で通用するのかというところで、謙虚に『分からない』という言葉があった」と大熊監督は明かす。そんな中、徐々に手応えを得た。3回戦では延長戦の末に神戸を2-1で下し、準々決勝では浦和を1-0、準決勝ではC大阪を1-0下して元日決勝の舞台をつかんだ。

 “J1”として挑んだ2010年シーズンの天皇杯は、準決勝で延長の末に鹿島に1-2で敗れたが、たくましくなったチームは、J2として初の日本一という快挙を成し遂げた。大熊監督は「本当に強くなったかということは、すぐには言えないが、J1を相手にこれだけ勝ち続けられたのは、当初の目標の『強くなってJ1に戻る』ということが、完全ではないとしても、証明できたと思う」。J2での戦いは無駄ではなかった。それがようやく『確信』に変わった。

 来季はいきなり、ACLの戦いに挑む。フロント入りする予定の大熊監督は「強いということを証明するためにも、アジアで優勝すること目標にやってほしい」と“注文”を付けた。MF谷澤達也は「初めての大会だし、来年は監督も変わってやり方も少し変わると思う。早くチームがまとまるようなサッカーをしていきたい」。森重は「自分たちのサッカーを大切にしてアジアでも戦えば、勝ち残っていけると思う」と意気込んだ。たくましく生まれ変わったエリート軍団は来季、J1とアジアの両方の舞台で、その成果を試す。2012年は“真に強いFC東京”を表現するつもりだ。

(取材・文 近藤安弘)

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