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日章学園の奮戦実らず。夏の全国王者・前橋育英は苦しみながらも逆転勝利で夏冬二冠の「第一関門」を突破!

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前橋育英高は苦しみながら初戦突破!

[12.29 全国高校選手権1回戦 前橋育英高 2-1 日章学園高 NACK5スタジアム大宮]

 どうしても周囲の「インターハイ王者だ」という視線は免れない。目指すのは夏冬二冠。もう掛かってくるプレッシャーは楽しもうと決めている。それでも、初戦はとにかく難しい。わかってはいたものの、やはり初戦はとにかく難しいものだ。

「初戦は物凄く大事だと。そんなたやすい相手でもないので、気を引き締めていくぞとはずっと言い続けてきたんですけど、次に繋げられたので、本当に良かったですよね。これで負けていたら次がないので、よく反省して、次に臨めることが本当にありがたいです」(前橋育英高・山田耕介監督)。

 苦しんで、苦しんで、ようやく潜り抜けた日本一への“第一関門”。第101回全国高校サッカー選手権1回戦が29日に行われ、夏の全国王者・前橋育英高(群馬)と日章学園高(宮崎)が対峙した一戦は、後半に入って日章学園がFW石崎祥摩(3年)のゴールで先制したものの、前橋育英はFW高足善(3年)が同点弾を叩き込むと、37分に途中出場のMF山田皓生(3年)が奪ったゴールで逆転勝ち。辛くも2回戦へと進出している。

 最初の決定機は前半5分の前橋育英。高い位置で前を向いたFW小池直矢(3年)のシュートがDFに当たると、こぼれに反応した高足がエリア内へ飛び込み、日章学園のGK小林俊雅(3年)がファインセーブでストップしたものの、まずは惜しいチャンスを創出。「前半に硬くなるのはみんなわかっていたので、『うまく行けばラッキーぐらいのメンタルでやっていこう』という話はしていた」とキャプテンのMF徳永涼(3年)も話したように、ボールを丁寧に動かしながら、少しずつギアを上げていく。

 18分には高足、DF山内恭輔(3年)、MF大久保帆人(3年)とスムーズにボールが動き、MF根津元輝(3年)が狙ったミドルは枠の上へ。26分にも決定的なシーン。高足とのワンツーで右サイドを抜け出したMF青柳龍次郎(3年)のシュートは小林がファインセーブで凌ぎ、詰めた大久保のシュートは枠を捉えるも、「自分が1年間チームを引っ張ってきて、自分が引いた抽選でこの舞台を作ったので、今日は決勝戦のつもりで挑んでいくとみんなで話していた」という日章学園のキャプテンを託されたDF工藤珠凜(3年)が決死のクリア。失点は許さない。

 34分。日章学園にチャンス到来。MF松下貴要(3年)の右から上げたクロスに、ファーへ走り込んだMF高岡伶颯(1年)がシュートを枠に収め、ここは前橋育英GK雨野颯真(2年)がファインセーブで応酬。37分。高い位置でボールを奪い切ったFW篠田星凪(2年)はGKの位置を確認すると、30mミドルにトライ。ゴールに向かったボールはクロスバーを叩いて真下に落下。ゴールは認められなかったものの、「いつもだったらああいうところからのシュートは見られないんですけど、そういうチャンスができたのは、『みんなノっているな』とプラスに考えていました」とは工藤。前半はスコアレスで40分間が終了する。

 試合が動いたのは後半10分だった。右サイドで松下が粘って獲得したFK。キッカーを務める宮崎内定のMF金川羅彌(3年)が鋭く蹴り込んだボールに、石崎が頭で合わせた軌道はゴールネットへ到達する。「そもそも自分たちが何もできないという考えはなくて、互角かそれ以上にやれるという自信を持って挑んだので、そこは準備してきたモノが出せたのだと思います」(工藤)。1-0。日章学園が1点のリードを奪ってみせる。

 追い掛ける展開となった前橋育英だったが、「『ここからだ』という声は掛けましたけど、そこまでメンタル的に落ちる時間でもなかったですし、内容をとっても全然やれる感じはしていたので、そんなに心配はしていなかったです」と徳永。今季はプレミアリーグで難しい試合も経験してきたタイガー軍団は、したたかだった。

 19分。中盤で巧みに前へ運んだ徳永が縦パスを打ち込むと、小池がヒールでフリックしたボールは10番の足元へ届く。「前半からずっと外していましたし、自分が決めるしかないと思って、足を振りました」。高足の豪快なシュートがニアサイドのゴールネットへ突き刺さる。1-1。スコアは振り出しに引き戻される。

 勝ち越しを狙ってアクセルを踏み込む前橋育英に対し、「勝ちだけにこだわるプランで自分たちはやっていたので、押しこまれることはわかっていましたし、ゴール前の際になる部分だけやらせなければいいという共通認識を持ってやっていました」と工藤が話したように、日章学園は粘り強い守備を継続させる。終盤には大黒柱の工藤が想定外の負傷交代を強いられたが、ベンチはすかさず5-4-1にシフト。5バックの中央に入ったDF新穂海斗(3年)を中心に、選手たちの意識は統一されていた。

 勝負を決めたのは夏の日本一を知る“ジョーカー”だった。37分。青柳が前へと運び、高足と小池を経由したボールは、再び青柳の元へ。シュート気味に中央へ送り込んだ軌道へ、3分前に投入されたばかりの17番が飛び込んでいく。

「皓生は最後の最後に決定力を期待して出しました」と山田耕介監督も会心の笑顔。「そのまま入るかなと思ったんですけど、自分も夢中で飛び込んでやろうと思って触った感じでした。夏以降は途中出場が多くなって、出場時間が短い中でゴールというところやいっぱい走るところが大事だと思うので、そういうところを意識して、『途中からでも自分がやってやろう』という気持ちでゲームに臨んでいます」と口にした山田の劇的な決勝弾で、前橋育英が苦しんだ末に2回戦へと駒を進める結果となった。

 日章学園の奮戦が際立つ80分間だった。原啓太監督は「次に進めそうだったので、そこに進めさせてあげられなかったのは、申し訳ない気持ちでいっぱいです。組み合わせが決まってから、僕らにとってはこの試合が決勝戦のような形で、前橋育英さんの映像しかほとんど見ていなかったので、何とか少しでも食らい付いていきたかったんですけど、最終的には力の差があったのかなと思います」と話しながら、3年生の奮闘に想いを馳せ、涙を浮かべながらこうも語っている。

「真面目な子が多いので、背中で後輩たちにも伝えてくれたと思いますし、足が攣ったりしたのは最初から120パーセントでやってくれた結果で、『出し惜しみするな』という私の指示を聞いて一生懸命やってくれたので、素晴らしい3年生でした」。

 バックスタンドからは試合を通して、大きな声援がピッチに降り注がれていた。工藤もやはり涙を見せつつ、感謝の言葉を口にする。「選手権に出られる選手、出られない選手がいますけど、今年の3年生はそれぞれの立場がありながら、みんながチームのためにやってくれるので、3年生中心にチームの一体感ができたんです。本当は悔しい想いを持ちながらあそこで応援していた選手も多くいたと思うんですけど、自分もそういう選手の気持ちを1年間ないがしろにしたことはないですし、そこは1年間大事にしてきたことだったので、自分としては理想のチーム像の景色が見られたことが嬉しかったです」。

 インターハイ王者をギリギリまで追い詰めた、日章学園の健闘を称えたい。

(取材・文 土屋雅史)
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