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[選手権]応援メッセージ1300通、地元の後押し受ける“富山産”の富山一が全国決勝へ

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[1.11 全国高校選手権準決勝 富山一2-2(PK5-3)四日市中央工 国立]

 地元・富山からの大きな後押しの下、躍進を続ける富山一がついに全国大会決勝へ進出した。この日は主導権を握り、2度リードを奪いながらも2度同点に追いつかれる苦しい展開。試合終盤は運動量が落ち、2度の同点劇で勢いづく四日市中央工に飲み込まれかけた。それでもMF細木勇人(3年)が「最後のところで足を出せば止められると思っていたので、最後の一歩を重視してやっていました」というように、PAへボールを運ばれても相手よりも早く足を出して決定打を打たせない。そして“PK職人”GK田子真太郎(3年)のビッグセーブによってPK戦を制した。

 富山県民が富山一の躍進を後押ししている。この日、地元のテレビ局を通して寄せられた応援メッセージは何と1,300通。大塚一朗監督は「1回戦は150通来ていて、(150通の後ろにはそれぞれ)100人の人がついているよということで、15000人の人たちがオマエたちを後押ししてくれているよ、と言っていたのが、きょうの試合の前には1300通来ていて……」と感謝する。指揮官は当初、1980年レークプラシッドオリンピックでソビエトから歴史的な勝利をおさめたアイスホッケーアメリカ代表を題材とした映画、「Miracle」のワンシーンのようにメッセージを壁に貼って、選手たちにタッチさせて出陣することを考えていたようだが、あまりの多さにプラン変更。長峰俊之部長がメッセージの束を持ち、選手たちはそこにタッチして、地元からのパワーを得てからピッチへ飛び出し、そこで勝利をもぎ取ってきた。

 地元の支えを受ける富山一は登録25人中23人が富山県出身だ。前監督で長年チームを指導してきた長峰部長の方針で地元・富山や北信越出身の選手たちを大事に育ててきた。全国の強豪の中には遠方の地域から選手を受け入れているチームもある中、富山一はほぼ“富山産”の選手だけで対抗し、決勝まで勝ち上がってきた。UEFA指導者ライセンスを持つ大塚監督は説明する。「これ(富山一の決勝進出)で日本の育成というのが新たに変わっていけばなと思います。イングランドでは例えばチェルシーのアカデミーに通えるのは両親の元から1時間以内でないと入れないとか制限がある。(一方)日本では寮に詰め込んで、いい選手を集めて強くなるというのはボクはどうかなと思っていて、ボクらが良いプレーを見せて勝つことによって、地方からいい選手がたくさん出て、底辺が広がって日本代表の強化につながるんじゃないかと思っています。あるいは親元から通ってくることで人間性も育まれると思うし、地域と密着してひとりの人間、いい大人に成長させたいと思っている」。

 そして指揮官は「良い人間を育てるには教師だけでは育てられないと思う。仲間だけじゃダメだし、先生だけじゃダメだし、そこに親も関わることでひとつの人間性が育まれると思う。ヨーロッパでも親元を大事にする。日本だから違うということではないと思う。親元からいい選手が出てくることで、底辺って広がると思う」と親元、地元で成長することの重要性を訴えた。富山一が目指してきた方針、地方の、“富山産”の選手たちで日本一を掴むことができるか。MF大塚翔主将(3年)は「(準決勝突破で満足せずに)一番最後まで。意識せずに富山県代表として責任もってやっていけたらいい」。決勝では間違いなく1300通以上になるであろう応援メッセージからまた勇気を得る富山一イレブンが、富山代表として日本一に挑戦する。

(取材・文 吉田太郎)

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