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青赤10番から水戸を経て…看護助手との二束のわらじ、VONDS市原MF二瓶翼

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[8.27 天皇杯1回戦 VONDS市原1-2東京V 味フィ西]

 誰よりも楽しそうに90分間を戦っていた。倒れてもすぐに起き上がり、またボールを追う。かつて自分がいたJ2というカテゴリーの相手を前に、挑戦心に火がついた。終わってみればVONDS市原東京ヴェルディに1-2で敗戦。天皇杯1回戦敗退となったものの、MF二瓶翼は意地の1点を決めるなど、爪痕を残した。

 かつてFC東京U-18で10番を背負った二瓶。2013年には“高卒”で水戸ホーリーホックへ入団するも、契約満了により2シーズンで退団。2015年からは関東1部の市原に所属している。かつてはJリーガーとしての日々を過ごしていたが、今では看護助手とサッカー選手という二束のわらじを履く。

 市原では毎日10時から練習を行い、昼食を食べた後に各々が仕事へ向かう。二瓶は13時半から約18時まで医療法人社団緑祐会・永野病院で看護助手として働いている。「自分の仕事は看護助手といって、介護士のような感じの仕事。トイレを介助したり、オムツを交換したり、お風呂に入れてあげたりしています」。

 “社会人”として仕事を始めた当初は戸惑いもあったといい、「最初はにおいなどの抵抗もあったし、色々と衝撃でした」と素直に明かす。それでも「段々とおじいちゃんやおばあちゃんに愛着が沸いてきて。今ではオムツを替えるときは“しちゃったの~?”“早く替えようね~”という感じになってます」とやさしく微笑んだ。

 サッカーだけに取り組む毎日から、約2年で立場は大きく変化した。それでも21歳のMFは「見据えているところは変わっていないので。どのカテゴリーにいても、自分を見失わずにサッカーと向き合うことが大事なことだと思う」と言う。

 仕事をする時間ができたことで、よりピッチへいる時間を尊く感じ、サッカーへの愛情はより深くなった。当たり前だったサッカーだけをする日々に訪れた変化。それは自身がどれだけ、真摯にサッカーへ取り組めるかを問うものでもあった。自分を見失わない覚悟は二瓶を内側から強くした。

 そして迎えた天皇杯。関東1部所属の市原は千葉代表としてJ2クラブと戦うことになった。かつて自身がいたカテゴリーのチームとの“再戦”。「カテゴリーは(東京Vが)遥かに上。僕らは失うものがなかったからチャレンジャー精神を忘れずにどんどんやろうと挑みました」。

 試合前のロッカールーム。外から漏れ聞こえてきた選手紹介で市原の選手の名が呼ばれていくなか、二瓶のときだけブーイングが聞こえた。かつてFC東京U-18の一員として、青赤の10番を背負い、東京のライバルとしてピッチへ立っていたMFへ、東京Vサポーターからの“歓迎の声”だった。

「俺の時だけブーイングがあって、なんでかなと思ったんですけど。多分ユース時代にFC東京だったから、ヴェルディとの関係性からブーイングになったのかなって。でも逆にわくわくというかやる気が出ましたね」

 2列目右サイドへ入っては幾度もドリブルで仕掛けたは存在感をみせた。なかでも目立っていたのは、相手左SBの安在和樹との攻防。同学年でユース時代からマッチアップすることも多かった二人は、熱くやりあった。両者がもつれて倒れこみ、安在が二瓶を起こすシーンもあった。

 安在が「対峙することは多かったから、負けたくないなと思ってやりました」と言えば、二瓶は「そりゃあもう気にしましたよ」と言う。二瓶が水戸在籍時に出場した東京V戦は、2013年6月8日の1試合のみ。後半31分からの出場だった。当時、安在は出場していなかったため、二人はユース時以来にピッチで再会した。

 何度もドリブルで仕掛けては東京V守備陣を翻弄した二瓶だが、安在とマッチアップしたシーンではかわすことができずに止められた。東京Vの6番が「自分が対峙したときは抜かれることはなかったけれど、他の人はよく抜いていたし、やっぱり脅威だなと思いました」とJ2戦士としてのプライドをのぞかせつつ話せば、二瓶は「ユースのときからマッチアップしていましたけど、相変わらず口も達者ですし、厄介な男でした」と笑った。

 ともにマッチアップして「楽しかった」と少し感慨深げに言い、安在は「自分はがんがん潰しにいっていたので。でも相手のキーマンだし、潰していかないといけないと思って。そこは楽しみました」としたり顔。

 二瓶は「やっぱり元々自分がいたカテゴリーだったので、チャンスだなと思いましたし、顔見知りがいっぱいで楽しかったです」と言い、「(東京Vは)変わっていないなと。ずる賢い感じがヴェルディらしくて、本当に変わっていなくて、嬉しかったです」とかつてのライバルチームとの邂逅を喜んでいた。

 この日の二瓶は0-2の後半12分には得点も記録。FW柏瀬暁が仕掛けてのボールを受けると、前進して右足シュート。豪快なミドルシュートはクロスバーの内側を叩き、大きくワンバウンド。跳ね上がったボールはゴールネットを突き上げた。

 強烈な一撃だったが、市原で戦う15番は「得意なプレーのひとつがミドルシュート。打てるときはどんどん打っていこうと。あの一瞬だけタイミングがあったので、一か八か打ってみようと。しっかり当たってくれて良かったです。普通に打って、何も意識してないですけど、あれ(あの球威)なんです」と言うと、シュート威力の“秘訣”は「足の短さが……多分それかな?」と茶目っ気たっぷりに話した。

 「このチームに入ったからこそ、上にあげないといけないという責任がある」とかつてJ2で戦ったMFは言う。「これからも常に全力で取り組んでいきたい。結果的に負けてしまったけれど、内容は自信が持てるものでした。これをJFL昇格につなげていきたい」。

 J2相手の90分間で得た自信を胸に、二瓶は市原の“キーマン”として戦い続ける。サッカーへのぶれない想いと真摯な姿勢を貫き、どこにいても、いつまでも、挑戦者として戦う。誰よりも楽しそうにボールを追い続ける先に、刺激的な未来はやってくる。

(取材・文 片岡涼)
●第96回天皇杯特設ページ

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