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PK戦のゴールで溢れ出た涙。悔しさエネルギーに“日本一世代”となった山梨学院MF山口丈善

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延長後半、山梨学院高MF山口丈善が右足シュートを打ち込む。(写真協力=高校サッカー年鑑)

[1.11 選手権決勝 山梨学院高 2-2(PK4-2)青森山田高 埼玉]

 PK戦3人目、右足シュートを左隅へ叩き込んだ背番号18の目からは、涙が溢れ出ていた。笑顔のGK熊倉匠主将(3年)と抱擁し、センターサークルの仲間たちの下へ戻る間も止まらない涙。その胸には、これまでの思いがこみ上げてきていた。

 山梨学院高のMF山口丈善(3年)は、交代出場した県予選決勝で後半終了間際に決勝ゴール。山梨学院を3年ぶりとなる全国へ導いたMFの下にはその後、多くの祝福と全国での活躍を期待する声が届いていたのだという。

 だが、全国大会は5試合で途中出場したものの、無得点。後半19分に最初の交代カードとして投入された決勝も延長後半にシュートを放ったものの、ゴールを破ることはできなかった。その悔しさを抱いたまま臨んだPK戦。3回戦、準決勝でもPK戦のキッカーに指名されて決めている山口は、この場面でも正確なシュートを決めて見せた。

「なかなか良いプレーが大会通してできなくて、決勝でも後半から試合に出たんですけれどもなかなか良いプレーができなくて……。チームに申し訳ないという気持ちでいっぱいでPKに臨んで、決めることができたので悔しかった気持ちと、決めた嬉しさというか、色々なものが溢れてきたという感じですね」と涙の理由について説明する。

 ゴールを破ったのはPK戦だけだったかもしれない。だが、悔しさをエネルギーに変えてきたからこそ決められた一撃だった。山梨学院は山口やMF笹沼航紀(3年)、MF依田籟木(3年)らベンチにも好選手がズラリ。彼らは、プリンスリーグ関東や練習試合、また紅白戦で結果を残してもなかなか先発選手との序列を変えることができなかったのだという。

「悔しいね、何でだろうね、という1年間だった」と山口。選手権予選の活躍もインターハイの中止や個人としてなかなか出場時間を増やせない悔しさが原動力だった。山口は予選初戦で2得点を決めると、準々決勝では0-0から山口投入後に3得点が生まれ、決勝はわずか5分間の出場で優勝ゴール。また、三菱養和SC調布ジュニアユース出身の山口はプリンスリーグ関東でも、昇格を見送られた三菱養和SCユースや帝京高に「山梨来たのに、東京のやつに負けられない」の思いをぶつけて勝利している。

 自分自身に足りないものがあったことも確かだ。悔しい思いを練習中に吐き出してしまうことも。その分、努力で負ける訳にはいかない。いつピッチに立っても輝けるように準備を続けてきた。

 迎えた最後の選手権。チーム事情もあってベンチスタートの立場は変わらなかったが、自分のことよりも仲間たちと一緒に勝つことだけを考えていた。全国大会で目立っていたのが、山口含めて山梨学院の控え選手たちの声。それぞれ思いはあったが、意識したのは「チーム一丸」。副審から注意されたこともあるという声は、決勝でもマスク越しにピッチの選手たちを勇気づけていた。

「本戦の途中も、『この3年間が報われるか分からないけれど、絶対に優勝して報われたと言いたいね』と。『辛いことばっかりだったけれど日本一の代で終われれば良いよね』という気持ちで本当に意地でも日本一は取りたかったですね」。やはり、自分のプレーに満足はしていない。それでも、山口にとって悔しさは仲間たちとともに日本一を勝ち取る力になった。

「悔しさがあれば、そのままバネにできる感じがありますね、自分は」。その山口は秋の公式戦前日、当日も深夜まで受験勉強をしてAO入試で大学合格。今冬の自分に対する悔しさ、そして日本一の経験を持って、次は大学サッカーでの目標に挑戦する。 

PK戦3人目、ゴールを破ったMF山口丈善がGK熊倉と涙の抱擁。(写真協力=高校サッカー年鑑)

(取材・文 吉田太郎)

(※山梨学院高の協力により、リモート取材をさせて頂いています)
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