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[選手権予選]桐光学園、夏に急死したチームメイトに捧ぐ神奈川3連覇

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[11.9 全国高校選手権神奈川県予選決勝 桐光学園1-0座間 ニッパ球]

 第92回全国高校サッカー選手権神奈川県予選は9日、ニッパツ三ツ沢球技場で決勝を行い、2連覇中の桐光学園が3年ぶり2回目の全国出場を目指す座間に1-0で競り勝ち、3大会連続8回目の全国選手権出場を決めた。

 前半5分にDF杉本大斗(3年)、同11分にMF池田友樹(2年)が果敢にミドルシュートを放つなど立ち上がりから攻め込む桐光学園は前半27分、MF蔭山裕之(3年)のスルーパスに抜け出したFW植木隆之輔(3年)が右足でシュート。鮮やかにゴール左隅にねじ込み、先制点を奪った。

 1点を追う座間は何とか反撃を狙うも、2試合連続無失点中の桐光学園守備陣を攻めあぐねた。後半12分にはFW三木孔徳(3年)に代えて、2戦連発中のFW赤塩和哉(3年)を投入。攻勢を強めたが、桐光学園はDF中島駿(3年)が再三、鋭いスライディングタックルでボールを奪うなど、ハードな好守備で反撃を跳ね返した。

 終盤には座間が猛攻を仕掛け、何度となくセットプレーのチャンスをつかむが、1点が遠い。後半39分には途中出場のMF舛元桂樹(3年)のロングスローからこぼれ球をDF工藤将平(3年)が狙ったが、GK白坂楓馬(2年)が好セーブ。最後まで激しい攻防が繰り広げられたが、アディショナルタイム3分間でも同点ゴールは生まれず、桐光学園が1-0で逃げ切った。

 タイムアップの笛がピッチ上に鳴り響くと、両腕を高々と天に突き上げるチームメイトの横で、決勝点を決めた植木は両手で顔を覆い、涙を浮かべていた。「この1年間、いろんなことがあった。つらいこともあったし、いろんなことを思い出したら、結果が出たことがうれしくて……。夏に一人チームメイトを失って、あいつのためにもやらないといけないと思っていた」。天国のチームメイトに捧げる3連覇だった。

 今年8月16日、3年生だったFW大西健太くんが病気のため急死した。突如、病に倒れ、入院していたチームメイトの早すぎる死。石川県内で大会に参加していたチームは急きょ合宿を切り上げ、病院へ急行した。キャプテンのGK長津大裕(3年)は「なんでこんなことが起きるのか、悲しいというより悔しい気持ちだった」と当時を振り返る。「あいつを絶対に全国に連れて行く。みんなの強い意志が固まった」。悲しみをこらえ、サッカーに励み、激戦の神奈川予選を勝ち上がった。

 ベンチには大西くんの付けていた19番のユニフォームと写真が飾られていた。「僕の半分も生きていない17歳、18歳の子供たちにとっては本当につらい経験だったと思うし、いろんな葛藤があったと思う。今もまだ乗り越えてはいないと思うけど、それでも、そのあともブレずにやってきてくれた」。2連覇中のチームを今年から引き継いだ就任1年目の鈴木勝大監督は、頼もしい教え子たちに感謝した。

 昨年度の全国高校選手権では、MF中村俊輔(横浜FM)を擁した96年度大会以来、16大会ぶりのベスト4進出を果たした。U-18日本代表DF諸石健太(現・関西大)やMF松井修平(現・同志社大)らタレントを擁した前年のチームと比べ、「スーパーな代表クラスの選手はいないが、全員が攻守にハードワークできるのがこのチームの良さ」と鈴木監督は言う。「日本一、切り替えの速いチームを目指してやっている。その精度をさらに上げて、冬に結果を出せれば」。突出した個はいなくても、走力とチーム力で補うだけのトレーニングを積んできた自負がある。

 負傷のため白坂に正GKを譲り、ベンチから試合を見守ったキャプテンの長津は、3戦連続無失点に抑えたライバルの存在に刺激を受けながら、開幕まで2か月を切った全国選手権に向け、定位置奪回を目指している。「うちはレギュラーを固定していない。コンディションのいい選手を積極的に使うのが僕の考え」という鈴木監督の下、全国大会に向けて、チーム内の競争もさらに激化するはずだ。「去年を上回る結果が出せるかどうかは、この2か月の努力次第」と長津。ここで満足はしない。今度は全国の舞台で桐光旋風を巻き起こし、天国から見守ってくれている大西くんへ次なる吉報を届けるつもりだ。

(取材・文 西山紘平)

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